第85話 マギネの末路
「チカはやらんの?」
ペリュさんが促すも、まだ悩んでいる様子。
「うー……絶対笑わないでね!」
「大丈夫ですよ! 笑ったらマギネがお菓子1年分進呈しますから!」
「じゃあちょっと笑ってもいいよ!」
お菓子に弱いのか。JKだもんなあ。
「じゃあ失礼しますね、ステータスオープン!」
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名前:チカ(本名:雪野左衛門尉國近)
種族:ダークドラゴン
職業:見習い商人
状態:人化中
Lv:65
HP:5200/7000
MP:600/900
筋力 :238
知力 :55
魔力 :50
器用 :45
体力 :250
素早さ:130
幸運 :35
スキル
闇属性魔法 Lv:5/10
身体強化 Lv:8/10
風属性魔法 Lv:3/10
異世界知識(日本)
闇属性ブレスLv:9/10
人化魔法
飛行 Lv:MAX
手芸
料理
接客スキル Lv:7/10
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「つっよ! あと接客スキルすごい!」
思わず叫んでしまった。
明らかにHPと筋力や素早さが人間の域を超えている。
それでいて俺が絶対習得できない接客スキルとかいう素晴らしいスキル……さすが陽キャだ……。あと料理や手芸などもこなせるならこの世界では大分便利だろうな。
「まー、ドラゴンやからな……二本足の種族とは基礎の体が違うねんな」
自分のことのように、ドヤ顔をするペリュさん。
「でもさー、可愛いほうが良かったよぉ……この名前も可愛くないしさぁ、あーしもエルフとかに生まれたかった……」
すごくわかる。俺もどんぐりとかじゃなくて正直エルフとかが良かったもん。あんまり贅沢言えないけど。
「随分と和風の名前ですね、ご両親も日本からの転生者だったんですか?」
「そうなんだけどさぁー、聞いてよキノぴ!」
チカぴさんの言うことには父親は日本の、それも江戸時代の侍であり、ドラゴンに転生しても侍の心を忘れなかったらしい。
それはいいのだが、チカぴさんの父は結婚し、妻に卵が生まれると『絶対に日本からの転生者で男!』と決めつけて、卵から生まれる前に命名式をあげてしまったのだと言う。
そうなると、ドラゴンのしきたり的に改名が難しいらしい。因みに父の名前は雪野左衛門尉國光。本当にお侍っぽい名前だ。
「うわぁ……それは……大変でしたね……」
俺にはそれしか言うことが出来なかった。キラキラネームではないが、キラキラネーム並みに本人は辛そうだな……。
「そうなんだよぉ、それであーしが生まれたらクソ親父は女だってがっかりしてるし、名前がダサいって他の人に言っても日本人じゃないとこの辛さが伝わらないしさぁー! 女の子で何が悪いんだよぉー! 女の子かわいいじゃん!」
多分男性の名前か女性の名前かも判別できないから奥さんも了承したんだろうしな……。
「ドラゴンの皆様は長生きなんですが、その分頭が硬い方も多いですからねえ……クニミツさんも、女は家で裁縫でもしてろとか私にも仰ってましたよ。まあ、勝てばなんとかなります!」
エルシーさんの言葉が地味に強い。勝ったんだろうな、実際に。
本当にチカぴさんのお父さんは絵に描いたような頑固親父らしいっぽいしさぞかし大変だったろうな。
「それで二歳の時家出して、そこからペリュぴの家でお世話になってんだよね。ほら、ドラゴンってデカくて飛べるっしょ? それだけで仕事になるからさー。それにあーし、高校で数学とか習ってたから、ペリュぴの家の即戦力になれたんだよね。事務作業でドラゴンのまま計算するの、場所が必要で大変だったから頑張って人化魔法覚えたんだー」
こんなにふわふわ軽いのに、思ったよりも苦労人だった。俺より年下で転生したのに偉い子だなあ……。
「唯一良かったのが、前世の名前もチカって名前だったから、チカって呼んでもらうことに違和感はなかったことくらいかな。あのクソオヤジ、いつか財力か筋力でぶちのめしてやるんだから!」
「頑張ってください! その際はお手伝いできることがあれば言ってください、死なない程度なら俺も協力します!」
「うん! キノぴありがと! 聞いてもらってちょっと楽になったぁー!」
ふーっと息をついたチカぴさんは、前よりも明るい顔に見えた。
「そういえば……キノぴのステータスって見てもいい奴? みたいなぁ~?」
「見せてくれるならうちも見たいわぁ、見せてくれたらうちの商品の好きなやつ進呈するで!」
二人共興味津々な顔をしている。
「エルシーさん、見せてもいいでしょうか? それに、俺も久々に自分のステータスを確認してみたいので、ついでに」
「まあ、大丈夫でしょう! ペリュさんとチカさんは言いふらしたりしないと思いますしね、マギネと違って!」
マギネ、あとでどんなお説教食らうのかな……。俺は今からちょっとだけマギネが可哀想に思えてきた。
「では、ステータスオープン!」
人化してから見るの初めてだから俺もワクワクしている。
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名前:木野草也(仮)
種族:世界樹
称号:祝福地の命名者
状態:映し身中
Lv:15
HP:250/980
MP:650000/700000
筋力 :10
知力 :45(60-25(転生補正))
魔力 :12000
器用 :25(0+25(写し身補正))
体力 :35
素早さ:15(0+15(写し身補正))
幸運 :54(4+50(転生特典))
スキル
聖属性魔法Lv:EX
地属性魔法Lv:1/10
水属性魔法Lv:2/10
風属性魔法Lv:1/10
闇属性魔法Lv:0/5
翻訳技能 Lv:EX
祝福地の契約
世界樹の誓約
異世界知識(日本)
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「魔力ありすぎない!?」
ペリュさんとチカぴさんが口を揃える。
俺もそう思う。あと地味に闇属性ルートが生えてきたな。育てていいスキルなんだろうか。
「ソウヤ様がはご成長著しいですね、素晴らしいです!」
エルシーさんがパチパチと拍手してくれる。
「ええなー、こんなに魔力有るなんて、魔法使い放題やん!」
「それが、魔力が多すぎて上手く制御できないんですよね……」
そうなのだ、まだ成功した魔法が、そよ風と、水蒸気みたいな雲と、映し身しかない。世界樹としてはしょぼしょぼすぎる。
「でも、これでも前より体力は大分ついたし、ティエライネンに行くのも問題ないと思うんです」
嬉しいのは体力がかなりついたことだ。前はHP:5/20とかだったもんな……RPGで初期に乱獲されるモンスターくらい儚かった。
このくらい体力があれば、外を出歩いてなにかあって即死、ということもないだろう。
「せやな、ついでに実家よっていきたいんやけど、ええやろか?」
「扶桑様の領地の地下ですものね、ご実家。 ティエライネンからも近いですし、チカさんのお陰で大分早くつけそうですし、大丈夫ですよ」
エルシーさんもOKしてくれたなら俺がどうこう言うことはない。
「まかせなー! チカぴさんのスーパードライブテクニック、見せてやんよ!」
張り切るチカぴさんが可愛らしかった。ドラゴンに乗るの楽しみだな。
「マギネを呼んで、ちょっとお話を聞かないといけませんね……」
とエルシーさんが言ったその時。
「おはざーっす! 若君、こっちにペリュ来てないっすかー!」
可哀想に、マギネがやってきてしまった。
「来てるよ、でもお前、タイミング悪いな」
「えっ? え? 私がなにかしたッスかね……」
マギネは本気で身に覚えのない顔をしている。
ニコニコしながらエルシーさんはマギネを裏に連行していくと、哀れなマギネの叫び声が聞こえた。
裏に行って見ると、マギネが腕に関節技をかけられている。ずっとごめんなさいを連呼しているが、エルシーさんには効いてない。関節技、怪我とかはしないらしいんだがすごく痛いらしいんだよな……。見るからに恐ろしい。
マギネのあまりの叫び声にエーリュシオンさんがやってきて事情を聞くと、ため息を付いた。
「はー、本当にアホの学者だなお前は……よし、お前が二度と同じ失敗をしないように魔法をかけてやろう。守護者、それで許してやれ」
「エーリュシオン様がそうおっしゃるなら……」
開放されたマギネは涙目で、エーリュシオンさんに膝をつき感謝をしていた。
「エーリュシオン様、有難うございます……!」
「よし、お前に世にも珍しい魔法をかけてやろう」
「マジっすか! やったー!」
エーリュシオンさんが軽く指を弾くと、光の粒が飛びマギネを薄っすらと包みこんだ。
「これ、効果はなんなんスか!」
マギネは新しい魔法に目を輝かせている。
「うんうん、僕が今考えた魔法なんだけどね。酒を飲んでみるとわかると思うぞ」
「わかりました!」
そう言って、マギネはエルシーさんに果実酒をコップに入れてもらって飲もうとすると、果実酒はふわりと一瞬で消え元の瓶に戻っていた。
数回繰り返したが結果は変わらない。無限にボトルに戻る果実酒。
「えええええええええ! お酒が! 私のお酒が!」
「強制的に酒が飲めないようにしてやったぞ。飲むと失敗するんだから、飲まなければ良い。水や茶なら飲めるから、安心しろ。そして、反省しろ」
「そんなぁああああ……新しい魔法が見れたのは嬉しいけど、あんまりッスよぉ……」
「本当は酒を飲むと吐くとかにしようと思ったが、お前ならそれでも飲みそうだからな……」
有り得るから怖いのがマギネというやつだ。
というか、毎回飲むときは吐くまで飲んでるしペナルティにもならないだろう。
涙目のマギネだったが、それでも酒を飲むことを諦めた様子もなく、たくましさに俺とエルシーさんは呆れるばかりだった。




