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元社畜、どんぐりに転生する【完結】  作者: 芥部


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第77話 夜は呪詛、月のころはさらなり



「ほぼ全滅?」

「……はい」


 俺は困惑した。これをそのままメアリーさんに伝えて良いものだろうか。ハールバルズさんの顔をちらりと見てみたが、ハールバルズさんも困惑していた。まさか、去っていった同僚ほぼ全てが死んでいるとは思わなかったのだろう。


 仕えた主をいじめ抜いた同僚とはいえ、ほぼ全員が病死しているのは流石にショックだろうな。俺も嫌な上司でも事故で入院したらちょっと可哀想だなって思ったことあるし。


「ええと、メアリーさんにはまだ伝えないでおきましょう。ティエライネンでの活動に響くと困ります。きっと今のメアリーさんなら、嫌な思い出の守護者だとしても、さすがにほぼ全員死んでいるのはショックでしょうから……」


 初対面のままのメアリーさんになら容赦なく伝えたかもしれないが、いま彼女の事情を知ってしまった以上、俺はできるだけ彼女のメンタルに配慮したい。

 ティエライネンの異常気象を回復させられるのは彼女しかいないのだから。


「他の人に話したくなるかもしれませんが、何卒秘密にしてください。メアリーさんにも、アルビオンさんにも極秘でお願いします。こちらでも引き続き調査しておきます。もう少し事情がはっきりしてからメアリーさんにお話しましょう」


 俺は言葉を選びつつハールバルズさんにお願いをした。

 他人の守護者に命令はできないもんな。そもそも、俺は自分の守護者にも命令をしたことはないんだけれど。


「若君様はお願いをなさるのですね……。畏まりました、我が姫君(プリンチペッサ)へのお心遣い、深甚より感謝致します」


 話が終わった頃、エルシーさんやエーリュシオンさん、メアリーさんが式典の会場から戻ってきた。もう日も大分落ちて、空気がひんやりとしてきた。祝福地なので、ひんやりで済んでいる。外に出れば寒いはずだ。


 晩秋独特の、そこそこ暗い夜空に、雲一つなく月と星が輝いていた。

 よく考えると、こっちの世界にも月があるんだな。たまたまかもしれないけど、なんとなく地球の日本で見る月よりも、赤くて大きい気がする。気のせいかな。地球でもたまに月が赤いときはあったけど、それより微妙に赤い気がする。


 すっかり月が上がってきた頃、ようやくペリュさんとチカぴさんがやってきた。


「来たでぇー」

「やっほーキノぴとマギぴ、そして皆、こんばんは~!」


 二人共、俺を呪いに来たと思えないほどテンションが明るい。ねえ、これから俺を呪うんだよね? それでいいの?


「こんばんは、来てくれてありがとうございます。呪い、行けそうですか?」

「正直わからんねん。世界樹相手とか、おとんでもようやらんレベルの術やしなあ」


 めっちゃ正直だな。でも絶対成功するって言って失敗されるよりは良いか。


「でも、ええ月やな、呪詛日和やで!」


 初めて聞いたわ、その日和。


「とりあえず、どんな感じで呪詛をするか、説明してくれれば俺やエーリュシオンさん、マギネも成功しやすくなる方法を考えられると思うんです。もし、儀式自体が企業秘密とかなら無理は言いませんが……」


 魔法って結構プライベートな面があるらしく、研究を論文にして発表なんてことはほとんどないらしい。


 魔法使いの死後、売りに出た研究日記なんかを競売で買い取って解読したりするのがメインストリームな魔法研究の方法の一つだという。

 なお、人間は死ぬのが早いため、人間の魔法使いの書物が一番出回っており、人間は魔法が得意な種族の一つらしい。意外だ。


 人間の魔法は力技ではなく研究と系統だった知識の産物で、魔力でなんとでもなーれ! となるエーリュシオンさんや魔族などの魔法とはまた別のものらしい。


 ちなみに聖樹族エルフは基本的に脳筋でなんでも筋肉で解決しようとする傾向があり、使う魔法もほとんど自己強化魔法。完全記憶魔法使い以外の魔法使いは少ないという。

 数少ない魔法使いの八割が攻撃魔法特化であり、その中でもポーションを専門とするマギネは異端中の異端なのだ。人間の世界にはポーション研究家も多いらしいんだが。

 これもマギネやアカシアが本の確保に必死になる理由の一つだ。


「大丈夫、問題あらへんよ。呪詛は呪霊の性能や呪具、相手のコンディションなんかによって大分変わるさかい、この儀式だけ見て真似しようとしても無理やしね。それにここにいるメンバーはそれを悪用せーへんやろ?」


 ペリュさんは明るい顔でそう言うが、うーん。性善説すぎる。

 俺自身が俺を信じきれていないので俺のことは信頼しないで欲しい。嬉しいけど。


 儀式は前回のものに比べると大分仰々しい。三段になった豪華な祭壇に生肉やイノシシの生首、香炉、数本の灯籠、謎のオブジェ……中華系ホラー映画に出てきそうな感じの祭壇だ。

 前回と違い、今回は黒絹に刺繍の入った中華風っぽいい衣装に冠をつけ、またチカぴさんもそれに似た衣装と冠をし、髪もおとなしくまとめている。借りてきた猫のようだ。


「今日はマギネはんとあと一人、出来れば二人、補助要員頼まれてくれへんか」

「何のお手伝いをすれば良いんですか?」

「あ、私、やりますー」

 とアカシアとエルシーさんがやる気を見せる。


「いやあ楽しみッスね! 若君が明日どんな姿になっているか、私は心から楽しみにしてるッス……!」


 マギネの言い方がちょっと嫌だが、俺も実際ちょっとは期待している。だって久々に人間の姿になれるかもしれないからだ。やっぱ自由自在に移動したり、飯食ったり寝転がったりできるのは楽しみだよ。


「うちが呪文唱えとる間、若君に向かって呪歌を歌って欲しいねん。歌詞を書いた紙は用意してあるで安心してや」


「うっ……。呪歌って、呪詛の歌ですよね……つまりソウヤ様を形だけでも呪う、と……」


 エルシーさんが顔を強張らせている。


「ソウヤ様の為……ソウヤ様の為……」


 ぶつぶつと数秒つぶやいて、しかし、一転。


「いくらソウヤ様のためでも、形だけだとしても、ソウヤ様を呪うのは無理ですーっ!」


「じゃあ、しゃーないな」


 あっさりとペリュさんはエルシーさんのお手伝いを諦めた。


「ほら、料理と同じや。呪いも料理も相手を思う心を込めなあかんからな」


 突っ込む気も起きないが、一理あるだろう。

 呪いに大事なのは相手に抱く気持ちなのだろうから。エルシーさんが俺を憎めないのなら無理にやらせても良い結果にならないであろう。


 というか、正直言うとそう言ってもらえたのが結構嬉しい。

 少なくとも、エルシーさんに疎まれてはいないということだからだ。嬉しみ。




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