第76話 調査報告
などと俺は宴会を面白く見ていたのだが。
後ろにススス、とアカシアがやってきて何かあったのか、珍しく念話で話しかけてきた。
『若君、ちょっと内密のお話があるんですが、エーリュシオン様にこの横のメアリー様の守護者といっしょに祝福地に入る許可をもらえるようお願いしてもらえないでしょうか』
『いいけど、なんかあったの?』
『例の宝石商の話とメアリー様の守護者の件で進展が有りました』
俺が頼んでいた件に進展があったようだ。これは是非話を聞かねばならない。
そう思った瞬間、俺達はエルシーさんの家の前に転移していた。
いきなりいる場所が変わってしまった。アカシアと、メアリーさんの守護者第二位の人が目を丸くしている。そりゃあなあ。わかるよ、その気持ち……。
「うわ!! いつも思うんですけど! 魔法を使う前には魔法を使うって教えてくれないですかね、エーリュシオンさん!」
これは毎回思っていたことなのだが、つい口に出してしまった。
「えー、なんで。面倒。君たちの要望通りにしたのにひどくない?」
「せめて念話で呼びかけてからにしてもらえませんかねえ!」
「なんでだよ」
「心の準備ってものが必要なんですよ! 見てください、あの守護者の人も心臓バクバクで息も切れ切れに胸を抑えてるじゃないですか!」
「治しとくよ」
そういった瞬間、心臓の動悸が治ったのか守護者の人の顔がまた驚きの顔になった。
言われた先から懲りない土地だな、この人も……。
「治せばいいってもんじゃないんですよ! 治す前に死んだらどうするんですか!」
「蘇生させるから良いだろ!」
「普通の人は一回も死にたくないんですよ! 死ぬのめっちゃ怖いんですよ!」
「わがままだなー!」
「わがままなのはエーリュシオンさんだって同じでしょうが!」
「なんだと、僕は原初の祝福地の精霊だぞ!」
「立場を振りかざすのがわがままって言うんですよ!」
そういった瞬間、ふっとエーリュシオンさんの顔が緩む。
「お前のそういう所、本当に扶桑に似てるな」
「えっ?」
しかし、話はそこで急に終わった。切り替えが早すぎる。
「よし、ほら守護者、僕がメアリーの契約者エーリュシオンだ。アカシアでもいいけど、調べたことを僕とこのボンクラ世界樹に教えてくれ」
そうだった。そのために俺はここに来たんだ。
沈痛な面持ちの守護者第二位のおじいさんと、アカシアが俺を見ていた。
俺は、昨日メアリーさんの守護者筆頭のアルビオンさんにお願いをしていた。メアリーさんをいじめていたという女性守護者達の現在の状況と、宝石商についての調査である。
どうやら、メアリーさんの晴れの舞台を見るという名目で、俺の頼んだそれを守護者第二位のハールバルズさんがわざわざ持ってきてくれたらしい。
そして、式典そっちのけでアカシアが公的情報について検索し、概ねのデータが出来たところで俺に声をかけたらしい。式典の記録は、記憶魔法を軽く使える知り合いに頼んだらしいが、本当は自分の目で見たかったらしい。本当にごめん。
今度なんかの式典をすることがあったらアカシアの特等席を作ってあげようと心に誓った。
アカシアは頭痛をごまかすためなのか頭に湿布のようなものを貼り付けていた。この魔法、頭への負担がすごいらしいからな……。
幸い、もうエーリュシオンさんが治したようだが、俺も治癒魔法覚えたいなあ。適性はあるはずなんだが。
「それではまず宝石商の方からご報告申し上げます」
アカシアがやや事務的に喋る一方、後ろで沈痛な面持ちをしているハールバルズさん。おじいちゃんが辛そうな顔をしてるのを見るのが辛い。
「宝石商は先週で店じまいしたとのことで帳簿の回収は叶いませんでした」
予想はしていた。メアリーさんを苦しむだけ苦しめて、足がつきそうになるか目的が果たされたから逃げたのだろう。
「また、宝石商の歴代の代表者の名前や経歴も検索した所、すべて架空の人物か他人の名義の無断使用であることが推測されました」
そんな商売してるやつが、礼儀正しく本名で商売してるわけないもんな……。
ハールバルズさんは報告が進むたび顔がどんどん曇っていく。可哀想だがメアリーさんのためなので頑張って聞いて欲しい。
「宝石商の顧客について数名の名前が確認が取れたのですが、どの顧客も病気にあって宝石を手放したり、不慮の事故で早死にしたと記録されておりますね。唯一生存してる人間族の老婆については名前と住所を調査済みにございます」
「アカシアお手柄!」
「うぇひひ……いやあ。そうでも……ありますかねぇ!」
神妙な顔だったアカシアの顔が、少し明るくなった。
暗い報告ばかりだったが、手がかりが僅かだが存在した。かといって、本当に手がかりゼロだったとしても、アカシアは褒められて然るべきだと思う。
彼女がいなければ手がかりが虚無なのか有るのかすら判別できなかったのだから。
「そして、女の守護者の人達についてわかったことはある?」
「そちらはですねえ、五名が実在しないか、限りなく非実在の名前です。聖樹族の戸籍は我らの記憶魔法で完全に管理されており、死産の子供にも名前をつけて記憶しております。その中に、聖樹族でありながら名前も存在しない、家名もない、親の名前もない、全てが記憶にない聖樹族が五名です」
アカシアも今度は渋い顔をしている。
「直属の守護者になるものは厳しく身元が調査され、親兄弟、第六親等の親戚まで詳しく調査されます。それなのに、見つからないというのがまずおかしいです」
「俺の守護者の人たちもそうなの?」
「もちろんでございます。扶桑様ご推挙とはいえ、身元の怪しいものは誰一人おりません。あのマギネだって親兄弟、そして五名の1000歳以上の聖樹族の推薦状があって若君の守護者として着任できました。私もそうです」
直属の守護者って思ったよりも狭き門だな……。でも考えてみれば、天候操作システムの管理人と思えば下手な人選は出来ない。
失敗すれば異常気象が世界を襲いかねない。そうすれば、この文明レベルの低い世界は魔王の手によらずとも崩壊の危機が訪れるだろう。
異常気象の辛さはこの数年で俺も身にしみているからな……。この数年の日本の夏は異常に暑かった。エアコン無しでは生きられないレベルだったもんな。
「そして他15名についても調査いたしました。採用時の年齢は皆150〜300歳ほど、それなのに、ほぼ全員現時点で病死しております。1名だけ行方知れずなので生死は不明ですが……これも明らかに不自然です」
世界樹に仕える聖樹族の寿命は木の側にいないものでも天寿で1000年、世界樹の側仕えともなれば2000年くらいあると言う。
それなのに、この平和な200年で疫病があったわけでもなく全員が死んでいるのは明らかに不自然なのだ。




