第75話 残念な誤解
ベリッシモと彼女が呼んでいた守護者たちも、平静を装いつつ嬉しそうな顔を隠しきれていない。
無事儀式が終わると、皆喜色を浮かべ、守護者第二位のイケオジに至っては涙を流していた。孫が成人式を迎えたおじいちゃんの気分だろうか。微笑ましい。
「それでは引き続きまして、エーリュシオン様の第一の契約者、若君ソウヤ様がティエライネンに向かうということで、お言葉をいただきたいと思います!」
エルシーさんの進行に上がる歓声。
でも所々に、「あれ? さっきのうちの若君じゃなかったの?」と話を聞いていらっしゃらない皆様のお声がちらほらとあり、ますます居づらい感じになってきた。
親友のために頑張る聖女風世界樹と、楽をすることしか考えてない元アラサーリーマン世界樹を間違えるのは止めて欲しい。
相手は良くても俺は良くないので。なんかSNSのなりすましみたいで良心が痛むんだ……。
そのうえ俺は何も言うべき言葉を用意していない。
呪いのことばっかり考えていて忘れていた。昨晩、エルシーさんに挨拶考えておいてねって言われてたのに……。
あんな立派なメアリーさんの挨拶の後に、ノープランで俺は何を語れば良いのだろう。
俺は困り果てて腕を組んで考え込み始めた。
正直流されるままに行動している自覚が俺にはある。話すことなど何一つ思いつかない。
しかし、振られたからには答えないといけないくらいの義務感は俺にもある。この集落の皆様のお世話になってこの一ヶ月半生きてきたので……。
「ええと、先程のメアリーさん……元ラ・ベッラさんのお話にも有りましたように……」
ここから言い始めたのは、先程の美しい聖女風世界樹は俺ではなく、元ラ・ベッラさんで俺とは別人である、ということを明らかにしたいからだった。
「ティエライネン王国は今大変なことになってるとお聞きしました。それをお手伝いするために近日中に俺もエーリュシオンさんとペリュ・ソレニアさんのご指導の元、ついに写し身魔法を習得して微力ながらお手伝いに行く所存です」
すると、急に場がざわめき始めた。
「えっ、普通最低でも100年くらいかからない?」
「まだ身長ほどの背丈にもなってないのに早すぎないか?」
「どんぐりから喋ってたけどもしかして世界樹じゃないのか?」
「そういえば腕を蠢かせているのを見たわ……」
うーん、ざわざわしてる方の気持ちもわかる。
あまりにも世界樹という言葉と俺という実像がかけ離れすぎているし、最初に使ってしまった成長チートやエーリュシオンさんの魔法でもうめちゃくちゃになっている自覚はある。
現実世界でいうと1歳児が就職して労働するような無茶苦茶な話で、それ故に信頼されずになにか別の生き物だと思われている気がする。
でも、俺が世界樹かどうかなんて育ってみないと自分でもわからないんだよな。でも多分世界樹……だと思う。扶桑さんを信じるしかない。
「写し身の魔法はときに数百年習得にかかる魔法と聞いていますが、この短期間で習得できる見込みなのもすべて偉大なる先達の知識と、この世界へ誘ってくれた扶桑さん、そして支えて下さる皆様のおかげです」
俺は適当に良さそうな言葉を取り繕う。
大事なのは成功したのは皆様のおかげですというスタンスを貫くことだ。
俺一人の力ではなく皆様のおかげで成長できています! と主張することで胡散臭さを緩和することができるはずだ。
高スペックで知られる扶桑さんやエーリュシオンさんの名前を借りて俺の異常さを誤魔化したい。これが正直な気持ちです。
「あ、扶桑様の関係者なんだ。道理で言葉遣いが丁寧だと思った」
「扶桑様の関係者なら大丈夫か……。」
「なんだ、闇属性化するのか思って心配したぜ、せっかくの世界樹様が減るなんてもったいないもんな」
よしよし、うまくごまかせている。
ここで驕るとろくでもないことになりそうなので、俺は前世でどうお詫びのメールを書いてたかなと思い出しつつ言葉を紡ぐ。しかし、ここまで皆に信用されている扶桑さんとは一体何者なのであろうか。今度詳しく聞いてみよう。
「これにて俺の挨拶は終わりますがこのあと、集落の長ユージェニーさんによる心ばかりの懇親会がございますのでご都合の合う皆様は是非お立ち寄りください。今日は皆様遠路はるばるお越しいただき誠にありがとうございました」
心のなかで頭を下げた。
しかし、うっかり枝が頭と腕を動かした動きをしてしまう。
その様子を見てまた皆ざわざわしていたが、
「なんか新種の魔法なんじゃね?」
「なるほど、どんぐりから喋って三ヶ月も経たずに映し身だもんな。なんか新しい魔法の結果、特殊な成長をしたのかもしれん」
「なにしろ守護者筆頭があの鬼のエルシーらしいから、礼儀作法に厳しいんじゃないか?」
「なるほど……」
よかった、皆運よく勘違いしてくれている。ありがとう。どんどん勘違いして欲しい。
しかし鬼のエルシーとは……? 俺に対してはエルシーさんはいつだって優しいのでいまいちピンとこない。
どちらかというとエーリュシオンさんのほうが鬼だと思う。しかし、これについては深く問わないでおこうと思う。藪をつついて蛇を出すとも言うし。
メアリーさんのときほどではないが、程々の拍手に恵まれ、式典っぽいものの幕は閉じた。無事終わってよかったなあ。
懇親会は俺は参加せずに祝福地に戻って休みたかったのだが「主役の一人が抜け出すなんてとんでもない!」とユージェニーさんに止められて俺も参加することになってしまう。
それなのにペリュさんとチカぴさんは夜の儀式の準備ということで泣く泣く去っていった。
「タダ酒ぇ~~~~~~!」
美しい女性の声とは思えないペリュさんの叫びが広場に響く。それを嫌そうな顔をしながらチカぴさんがたしなめているようだ。
「ほら! ペリュぴはさっさと準備しに行く! お酒飲めるくらいのお金は有るでしょ、後で飲みなよ!」
「ちゃうねん、昼からタダ酒ってのが最高やねん、それに聖樹族の果実酒って極上でな……」
「いいから! 失敗したらママぴに告げ口するよ!」
「それは嫌やけど、おとんにタダ酒飲んだって自慢したいねん」
「告げ口するわ」
「堪忍してやあああああああ」
そういってチカぴさんに引きずられていった。可哀想に……。夜にお酒でも用意しておこうかな。
懇親会とは言ったものの、要するに宴会である。
酒飲みはどんなことでも理由に酒を飲みたい生き物なのだ。でも、俺、酒飲めないんだけどね。木だから……。
前世でも酒を飲むと気が大きくなってしまうので飲まないようにしていたけども。
果実酒が樽で供され、皆がタダ酒と軽い飲食物を楽しんでいる。
その様子を俺はぼんやり眺めていた。前世での宴会はタバコ臭いし、俺は飲まないし、宴会のメシは少ないし、先輩の話を聞いてあげないといけないのがたまらなくつまらなかったのだが、今こうして気楽な立場で眺める分には案外悪くない気がする。
タバコはそもそもこの世界にないらしく、その匂いもないし、皆ちょっとごきげんになるか、てろてろに酔っ払うかくらいのもので割と平和だ。
あっ、でもマギネがまた一気飲みしてゲロ吐いてる……。
あいつには学習能力がないのか……。
頭はいいんだから、そろそろ飲みすぎるとゲロを吐くってことは覚えて欲しい。




