第73話 故(元社畜と元JK)
ペリュさんとの食事会が終わり、雑談タイムになった。
とりあえずエーリュシオンブートキャンプは無事回避成功したのがよかった。
全身が攣るミラクル体験はもう二度としたくない。太る呪いのほうがマシだと思う。多分。
「そういえば、キノぴって最近こっち来たの?」
チカさんが急に質問してきた。距離が近くてドキドキするな。色んな意味で。
「はい、一ヶ月半くらい前ですね」
「わぁー、死にたてじゃん!」
言い方がひどい。同じ境遇のJKが言うのでないと許されない言葉である。
「チカさんはいつ頃こちらに?」
「チカぴ!」
「チカぴさん」
チカさんは数秒考えていたが、納得してくれたようだ。
「……まあよし! 180年くらい前だよぉ〜。2007年だったかなぁ、交通事故にあっちゃったんだよね。学校帰りに猫ちゃんがいたから友達に写メしようと思って歩道にしゃがみ込んだらアイスバーンでスリップしたダンプが突っ込んできてねー」
「うお、痛そう……」
俺は過労死だったから事故の辛さは想像もできない。
「大丈夫大丈夫、即死で全然覚えてないから! でも不思議なことに、180年も経ってるのにあの頃のこと全然忘れられなくて。楽しかったからかなー」
「そうかもしれませんね」
「キノぴも結構声若いよね。学生? 事故? いつ頃?」
遠慮なく聞いてくるが、逆にこのくらいのほうが気楽かもしれない。下手に気を使われるよりは良いな。
「いえ……俺は普通に会社員でして……過労死ですね。令和六年の話です。」
「えっ!? 令和ってどゆこと? 平成は?」
そりゃ驚くよなあ。俺も平成が終わると決まったときは驚いたし。
「平成は30年で終わりまして、令和っていう新しい年号になったんですよ」
「平成終わったんだ〜、なんかショック……。でもキノぴ、仕事頑張ってたんだね。偉いね」
そういって、チカぴさんは俺の頭(葉)を撫でてくれた。少し恥ずかしいが、たしかに俺は仕事を頑張っていた。誰にも褒められなかったけれども、今褒められた。
頑張ったことを褒められるのは、なんだか気恥ずかしくて嬉しいものだ。
「そういえば明日、南の世界樹のお姫様のお披露目会やるんだってね」
「そうらしいですね」
「一緒にキノぴも見ようね!」
「はい、是非」
「今度また、時間あるときに日本の、平成とか令和の話しよ! 夜遅いからまたね!」
チカぴさんは、手を振って風のように去っていった。
「ソウヤ様、なんか嬉しそうですね」
「やっぱ同郷の人がいるって、いいものですね」
エルシーさんはいつだって最高だが、それとは別だ。上手く説明できないんだけど。
チカぴさんが大事だった思い出のキラキラした部分を思い出すのが楽しいのなら、それをお手伝いしてあげたいという気持ちはある。
俺にはあんまりキラキラした部分はないけど、多分ちょっと未来の話も過去の話も、お互いに楽しいだろう。
「明日はメアリー様のお披露目会と、ティエライネンに行くことを皆にお知らせする会と、夜にペリュさんに呪詛をかけてもらう儀式がありますね。少し忙しいので、ソウヤ様も早めにお休みになってくださいね」
「そういえばメアリーさんは衣装とか大丈夫なの?」
「持ってきているドレスや、リオネちゃんとかの小物を使ってどうにかするみたいですよ。私も微力ながらお手伝いしました!」
「すごい。スタイリストみたいだ。楽しみにしてますね、エルシーさん」
「はい、楽しみにしていてくださいね!」
エルシーさんがどこまでお手伝いしたのかわからないが、メアリーさんの晴れの舞台はとても楽しみだ。
いつものメンバー、集落の人に加えてペリュさんチカぴさんなど色々な人が来る。俺はおまけみたいなもんだし眺めてるだけで大丈夫だろう。
翌日、いつもより若干早めに起こされた。
世界樹関連のイベントは基本的に午前の早い時間にやるのが慣例なのだと言う。
世界樹の主食が太陽と水だし、太陽が聖なるものになる理由はちょっぴりわかる。
でも、夜型が魂に身についた俺にはちょっぴり厳しい。この数ヶ月ブラック企業の社畜であった体質が改善したのか、一日に九時間くらい寝ないと耐えられないのだ。最盛期には四時間睡眠でも快調に思えていたのは罠だったんだろうな。
会場に人が集まってきて、皆が俺に挨拶をしてくれる。俺は挨拶を返しつつ、ステージを眺めていた。
おそらくエーリュシオンさんが作ったであろうステージは白く輝き、まるで聖堂のような神々しささえ感じさせる。
残念なのは、今朝の天気が芳しいものでなく、鉛色の厚い雲が垂れ込めていることだ。俺がもっとうまく天候操作を使えたら晴れにするんだけどなあ。
壇上に黒い衣装のエルシーさんと、おそろいの雰囲気がある黒いかっこいい服をきたアルビオンさんが左右に控えている。
なんか本当に結婚式の披露宴の司会っぽくてめでたいな。
そしてそれを見守るシエラさんは最高格式であろう礼装を身に着けて、ステージを遠くに見守る場所にいた。
一応、昨日決まったことではあるのだが、それをお披露目するとなると話は別だ。
ここで何かあれば昨日までの労力がすべて無駄になる。しかし、もうこれ以上彼女と俺に出来ることはないので見守るしかない。
「皆様ご存知のこととは思いますが、先日、最古の祝福地エーリュシオン様と、二番目に若い世界樹メアリー様がご契約されました。祝福地の現地において二人は運命の出会いをし、無事聖約されたこと、心よりお祝い申し上げます。これからお二人が来場されますのでしばしお待ち下さい!」
司会のエルシーさんがそう高らかに宣言すると、一斉に参加者から盛大に拍手が湧いた。
周りに思ったよりも沢山の人がいた。一昨日御前試合があったばかりなのに、またイベントということで近隣の村から馬車や徒歩で駆けつけた人がいっぱいいるらしい。
電話もスマホもないのに情報伝達が早すぎる。魔法の連絡網みたいなものがあるのかもしれないな。
「あー、間に合った間に合った、あーし闇属性だから朝弱くてさ〜。 おはよ、キノぴ!」
チカぴさんが眠い目をこすりながら挨拶をしてくれた。最近味わってなかった爽やかな挨拶だなぁ。
大体雑な挨拶か、丁寧すぎる挨拶の二択だったから、尚更心に染みる。
「おはようございます、チカぴさん、ペリュさん」
「若君おはようさん、いやーめでたいな、でも眠くてたまらんわ……」
サングラスをした上からでも、あからさまに眠そうである。髪の毛もなんとか整えてきた感があふれている。ペリュさんも明らかに闇属性だもんな。本当にお疲れ様です。




