第72話 美容呪詛
「せやから魔族の間で一家に一箱この薬があれば、地上に行って聖属性の術師に掛かる前に手遅れになる、みたいなことが減って魔族全体の生産性も上がると思うねん」
「なるほど、ところで、薬とは関係ないんですが質問いいですか?」
「何やろか」
「太る呪詛って難しいんですか?」
「気付かれんようにやるのは難しいけど術自体は楽やで」
「逆に、やせる呪詛は……?」
「うちも出来るで。やせ細って殺す呪詛は割とメジャーな術やな。難易度は高いんやけど」
「お父様に痩せる呪詛をかけて、いい感じまで痩せたらイロイロナオールで呪詛を解呪とかって考えたんですけど、机上の空論ですかね……?」
ガタッと椅子を倒して立ち上がるペリュさん。
「若君!」
「は、はい! やっぱり机上の空論でしたかすみません!」
「ちゃう!うちら呪詛には解呪しかないと思ってたねん、呪詛に逆方向の呪詛をぶつけるなんて考えもせーへんかった、あんたは天才や!」
またガシッと枝をつかまれた。
「はよ写し身して地下に来てうちと新しい店作ろうや、覇権取れるで!」
「こら!ソレニアさんの娘でもそれは許しませんよ!」
速攻で入るエルシーさんガード。嬉しい。
「世界樹の俺がずっと地下は無理ですけど、この辺お店無いじゃないですか。必要なものは交換か行商から買う感じで。俺、店舗でもの選ぶほうが好きなんで遊びには行きたいですね……」
「絶対に来てや!歓迎するで!」
「えっ、キノぴ来るの?あーしも歓迎するよー! 一緒にお茶しよ!」
「まず成長しないと…………。──あ。」
俺は思いついてしまう。
「ペリュさん、その太る呪いって俺にかけられますか?」
「えっ、若君に!?」
「はい」
「ソウヤ様、急にどうしたんですか! 駄目ですよ!」
「いえ、理由があるんです」
俺はティエライネンに行くために急遽写し身魔法を使っても安全なサイズの木になりたい事を話した。
1日1キロと言わず20キロ位太らせてくれれば数日で写し身をしても大丈夫な質量に到達するはずだ。
「世界樹の魔法抵抗って半端ないんやけど、極力抵抗しないようにして、祝福地の精霊はんも手伝ってくれたら出来るかもしれんわ」
「解呪は自分でできますしね」
原材料がちょっと気になるけど……自分の殻を削った奴だもんなあ。慣れない。
「出来るけど準備が必要やな、明日の晩でどやろか」
「お願いします」
「僕は何をすればいいんだい、ソレニアの娘」
「儀式の時に与えてる祝福をできるだけ減らしてくれたら嬉しいんやけど」
「わかった、闇属性魔法には疎いが必要なものがあれば僕か守護者に言え。出来る限り揃えてやろう」
「それと、おとんに帰るまで運動せんといてや、最高の痩身術を開発したから帰るまでおとなしくしてやて連絡してもらえますやろか」
わかったわかった、と言いながらエーリュシオンさんは消えた。多分伝言をしに言ったのだろう。
俺以外には優しいんだよな……。
「俺にも生前母がいたんですけどね」
ふと先ほど思い出した母の思い出を何となく語る。
「すぐに『太った! 2キロネ太った!』って大騒ぎして走ったり泳いだり、家族までダイエットご飯で大変だったんですけど、痩せる呪いがあったらよかったんですかねえ。美容整形みたいで便利そうですよねー」
「あーわかるー! あーしもポイント集めるのにドーナツ食べまくったら太ってスカートきつくて大変だった〜! でもライオンかわいかったしオッケーだったけど、楽にダイエットできるならそうしたかったなー」
うーんこれはかわいいJK。ドーナツいっぱい食べさせてあげたい。
そう語った直後、ペリュさんがまた立ち上がり、叫ぶ。
「せや! これからの呪詛は美容も出来る呪詛や! 流行るで! 名付けて美容呪詛や!」
「美容呪詛」
聞き慣れない単語が爆誕している。その二つの単語くっつくことあるんだ……。
「呪詛って術者の気持ち次第でわりと自由に出来るねん。太らせるのも痩せさせるのも自由自在や」
「エステみたいなやつかな? 前世にもあったけどペリュぴの呪術ほどは効かなかったなー」
チカさんが遠くをみるような目をした。
「そういえば前世では部分痩せは不可能と言われていましたが美容呪詛ならできるんでしょうか。お腹痩せとか、腹筋に筋肉をつけるとか……」
前世、深夜の通信番組で見た、つけてるだけで腹筋が鍛えられるベルト。ちょっと魅力的ではあった。買わなかったけど試してはみたかったんだよなあ。
「出来ると思うで! 技術レベルは上がるやろけど使う魔力は少なくて済むし、かなりアリやな!」
ペリュさんはノリノリだ。
「それに禁呪やけど人を不老にする呪いもあんねん。それを肌や髪につこたらええんちゃうか……!?」
「ペリュぴ天才じゃん!」
「それやるときは是非呼んで欲しいっす!」
「マギぴダイエットすんの? 要らんくない?」
「呪詛の実演が見たいだけっす。それにしても若君は製薬だけでなく呪詛の才能まであるなんてお仕えする身としては誇らしいっすね」
「ほんま素晴らしいで若君の才能は……!」
「キノぴすごーい! マジ天才じゃん!」
JKと関西弁美女、エルフの美少女に褒められているが、呪詛の才能について褒められているので若干微妙な気持ちになり素直に喜べない。
「いやー、ええシノギが生まれた瞬間や、感動するで。若君、世界樹から足洗う時は連絡してや」
ペリュさんはしみじみしているがせめて商売と言って欲しい……。シノギって。ヤクザじゃないんだから……。
「うふふ、ソウヤ様はどんぐり時代から賢い最高の世界樹様ですからね! あげませんけど!」
微妙な気持ちにはなったが俺が褒められまくってエルシーさんが喜んだのでまぁいいか。




