第70話 竜との遭遇
日が落ちて、ペリュさんがやってきた。
何故かマギネと、ドラゴンといっしょに。
何回も見直してみたが、本当に本物のドラゴンだ。恐竜やトカゲではない。翼も有り牙もあり、角もある。すごくかっこいい。かっこいいが怖い。
ドラゴンというと俺を食べるイメージしかないのでドキドキしてしまう。大丈夫とは思うが……。
「エーリュシオンさん、こちらのドラゴンの方は……?」
ワイバーンに捕食されかけた経験のある俺は思わず身構えてしまう。食われたら溜まったものじゃない。
「そいつは大丈夫だ、そいつもエルシーの仲間の娘だよ」
「そ、そうなんですか……」
一応安心したが、まだ心臓がドキドキしている気がする。
「マギネはなんでここにいるんだ、と思ったけどイロイロナオール錠EXを作ったのもマギネだもんな……」
「そうっすよ!」
「でもお前NDAを護れなさそうな顔してるんだよな……」
「そんなことないっすよ、バリバリ護るっす」
マギネは俺のうっかりした言葉に返すが、そもそもこいつ絶対NDA(秘密保持契約)のこと知らんだろ。適当にもほどがある。絶対護れないやつだなこれは。
「こちらの素敵なミッドナイトブルーの鱗の方はペリュさんのお連れの方ですか?」
ドラゴンは静かに頷いた。護衛のドラゴンさんだろうか。黒にも見えるミッドナイトブルーの鱗に、真鍮色の角。おしゃれな配色だが強そうだ。
「せやで、かっこええやろ?」
「本当にドラゴンっているんですね、すごくかっこいいです」
いるとは聞いてたけど、実物を見ると感動もひとしおだ。
『エルシーさん、このドラゴンさんのお食事大丈夫ですか』
『とりあえずお菓子を出して様子を見ますね、あの方のお父様はお酒さえ出せばいい感じの方だったんですが、娘さんはどうかわからないので……』
急な変更でごめんなさいエルシーさん。お手数をおかけします……。
お供の人がいるとか想定してしかるべきだった。失敗だ……。
「うわ!」
ちょっと俺が落ち込んでいるとエーリュシオンさんの手による夜のお茶会の準備が一瞬にして完成した。
「こんなもんでいいか?」
「有難うございます! すごい、俺の思ってたやつよりも綺麗です!」
先ほど、俺のイメージを読み取ってもらったのだ。前世で見た記憶のあるカフェの内装をイメージして、俺の前にテーブルや椅子、テーブルクロス、照明、観葉植物などを配置してもらった。
空中にイルミネーションライトなどを置いて、出来るだけ暗さと仄かな明るさを雰囲気として楽しめるようにしてある。
会社の前にあるおしゃれカフェ、入りづらかったけどコーヒーとドーナツが美味しくて、たまにテイクアウトで買うのが楽しみだったんだよなぁ。あのドーナツ、また食べたいな。
準備が整ったので、全員に入ってきてもらった。
「若君なんすかこれ! おしゃれな飾りっすねー!」
マギネが魔法で作ったLED風間接照明に感動してくれている。
「お邪魔しまーす。……偉いシュッとした食卓やなあ」
「ほんとー! なんかめっちゃイケてるー!」
あれ、ペリュさんは思ってた通りの反応だが、お供のドラゴンさんの反応が激軽だな。しかも女の子っぽい。とりあえず、こちらから挨拶しておこう。
「皆様ようこそおいでくださいました、世界樹の木野草也と申します。若輩の身ですが何卒よろしくおねがいしますね」
俺は頭を下げた(気持ちにになる)。
「あっれー、世界樹の若君ってもしかして日本の人ぉー?」
ドラゴンさんがいきなりの質問。
「はい、そうですが……」
「じゃあ、見せたげるね! あたしの真の姿!」
ドラゴンさんからブワッと黒い魔力が湧き上がり、闇が彼女を包み隠し、その闇は一瞬で消えた。消えた跡に立っていたのは……女子高生である。多分。
「あーしはダークドラゴンのチカだよ! あーしも日本から転生してきたの。チカぴって呼んでね!」
黒髪ロングに、制服のブラウスにリボン、ベストを着て短いプリーツスカートを履いて、伝説のルーズソックスとローファー。紛うことなきギャルJKだ。
ただ、頭にドラゴンのときと同じ角が生えており、角にはジャラジャラとストラップがぶら下がっていた。
「俺、ルーズソックス初めて見ましたよ、お似合いですね。角のマスコットも可愛いと思います。猫のやつ覚えてます、懐かしいですねぇ」
「マジぃー? 頑張って手作りしたんだよぉ。わかってくれて超うれし~!」
チカさんは喜んでいるようで何よりだ。
「とりあえず、食事にしましょうか。エルシーさん、準備をお願いします」
「はーい、皆、少し待っててくださいね!」
テーブルの上に、お酒やお茶、そしてどんぐり汁。お菓子に夕食の皿などが並ぶ。久々に賑やかな食卓だ。ちょっと嬉しい。
「若君、人化しないんか?」
「人化するための特訓をエーリュシオンさんにこれからしてもらうところで……」
「なるほど、それは大変やねえ。世界樹は育つの遅いていうもんなあ」
「ドラゴンとかだと人化楽そうですねえ」
「うん! あーしは3歳のときにはもう出来るようになったからね!」
それでも3年かかってるんだ。それを一週間ってあまりにも無理がないか?
そんな感じで雑談を挟み、交流を深めながら食事は終了した。幸い、お菓子も料理も好評をいただいた。料理は肉料理かと思いきやサラダなどがメインだった。
魔族の住む地下世界では普段新鮮な野菜が食べられないので、ごちそうなのだと言う。祝福地産の野菜なので寄生虫とかも大丈夫だろう。
喜んでもらえてよかった。
「そういえば。イロイロナオール錠の話でしたね」
「せやねん! あれ色々実験したんやけどほんまごっつい薬やな!」
「実験……?」
不穏な話始まったな。実験とは一体……。
「そうなんすよ、若君! ペリュさんがこれ本当に効くか実験したい!っていうから、お互いに呪詛かけあって実験したんっすよ! 楽しかったっす!」
「キャハハハハ、呪詛の掛け合いマジうけるー!」
俺とエルシーさんは神妙な顔をして見つめ合う。呪詛ってかけあって笑うものだっけ? 水やビールじゃあるまいし……。
「呪詛なんて使えたのか、マギネ」
「いや、昨日始めて使ったッスね。ペリュさんが優しく教えてくれたんすよ」
こっそりステータスを見るとマギネのステータスに闇属性魔法:Lv4/5って表示が増えていた。
覚えてすぐそんなにレベル上がったのかよ……。
「せやねん、マギネはんめっちゃ覚えるの早くてビックリしたわ。うちの部族に欲しい人材やねえ。魔族の魔法専門家ともいい勝負になると思うで」
「うん、駄目です」
「若君はシブチンやなあ」
それでなくても何するかわからない奴に変なこと教えないで欲しい。それはそれとして、マギネは必要なのであげません。




