第67話 祝福の余波
改めて両膝を付き、祈るような姿勢で頭を垂れるシエラさんにエーリュシオンさんはまた祝福を与える。キラキラと星がまたたいて消えるようなエフェクトが掛かっていってとても綺麗だ。
なんで人の祝福は丁寧にやるのに、俺のときの対応だけ手を抜くんだろう。解せない。
「シエラと言ったか、多分お前、これから忙しくなるだろうから祝福をしておいたぞ。病魔と疲れがお前を避けていくタイプのやつだ。でも睡眠はちゃんと取るように」
「は……はい!! 感謝いたします! すごい! 三徹の疲れが嘘みたい! もう一晩行けそう!」
シエラさんが狂喜乱舞している。あ、この人限界社畜タイプなのかな……。
「だから! 夜は! 寝ろ!」
「あっ、えっと、はい! 今日は寝ます! 仕事終わったら寝ます! 仕事持ってきたのでそれが終わったら!」
「仕事は適当に置いといて寝ろ!! 人間はそんなんだから短命なんだぞ!」
エーリュシオンさんがまたキレながら事実陳列罪してる……。可哀想だから辞めてあげて欲しい。
「短い人生でもやらないといけないことは待ってくれないんですぅ~!」
「死んだら元も子もあるかこの仕事中毒者が!!」
シエラさん、最初は緊張していたのになんか素が出てきてる気がする。それに合わせて、エーリュシオンさんもどんどん素に戻ってきている。
これ以上エーリュシオンさんが外面を取り付くわなくなると俺みたいな雑な扱いが待ってるということを、後で教えてあげよう……。
と思ったときだった。
「エーリュシオン様、幕の外に大量の人が!」
エルシーさんが叫んだ。
そうだった。謎の発光で人が集まらないわけがない。
防音、防魔力の結界と目隠しの幕のせいで全然気が付かなかったがあんなど派手な魔法があって誰も気が付かないわけないもんな。祝福地の中でやれば皆気が付かないけど、集落の広場の特設会場だもんなあ、ここ……。
「守護者、ちょっと散らしてこい! まだ話が終わってない!」
「承知しました!」
エルシーさんは天幕の外に出るとなにか叫んでいるようだったがまだ皆何が起こったのか知りたがっているようだ。
「メアリー、まだお前の守護者はここにいるか?」
「ええ、マギネさんという方に呪いを判断する試液の使い方を教えてもらいに……」
と言っていると。
「若君ぃいいいいいいい! なんで面白いことするのに私をハブるんすかああああああ!」
こういうときだけ謎の直感の働くマギネが入口の隙間から無理やり侵入しようとしている。いや、そもそもこの派手さで気づかないわけがなかったな……。
「こら! マギネ! 大人しくしてなさい! 後で話すから!」
「いーやーでーすー! 魔法みーたーいーーーーーー!」
「木野、お前のところの学者便利だがアホだな、僕はこれからはアイツのことアホの方の学者って呼ぶことにした」
エーリュシオンさんが呆れたように目を閉じため息を付くと、マギネは一瞬で白目をむいて気絶した。
ぎょっとして俺がエーリュシオンさんを見るとやれやれという顔をしてみせた。
「僕はただ魔力をゼロにしただけだ。傷はつけてないよ」
「ひえ……」
シエラさんが怯えた声を上げる。
殴って気絶させるのもどうかと思うが、魔力をゼロにするというのは、MPを0にすることだろう。それはそれでエグいような気もする……。
MPってさ、色々観察してみた結果なんだけど多くても1時間に1~5%しか回復しない。だからフルチャージするのに何もしない時間が最低でも20時間くらい必要になる。
MPの限界値が多い人だと回復の絶対量は多いが、限界値が多すぎるためにフルチャージするのに一週間とかかかる。
マギネはその一週間の方の人間だ。可哀想だが自業自得ではある。
因みに俺はもっと容量があるので自然回復だと一ヶ月くらいかかる計算だ。あまりエーリュシオンさんを怒らせないようにしよう……。
白目をむいて気絶しているマギネを見たシエラさんが、恐怖におののく顔で呟く。
「私、今日、絶対早寝します……」
俺もそれが良いと思います。
その後、マギネがアルビオンさんへの説明が終わらないのに走っていったらしく、それについてきたアルビオンさんが入ってきて、さらに話が進む。
そして、メアリーさんがエーリュシオンさんと契約したことを告げると、アルビオンさんはメアリーさんのまえに跪いた。
その目尻には涙が浮かんでいた。
「おめでとうございます、メアリー様。色々ありましたが、我々は貴女は最高の世界樹であると存じておりました。祝福地の御身エーリュシオン様に認められるほどの世界樹になられて、本当に嬉しく思っております。守護者を代表してお祝い申し上げます」
勝手に契約したと言っても過言ではないのにアルビオンさんは怒るどころか喜んですらいた。
心が広いな。俺だったらパニックになってるかもしれん。
「今まで至らない私についてきてくれてありがとう、でも、これからもっと忙しくなるの。ミルラを助けるために、ティエライネンでも魔法を使うわ。あなた達も大変になると思う。それでも、私についてきてくれる?」
「もちろんでございます。命尽きるまでお仕えすると誓っておりますれば」
本当に、聖樹族の守護者って忠誠心高いなあ……。
俺なら絶対途中で諦めて退職しちゃう……。今日のメアリーさんならともかく、昨日のラ・ベッラさんに200年仕えるのはあまりに無理だ。
アルビオンさんとシエラさん、メアリーさん、エーリュシオンさんの四人で改めてティエライネンをどう回復するかの会議を行うことにしたらしい。
無事話がまとまってよかった。正直俺はやることがないのでお留守番だろう。というか、そもそも写し身できなくて移動できないし。
「よーし、じゃあ俺は皆をここから見守る係ですね! 戻って来るまでに10センチくらい成長しときます!」
と適当なことをいった所。
「ん? 木野、何言ってるんだ? お前もティエライネンに行くんだぞ?」
エーリュシオンさんの爆弾発言に、俺とエルシーさんはポカーンと口を開いた。
「えっ?」
一体、なんで?
急な無茶振りにエルシーさん以下、幕の中にいる全員が驚きを込めて俺とエーリュシオンさんを注視している。
「ティエライネンに行くっていっても俺、ここから移動できないじゃないですか」
俺は一メートルちょっととは言え木である。
その上、実は根は木の高さより遥か深く、数十メートルに達して地脈にも接続している。それを引っこ抜いて持ち運ぶのは非現実的と言わざるを得ない。
写し身と言われる本体の魂を現実化する魔法はあるものの、それは自分の質量の範囲でしか現実化できない。
今の俺がその魔法を使っても小さな体になるか、大きくて中身のない体になるかの二択であると聞いた。
「写し身を使え、写し身を。僕が教えてやる」
「でも俺の質量で写し身は辞めたほうが良いってメアリーさんに聞いたんですけど」
「その大きさで写し身を使うと危ないと思います……」
メアリーさんも同意してくれた。
「でも、そうしたら誰がミルラの呪いを解くんだ? 僕は行けないし、呪いがあるかどうかを見極められるのはお前だけだろ。メアリーじゃ無理だ。解くのは誰かにやらせるとしても」
そういえばそうだ。それを鑑別できるのは今のところ俺だけだった。エーリュシオンさんも出来るかもしれないが。とはいえ、俺が鑑別できるのは扶桑さんの枝のおかげなので、アイテム依存である。一応俺の持ち物だけど、貸出とかしちゃ駄目なのかな……。
メアリーさんが困った顔になった。友達であるミルラは助けたいが、さりとて俺が死ぬ危険があるのも嫌な気分になるだろう。二つを天秤にかけて悩み始めているようだ。
「そうですけど、小人になってワイバーンに襲われて食われたり、風船おじさんになって空を飛んで行方知れずはちょっと嫌なんですよねえ」
「何だ、そんなことか。その点については僕に考えがある。なに、今すぐ行けというわけじゃない」
俺はホッとする。来春とか来年とか、再来年の話なのかな。
「一週間でお前を育て上げてやる」
え?
どういうこと?




