第64話 使者との対面
エーリュシオンさんとマギネにアルビオンさんへの事を引き継ぎ、俺は次のティエライネン王国の使者と対面する準備をしていた。
エーリュシオンさん的に祝福地に人間をいれるのは少し不安とのことで、屋外に防音防魔力効果のある特設会場を設営してもらえた。やっぱこの前のことで若干ピリピリしてるよなエーリュシオンさん。
俺は人間全部が怪しいとは思わないが、人間の強みはそれぞれに振れ幅があることだと思う。
神のような善人もいれば、悪魔も逃げ出すような邪悪なのもいるのが人間だもんな。
エーリュシオンさんの心配も仕方のないことだ。
「扶桑様の御子息、エーリュシオン様の契約者、そして我らが主世界樹ミルラの弟君に拝謁の栄誉を賜り中心より感謝申し上げます。。ティエライネン王の名代、宰相筆頭補佐官、シエラ・ユーティライネがご発芽の挨拶が遅れましたこと、謹んでお詫び申し上げます」
長い赤毛を後ろでまとめて、青く強い目をした男装した美女が俺に跪いている。
発芽のご挨拶って初めて聞く言葉だな……世界樹界隈にいれば聞き慣れてくる言葉なのだろうか。
「あの、お気になさらず! 俺の勝手で予定より早く成長してるだけなんで!」
「寛大なるお言葉、誠に感謝に堪えませぬ。我が王に代わり、御礼申し上げます」
シエラさんは頭を上げようともしない。
そんなに気を使わなくてもいいのに……。シエラさんからは、絶対に失敗できない、という雰囲気が何となく伝わってくる。挨拶の言葉もこなれているがどことなく固いのだ。
絶対に失敗できない商談に行く上司みたいな雰囲気だ。
昨日の時点で、俺はエルシーさんにティエライネン王国の概要についていくつか教えてもらっていた。
ティエライネン王国は、男爵の生まれた国であり、エルシーさんの妹のいる国であり、俺達のいる場所から北東に位置している。
王国は大陸でも北方に存在し、この俺のいる集落は、ティエライネン王国の南端の小さな自治区だ。
世界でも珍しい国王が世界樹の守護者筆頭である国であり、代々国策として世界樹を大事にしている国なのだそうだ。建国した年が世界樹と契約した年だという。
因みに他にも国はいくつかあるが、他の国はあまり大きくなく一つの世界樹のもとに小国がいくつかあるパターンが多いらしい。
建国1000年超えと聞くと立派なものに思えるがこの世界だと割とあるらしい。西の方には3000年続いている国とかもあるらしい。すごいな異世界。
そして、その契約した世界樹とはメアリー(ラ・ベッラ)さんの友達であり、扶桑さんのもう一人の種、世界樹ミルラさんなのだ。
世界樹ミルラは健在であった頃、メアリーさんと並ぶ腕を持っていたらしい。南部の天候操作よりも北部のほうが難しい傾向にあるとされている。
雪や低気圧の扱いはとても難しいらしい。正直、低気圧や雪雲の扱いを聞いたけれども俺には専門用語が多すぎて全く理解できなかった。
それを数百年こなしていたミルラさんは確かに達人の域と言っても良いのだろう。
ただ、魔王の襲撃で天候操作魔法の機能が一部失われ、今は自動の天候操作でどうにかしのいでいるという。
ミルラさんは、この世界での遺伝子的に、一応姉ということになるのだろうか。しかしそれだと扶桑さんもお母さんということになりなんとなく不思議な感じがする。
シエラさんは仕える世界樹に弟が生まれたから挨拶にきた、というだけにしてはあまりにも深刻そうな顔をしている。
そしてそれを心配そうに眺める者がいる。ティエライネン王国出身のダンゴムシの男爵だ。
とりあえず俺の影に控えてもらっているが挨拶してもらうわけにはいかない。生きていたこと、呪いをかけられていたことがわかれば騒ぎになり収拾がつかなくなるだろう。
昨日発覚した魔王問題がなければ紹介したかったんだけどな……。
「こちらは我が王ポッポ二世からの贈り物です、ミルラ様の弟君が健やかに育ちますようにとの祈りを込めて選ばれました」
シエラさんの後ろに控えた従者たちが重そうな宝箱を持ってきた。
それにしてもポッポ二世てめちゃ可愛い名前だな。女の子とかなのかな。五歳くらいの。
「エルシーさん、中をチェックしてもらえますか」
「拝見させていただきます」
白手袋をしたエルシーさんが一礼し、中を開く。中からは沢山の金貨、いくつかの薬瓶、半透明で金色をした針金、虹色のハサミなどが入っていた。
正直何がなんだか分からないので俺はそっと宝箱のステータスを見た。
一昨日の騒動で気がついたんだが物のステータスを見ることで擬似的な鑑定スキルに化けるのだ。
扶桑さん良いアイテムくれたなあ……。これからも便利に使い倒していこう。
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金貨(ティエライネン王国大金貨/300枚)の袋
聖樹用育成肥料(特上):10本
琥珀鋼の針金:10メートル
オーロラ石の園芸鋏
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ものすごく高そうなものが入っていることだけは理解した。
俺にも明らかにこの大金貨がとんでもない金額であろうことはわかる。だって、この大金貨、オリンピックのメダルくらいデカいのに金無垢なんだもん……。絶対高いだろこれ……。俺はエルシーさんに念話で価値を聞くことにした。
『エルシーさん、これもらっていいやつなんですか。どれもめちゃめちゃ高いやつですよね?』
『ティエライネンは大きな国ですが、発芽のお祝いにしてもあまりにも高価すぎますね……』
『とりあえず、まだ受け取らず、話を聞いてからにしましょうか』
一応、シエラさんのステータスも見ておくか……。個人情報を勝手に覗き込むのは心苦しいが、俺も騙されたくはないのだ。
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名前:シエラ・ユーティライネン
種族:人間
職業:ティエライネン王国宰相 筆頭補佐官
称号:前王の第六王女
Lv:68
HP:110/180
MP:200/600
筋力 :15
知力 :92
魔力 :21
器用 :30
体力 :25
素早さ:20
幸運 :40
スキル
書類作成 :LvMAX
基礎魔法 :Lv7/10
身体強化 :Lv5/5
集中力向上
宮廷作法
王への忠誠
装備
王家の指輪(継承順位八位)
装飾用の剣 攻撃力+5
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特に問題はなさそうだ。っていうか、この人王家の血筋を引く人なのか……。それをエルシーさんに伝えると、エルシーさんも驚いていた。王の名代を名乗ったのは伊達ではなかったか。
もらった宝箱に呪いはなさそうだが、明るいうちは発見されない呪いがあることは既に判明している。なので、申し訳ないがチェックさせてもらうことになった。
「申し訳ございません、拝領した宝物に問題がないか検査することをお許しくださいませ」
エルシーさんが許可を求めると、シエラさんは快く許可してくれた。本当は疑いたくないんだけど、シエラさんも実はあの御前試合に来賓として参加しており昨日の騒動も見ていたらしい。
一応、どんぐり汁チェックも入れ、問題はなさそうなことを確認する。
本当はやるなら呪いや魔法が発動しがちな夜がいいんだが、そこまで強要はできない。
今度、昼間でも呪いを検出する方法がないか、皆で検討してみよう。
「シエラ補佐官、お聞きしたいのですが」
俺はできるだけ世界樹っぽい威厳を持った喋り方で語りかける。成功しているかはちょっと怪しい。
「何なりと」
「ただのお祝いにしてはあまりにも高価すぎます。一体、ティエライネン王国は俺、もしくは俺達に何を要求したいのです?」
万が一、エーリュシオンさん関連だとヤバい。
俺がかばっても怒ったエーリュシオンさんによってシエラさんがどうなるかわからない。
もしそうではなく、俺に対する要求なら物によっては俺が出来る範囲ならここまでお金を積んでまでどうにかしたいことがあるのだ、なんとかしてあげたい。
逆に、ただお金を積んできたから受け取って欲しい等といった場合、俺の勘が絶対に受け取るべきではない、と強く警鐘を鳴らしている。もらう理由がないからだ。
シエラさんは緊張で凝り固まった顔を上げた。
「これは当王国から若君への衷心よりの贈り物で、他意は……」
「じゃあ、受け取れません。お持ち帰りになって、自国のためにお使いください。俺はお金には困っておりません。お気持ちだけ有り難く受け取りたく思います」
理由のない金は受け取らない。これは俺が日本で学んだ処世術である。
特殊詐欺とか恐いから……。




