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第6話 底辺なりの生き方


 俺の心に急速に暗雲が立ち込めてきた。


 自分が酷い目にあうのは、嫌だけど許容できるんだ。

 だって自分が悪いんだから。でも自分のせいで関係のない人が酷い目にあうのは自分がひどい目に合うより嫌だ。

 心のなかに抜けないトゲが刺さり続けるような事態が一番つらい。

 

 そうなったとき、俺がどうするか。俺は自分のことをよくわかっていた。


「ソウヤ様が成樹するまでおよそ千年ほどでしょうか、そうなれば我々に頼らずして自力で撃退できるようになるかと……」


 千年。気が遠くなるような時間だ。

 それまでの間エルフ族の皆さんに迷惑をかけ続けるのか。


 子供の頃『人に迷惑をかけないように』と、誰でも一度はそう言われたことがあると思う。今、俺の心の中を締めている八割の気持ちが『人に迷惑をかけたくない』だった。


 人に迷惑をかけてしまったときの、あの気まずさ。苦しさ。あれを俺はできれば味わいたくないのだ。


「エルシーさんや他のエルフの皆さんにご迷惑をかけるわけにも行きませんし、ここで俺を焚火とかにインするとか、素材にするとかしたら平穏になりません?」


 自分にしてはクレバーな提案のつもりだった。

 沈黙がしばし場を支配する。


「そんな事あるわけないです! ふざけるのは大概にしてください!」


 エルシーさんは初めて、俺に対し怒りの感情を向けた。

 その激しい感情に、俺はビビるよりも先にびっくりしてしまった。


「貴方は扶桑様の後継者としてきたのでしょう。ならば考えることは扶桑様のような世界樹になることです。違いますか?」


 そう言われて俺は何も返せなかった。


「……確かに貴方を今素材として消費してしまえば今後このようなことは起こらないでしょう。でも、お聞きしたいのです。もし、今貴方を素材として消費してしまったとしましょう。次に現れた後継者にも貴方は同じ結末をさせる事を望みますか?」


 エルシーさんの言葉に俺はまた何も答えられなかった。

 エルシーさんは遠回しにこう言っている。


『お前以外の世界樹の種もトラブルの種だから処分しろと言えるのか?』


 言えるわけがない。俺が自由にできるのは俺一人の範囲だけだ。

 だが先例ができてしまえば生きたいと思っている世界樹の種がいても前例という圧をかけられることだって考えられる。それはどう考えても良くない。


「すみませんでした……」


 俺はどんぐりの皮を真っ赤にするような感覚(おそらく錯覚)を感じながら失言を詫びた。


「わかってくれてよかったです」


 エルシーさんの言葉にホッとする。

 あと穏やかな口調に戻ったことにも。


「でも、確かに生まれていきなりワイバーンに襲われれば、恐怖に襲われ逃げたくなる気持ちは仕方がない気がいたします。きつい物言い、申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げるさまが見えるかのようだ。


「いや、あの、どう見ても100%俺が悪いんで気にしないでください!」

「ふふふ」


 不思議と、人間だった頃よりどんぐりである今のほうが人間らしい会話ができている気がする。なんでだろうなあ。

 エルシーさんが少しだけ微笑んでる気がした。


「特にソウヤ様は転生して一日も経たないうちでしたし……知らない世界で知らない怪物に襲われる、しかも自分のせいで周りの者が怪我をしていくと聞けばさぞかしお辛いでしょうね……」


 エルシーさんは、そう言葉をかけてくれた。

 俺は自分が傷つくことも怖いが眼の前で人が傷つくのもものすごく怖い。しかもそれが俺のせいとなればなおさらだ。


 だから俺は思わず逃げたくなってしまってあんな事を言った。

 悪手だと考える暇もないほどに瞬時に逃げ出す選択をしてしまうのが俺なのだ。


 こんな自分の性格がものすごく恥ずかしい。

 こちらにくることを選んだのは俺なんだ。

 覚悟を決めなくてはいけない。


 そこで、なんとなく吹っ切れた気がする。


「きっと俺は色々何もわからなくて、迷惑をかけると思うけど世界樹として大人になるまで助けてくれますか?」


 自分で言っててもとても恥ずかしい。でも、これは多分大事なお願いだと思う。


「お任せください。我ら一同、必ずや成樹までお護り申し上げます」


 見えないけど、なんとなく目の前でエルシーさんが跪き、礼をしている気がした。かっこいいんだろうなあ。とても見たい。


「多少怪我をしたとはいえ、ご安心ください。ほぼ全員が軽い切り傷や擦り傷だけでした。治癒魔法ですぐ治るようなものでしたよ」


 俺の心配はお見通しされていた。重症者がいなかったのは本当によかった。

 死者が出てたらこの身を捧げて詫びるしかなかった。でも治癒魔法か。日本にもあればよかったのになあ。そしたら俺も死ななかったかもしれないのになあ。


 人間として治癒魔法、かけてもらいたかったなあ。そうしんみり思いつつも、新たなファンタジー事象に心は踊る。


「治癒魔法! すごいですね、見てみたい!」


「こちらの世界では普通に使われるものですが、ソウヤ様が成長なさればお使いになることもできると思いますよ。それに、魔法など使わなくても世界樹の葉があれば重症でも簡単に回復させられます。その力をお持ちなのがソウヤ様なのです」


 確かにに世界樹の葉や種って、貴重アイテムのイメージあるもんな。

 ゲームでも死者の蘇生とかマジックポイントの全回復とか、強めの効果がついてた気がするし。


「あ、エルシーさん。見てみたい、で思い出したんですけど。さっきまで普通に生きてるときみたいに周りが見えてたんですけど……なんか暗くて、何も見えなくて……あと動けなくて……」


「ああ……」


 エルシーさんは言葉を濁す。今までとは違う、はっきりしない言い方。なにか都合の悪いことでもあったんだろうか。


「勝手ながら、一刻も早く立派な世界樹になっていただくために、魔力遮断をした植木鉢と聖別された土に植えさせていただいております」


 悲報。いつの間にか俺、生き埋めになってた。



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