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元社畜、どんぐりに転生する【完結】  作者: 芥部


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第58話 世界樹という生業



 ラ・ベッラさんがぐっすりと寝ている間、エルシーさんが明日の予定の調整に来てくれた。

 近日中に面会したいという人が数名来ているらしい。


「どんな人が?」

「ええと、イロイロナオールEX錠の商談で、ペリュさんが村に滞在中ですね。あとはシオンのお父さんです、何卒ご寛恕をとの陳情だそうです。それと、この集落のある自治区はティエライネン王国という国に所属しているのですが、その国から使者が来ています」


 最初の二人はわかるが、最後の一人の目的がよくわからない。

 とりあえず、全員会わねばならないだろう。


「アルビオンさんには一番先に会おうかな、一番早く済みそうだし、頼みたいことがある。明日の昼でお願いします。午前中はラ・ベッラさんとすこし話がしたいので」

「畏まりました」


「使者の要件は?」

「要件は表向きはソウヤ様のお祝いということになっています。でもなにか別の話がありそうですね……」

「ペリュさんとどっちを先にするか、迷うところですね」


「俺はペリュさんの話はできれば受けたいんだよなあ。ほら、やっぱお金は大事なので……」

「そうですよねぇ……でも、ソウヤ様はまだ気にしなくて良いんですよ。扶桑様の残されたお金はまだまだありますからね」


 俺は星空を仰いだ。


 聖樹族エルフだって生きている。

 たまに趣味や使命感、なんとなくなどの理由で仕えてくれるものもいるが、それでも集団の中で生きるならお金は必要だ。


 いくら自然の中から食べ物を採取をしたり、電気代や通信費がかからないとしても被服費や住居にかかる費用、剪定や整地にかかる道具代、武器を誂えるお金、そして医療費。

 そういった細々とした費用は絶対にかかってしまう。


 俺の場合は、発芽してある程度の魔法が使えるようになるまでの費用を扶桑さんがユージェニーさんに預けてくれているらしい。

 本当に扶桑さんにはお世話になりすぎている……。投資にしても回収させてあげられるだろうか。不安だ。


 世界樹の大きな収入源は二つ。


 一つは天候操作である。

 天候操作を求める人に望む天候を与えることで天候使用料をとること。

 天気にお金を取るのは申し訳ないような気がするが前世では天気はいくらお金を積んでもほぼ自由にならないものだった。

 一日だけの晴れや雨ならどうにかなったらしいが、高温や極寒、長期間の干ばつ、大雨などはどうにもならなかったもんな。


 だから、ある意味ではお金で解決できるだけ有情とも言えるのかもしれない。

 これは明日、ラ・ベッラさんに習得方法を聞いてみる予定だ。教えてもらえるかはわからないが。


 実はラ・ベッラさんはこの天候操作魔法のかなりの名人らしく、道路を避けて畑だけに雨を降らすなんて言う信じられない神業も出来るらしい。

 是非ご教授願いたいところだ。


 もう一つの収入源は世界樹の実や葉などの世界樹自体の産物。

 世界樹の実は木ごとに味は違うものの栄養価が高く、健康に良いとされている。また、葉も煎じれば薬になり、枝は魔法使いの杖や、魔道具の材料として高価で取引されると言う。


 こちらの方はあと十年はかかるだろう。

 まだ葉や実を売りまくれるほど俺は成長していないし、桃栗三年柿八年という。

 世界樹ならもっとかかったっておかしくないもんな……。実際、世界樹が実をつける樹齢は個体差があり、五年でつけたものもいれば百年かかったものもいるらしい。


 何十年単位で育てないといけないから、なるほど、世界樹の守護者にエルフは適任なんだな……。


 中には五十年で実をつけるのを諦め他樹種に転業した世界樹もいると言う。

 木の種類を変えるなんて出来るのか?と思うが過去に実例があるらしい。


 俺も実をつけるまでに時間がかかる可能性がある。

 その時のために第三の方法を考えている。


 どんぐり汁がうまく行ったのでそれを売り出せないものか、と考えているのだ。

 1滴で200リットル近くの薄めた液が取れるのだが、原液はペットボトル1本分ほどある。

 どんぐり粉もまだ少し残っているので、これもなにかに使えるかもしれない。

 ちなみに薄めたどんぐり汁コップ1杯でイロイロナオールEX錠が100粒できる。


 1/3くらいは自家用として残しておきたいが、残ったどんぐり汁でこの前作ったイロイロナオールEX錠やその他のどんぐり汁製剤を実用化し、売りに出したいというのが本音だ。


 今日の御前試合はその販促イベントも実はこっそり兼ねている。

 大人の参加者には全員3錠ずつの小袋を参加賞として渡してある。

 もし効果があり、必要になれば買ってくれるのではないか、と思っての先行投資だった。


 問題は俺もこの集落の皆も商業的に金銭感覚に乏しいことで、もう一箱欲しい! と言われても銀貨で売ればいいのか銅貨で売れば良いのか予想がつかない。


 なので、商人であり、エルシーさんの知り合いの娘さんだと言うペリュさんの伝手でどうにかしたい。俺がやると価格設定で絶対に失敗するからだ。

 絶対に現地の商人の意見が欲しい。


 金のことばかり考えているのは俺の望んだスローライフからは程遠いが、金の心配に苛まれるのも全然スローじゃないからしょうがない……。

 嫌だなあ、金の話。考えたくない。


「うーん、じゃあ早めにアルビオンさんを終わらせて、その次に使者さん、一番時間を取りたいので申し訳ないけどペリュさんは最後で。明日の夕方以降か明後日かはわからないけど絶対に時間は取りますと伝えて。さすがに国の使者を雑に追い返すのはまずいと思うので」


「畏まりました。……ソウヤ様は全部自分でなさるのですね。この樹齢の世界樹様はまだお水が欲しいとかくらいしか言わないものなのですが」


「うーん、エルシーさん達に任せたほうがいいのかもしれないけど色々やってみたいんだよね。あとこれ俺のことでしょ。自分のことは自分でやりたいよ、できる範囲で」


 こういうのを人任せにできるとお金持ちっぽいんだが、なんか自分でやっちゃう。

 貧乏性なのかもしれない。


「でも本当に俺こっちの常識ないから、できたら横にいてアドバイスくれると嬉しいです……」

「もちろんですよ、ソウヤ様」


 エルシーさんは微笑んでくれた。




 エルシーさんも各所に連絡の後、明日の準備があるとかで家に戻っていった。

 美容と健康に悪いから忙しくても睡眠だけはちゃんと取ってほしい。


 エーリュシオンさんは御前試合会場の後始末やラ・ベッラさんの様子を見るために近くにはいない。


 最近は一人で寝る練習をしろと言われている。

 そんな、子どもじゃないんだから……とは思うが屋根や壁を要求してるうちは人間らしさが抜けていない赤ちゃんらしい。木ってすごいんだなと最近思う。


 木になりたいと思ってたときは屋根も壁もない生活になると思ってなかったもんな……。俺の想像力の浅はかさよ。


 暇だなと思っていると夜間哨戒をしている男爵がやってきた。

 祝福地の場所が俺の根の成長で固定されたため、地面経由で訪れる何かがないかダンゴムシネットワークで警戒しつつ、ダンゴムシの皆で俺の周囲の土を耕してくれているのだという。


 ダンゴムシ、めっちゃ益虫じゃん……。

 出会ったときはあんな怖がった俺に対してあまりにも親切すぎる。今度なにかお礼がしたいな。


『若君はそろそろお休みですかな?』

「やることないからね。歩いて外に行ければできることはあるんだけど、腕を動かしただけであの引かれようだから、足をニョキニョキ生やして歩いたら今度こそ魔物として討伐されそうな気がする……」


『ははは、確かにそうかもしれませんな』

「でも根っこがあるからね、ニョキニョキ歩くわけにもいかない」


『左様ですな、写し身の秘術が使えるようになるまで大人しくしているのが宜しいでしょうな』

「だよねー」


 男爵はまた哨戒に戻り、俺はため息をついた。


 写し身魔法、習得自体は楽らしいのだが、大きくなる前に覚えると多大なデメリットがあるという。

 なのでそのデメリットを抑えるために体の成長が求められるらしい。デメリットについては教えてもらえなかった。


 眠くなるまで暇だし本を読みたいのだが、俺はまだ魔法を行使することを禁止されているので明かりもない。

 魔法のランタンを要求したら子供は夜は寝ろ! とエーリュシオンさんに叱りつけられた。心はアラサーなのに……。


「写し身も早くできるようになりたいんだよなぁ」


 できれば俺行動力が増し、アラサーらしさが強調され、夜更かしも許容されると思うので。


「あら、あなたならもう出来ると思うわよ」


 後ろから急に声をかけられ振り返ると、栗色のウェーブした長い髪を垂らし、白い夜着を身に着けた美少女、ラ・ベッラさんがいた。




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