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第55話 閉会の儀




「これにて本日の御前試合は全て終了とさせていただきます。ご来場いただきました皆様、ありがとうございました! 受付にてお土産があるので希望される方は受け取ってからお帰りください! 本日は色々とございましたが、エーリュシオン様と若い世界樹様を今後ともよろしくお願いします!」


 盛大な拍手のうちに御前試合は終わった。

 朝9時くらいから昼の2時くらいまでとは思えないほどの濃密な時間だったな……。


 ラ・ベッラさんはまだ怯えたように座り込み、それを心配するように見つめているアルビオン(父)さん。

 歪んだ腕を痛そうに抱えているが、顔には出していない。偉いなあ……。



姫君プリンチペッサ、まだ動けませんか?」


 優しく呼びかけるアルビオンさんの言葉にも、ラ・ベッラさんはうつむき言葉を返さない。


 流石に腕が変形するほどの打撲……骨折だったので、早めに治療したほうが良いと思うのだがラ・ベッラさんは衝撃のあまりにまだそれに思い至らないようだ。


『エーリュシオンさん、シオンのお父さんの腕、治してあげてくれませんか?』

『なんで僕があのバカの後始末をしないといけないんだ……』

『流石に後遺症が残ったらシオンやリオネちゃんが悲しむんじゃないですか』

『はぁーやりたくない……』


 そういった瞬間、アルビオンさんの表情が驚きに変わる。

 変形していた腕が急に元に戻ったのだ。アルビオンさんはこちらに目礼する。多分、俺かエーリュシオンさんが治したことに気がついたのだろう。


『で、どうするんだあのバカ』

『うーん、とりあえず落ち着くのを待って事情聴取ですね』



 気になることがあるので先に話を聞くべく、エルシーさんとシオンとリオネのお母さんのピオネさんを呼び、エーリュシオンさんに防音の結界を張ってもらった。


「ご足労様です」

「若君、我が家の夫が大変なご無礼を……」

「あの方の仕事なんですよね。仕事なら仕方ないですよ。シオン君のお父さんは給料分の仕事をしただけだと思いますので……」


 ピオネさんは恐縮したように頭を下げた。


「それで聞きたいのは、なぜあのラ・ベッラさんのところにお勤めになっているのか、そしてあのラ・ベッラさんのベリッシモさんたちについて知っていることがあれば教えてほしいです」



 ピオネさんが言うことには、ラ・ベッラさんはシオンの父、エルダリー・アルビオンさんは若い頃に、まだラ・ベッラと名乗っていなかったラ・ベッラさんに仕え始めたと言う。

 きっかけは縁故紹介らしい。


 仕え始めた若木の頃は普通の世界樹(性格は今とあまり変わらない)だったが、魔王との戦いが終わったころからやや言動が変わったのだと言う。

 やたらと周りに聖樹族エルフの、特に顔が良く腕が立つ男を集め親衛隊を作り始めたのだ。


 聖樹族といっても、契約まではしていないフリーの者も割と多く、そういうイケメンを探しては金の力と世界樹に逆らうのか、というやや脅迫じみた勧誘で親衛隊を集めたらしい。

 そして彼らをベリッシモ、と称し始めたという。多分イケメンくらいの意味なんだろうな。


 それにそもそも顔が整っていないエルフはそう多くなく、ラ・ベッラさんの召集を拒否することが出来たのはすでに主と契約をしているエルフか、明らかに貧弱な学者系エルフだけだった。


 魔王との戦いで、血の気の多い男の聖樹族は大分数を減らした。

 そんなところに減った男をラ・ベッラさんが片っ端からさらっていく。


 おかげで、ラ・ベッラさんの魔の手から逃れるために二百年程前からは、聖樹族に生まれた男はある一定の年齢に達するまで女装をさせ、仕える世界樹が決まるまで女装のままで過ごすという風習が普通になってしまったらしい。

 風習って割と短期間で出来るんだ……。


 リオネちゃんが男の娘だったのにはそんな理由があって、それでシオンがにーちゃん、という度に叱っていたのか。


 ここ十年ほどは招集が減ったので普通に育てる人も増えてきた結果、シオンは普通に男の格好をしているらしい。

 そうして既婚も独身男性もラ・ベッラさんがかき集めたせいで聖樹族の出生率もやや低下しており、種族内での問題になり始めているという。


「元の人数がそんなに多くないところに、魔王との戦いで人が減り、世界樹ラ・ベッラの召集でさらに人口が増えにくくなってしまって……」

「ラ・ベッラさんの元に家族ごと住む、というのは駄目だったんですか?」


「世界樹ラ・ベッラは極端な女嫌いで、男しか周りに置かないんです。世界樹の周辺のかなり広い地域が女性の禁足地になっており、ベリッシモたちが家に帰れるのは十年に一度、一週間の休暇の間だけなんです……」


 ちょっとあんまりにもあまりだけど、女嫌いの女の子かあ。なんか理由があったのかな。

 あってもやりすぎだと思うけど、それは本人に聞いてみよう。


「ありがとうございました、その件についてはお力になれるかはわかりませんが、俺からも先方に伺ってみますね」

「よろしくお願いします」


 ピオネさんは頭を下げて退出していった。



「ところでエルシーさん」

「はい、なんでしょうソウヤ様」

「さっきの剣術のことなんですが……あれ、示現流ですよね?」

「まあ、ご存知なんですか!」


 エルシーさんの顔がパッと明るくなった。剣術が好きなのかな。


「本で読んだだけですけど……」


 嘘です。本当は漫画です。見栄を張りました。


「どこで示現流を習ったんですか?」


「お父様が行き倒れていた異世界の人を助けて、その人に習った剣術なんですよ。薩摩という国からいらしていたらしく、剣術が巧みで聖樹族の気風に合うものだったので教えてもらったのが始まりなんです」


 あ、異世界人がたまにいるって言ってたもんな。

 薩摩の人、言葉通じたのかなあ。知らない人だけど心配になる。


「なるほど、そういう……聖樹族の気風ってどういうものですか?」


「力あってこその正義が聖樹族の気風です。なので示現流の先手必勝、一撃必滅、二の太刀いらず。このあたりとても感銘を受けましたね……!」


 感動を思い返すような顔でエルシーさんが目を閉じた。


「とても良いものだったのですが、常時使ってると対策されちゃって使いにくくなるんですよね。なので、ここぞ、というときに遣ってます。ちょっと残念ですよね」


 こういう話をするときのエルシーさんは、口調は変わらないけど怖いことも平気な顔で話す。

 それが、逆に俺にはちょっと怖い。


「でも、示現流の修練をしているときはいつも夢中になって木に打ち込んでるので、ちょっとしたストレス解消にもなるんですよ。一時期凝りすぎて三十年ほどずっと修行してたことがあります」


 照れながら笑ったが、エルフの寿命怖いな。三十年の修行も寄り道で済むんだもんな……。


「あと気になったのが、弓の次の次に得意なのが剣って言ってましたよね。弓の次に得意な武術って何ですか?」


 剣があの腕前なのに、あれより得意な武術があるとはちょっと想像できないのだが。


「はい、徒手格闘を得手としております! いつでもどこでも武器があるとは限りませんから!」


 朗らかなエルシーさんの笑顔に、俺は絶対この人を怒らせまいと心に誓った。





 夕方になり殆どの人は帰って行ったが、まだ帰らない人も一部いた。

 それは何かの商談のためだったり、試合……もとい祭りのついでに親戚や友達に会いに来た者達だ。


 そしてラ・ベッラさんの御一行。

 ラ・ベッラさんの親衛隊『ベリッシモ』達の中には数名この集落の出身の者がいて、それらの者は自分の家に帰ったり、そうでない者は集落の長ユージェニーさんのお宅にお邪魔することになったらしい。


 雑魚寝にはなるだろうが屋根と壁があるからなんとかなるだろう。

 俺なんか屋根も壁もないからな……マジで羨ましい……。


 先ほどの件もあり、険悪になったらどうしようと心配していた。

 しかし帰省できたことや遊びに来た事自体は皆歓迎しているようだった。


 ラ・ベッラさん本人はというと、べそべそと泣き続けている。

 ベリッシモたちの言葉も耳に入らず、地面に座り込んでうずくまるばかりだった。

 先ほどの件もあり、エルシーさんにやたら怯えるのでエルシーさんには自宅で待機していただいている。はずだ。


 しょうがない、俺が何とかしないといけないんだろうな、これ。

 頑張って話しかけるタイミングを伺うか。



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