第51話 祝福地御前試合 5
「しまった」
エーリュシオンさんが本当にやらかしたときの顔をしている。
それでもギリギリ美少女の顔をしているのでそれはそれですごいな。
「木野」
「はい?」
「お前、まさかこの試合中に育つとは……」
「え? いや背の高さは変わってなくないです?」
俺の木の高さは今のところだいたい視点の高さと同一である。
先程から視点の位置は変わっていない。
「育ったのは根だよ」
「なにか問題でも?」
「今ついたがいつの間にか地脈まで根が届いてて世界樹どもに存在が気が付かれた。近い内に同類が来るぞ、気をしっかり持て」
「えっ!? 近いうちってどのくらい?」
「それはなんとも言えないな」
「せ、せめて祭りが終わってから聞きたかったんですが……」
今まで一度もあったことのない扶桑さん以外の世界樹。
正直会うことに不安しかない。だっていい評判がほとんどないんだもん。本で読む限りはボロカスである。
俺はエルシーさんにコソコソと話しかける。
(すみません、アレ用意してもらえませんか)
(承知いたしました)
胸ポケットからすっと扶桑さんの枝を取り出すと輪の部分を枝の上の方に通してもらった。
見ようによっては御神木風の装飾がついている若木にも見えなくもない。
ステータスモニターというのは、扶桑さんの枝、というのがなんとなく申し訳なかったのでつけた仮称である。
ステータスモニターを用意したのは他の世界樹対策だ。
ステータス相互見学会の後、エーリュシオンさんに要望を伝えて改善してもらった。
手にとって相手を覗き込むだとあまりにも隙が出来すぎるので、身につけて念詠唱することで発動できるようにしてもらった。
敵を知り己を知れば百戦危うからずという。
いきなり魔法でドカーンとかされない限り、ステータスをみれば交渉や攻略、逃亡のの余地が得られる可能性もある。……多分。
ステータスモニターを枝に通してもらったのは、装備があるだけでなんとなく安心するからだ。なにげにこれを装備すると物理軽減30%魔法軽減50%がつく。あまりにも強い。
ステータスには表示されないが、安心感だって+100くらいある気がする。
HPも50まで上がったとはいえおそらく世界樹に攻撃されると一撃なのだが気休めは大事なのだ。
とりあえず、世界樹のことは無かったことにして祭りの進行を進める。
「みなさん、競技へのご参加ありがとうございました! それでは審査結果を発表いたします!」
エルシーさんが朗々と司会をしてくれている。
今日は動きやすいように髪も少しシンプルな結い方で、おしゃれなブラウスにズボンの軽装だ。
はあー……シンプルなのも似合う……今日もエルシーさんは素敵だなぁ……。
俺は近くで見る役得に心から感謝した。
「まずは子供部門! リリロッテちゃんおめでとうございまーす! お祝いにこちらのマギネ特製あまーい巨大ケーキです!」
リリロッテちゃんへの盛大な拍手が起きる。
「父ちゃんと母ちゃんときょうだいでたべます!」
自分の顔より大きいケーキを貰って、リリロッテちゃんは飛び跳ねて喜んでいた。
甘いものはこの世界では高額な食品であり、それがふんだんに使われたマギネの手の込んだケーキは俺とエルシーさん、男爵以外の大体が喜ぶ。
「そしてパワー部門! こちらはご来賓でもあるペリュ・ソレニア様が一位になりました、おめでとうございます!」
こちらも盛大な拍手が沸き起こり、気を良くしたペリュさんが両手を上げると怨霊のような使い魔が飛び出していく。
すると黒いモヤで『皆おおきに、ソレニア商会を今後とも宜しく頼んます』と空にド派手な看板を描き出した。
どっと爆笑が生まれ、ペリュさんは皆に手を振りながら退場し、景品を受け取った。景品は薄めたどんぐり汁を粉類と配合し、錠剤にした「イロイロナオールEX錠」一ヶ月分である。
一日一回、一錠を服用すると軽い呪いや二日酔い、気鬱、各種闇属性疾患などの聖属性の効きやすい病気や症状に著効がある。
また、疲労回復にも効く。(ただしこれは種族によって効果の差がある)
景品を求められた時に、俺とマギネで考えて作った薬だ。
地水火風の四属性使いは多いのだが、聖属性を使える術者はあまり多くなく、闇属性の病気や呪詛で術師にかかれず手遅れになる人が多いという。
それを聞いて誰にでも使える聖属性アイテムとして考えたものだ。
使い方は水と一緒に飲むだけ。
保管方法も乾燥した場所で木箱に保存するだけで簡単である。作成費用もほぼタダで、一番かかっているのが箱代というくらいだ。
マギネや集落の人の協力で色々試して大丈夫そうなのでテストも兼ねて配布することにした。
「えらいもの作ってはりますなあ、これ、大量生産できますやろか? あとで商談させてもらえると嬉しいんやけど」
受け取ったペリュさんはサングラスを外し、木箱の中の錠剤をつまみ上げて虫眼鏡で覗いたりしている。木箱の中でほんのりと錠剤が薄く光っている。
「商売敵に呪詛られるのも日常やさかい、一々解呪に地上行くのも大変やったから有り難いわぁ」
ペリュさんはしみじみした顔をしているが、商売敵にナチュラルに呪詛をかける世界、怖い。お役に立てて何よりである……。
「それでは、芸術部門の優勝者を発表します! 審査員の中でも意見が別れましたが一位はリオネ・エルダリー・アルビオンさんです! おめでとうございます~!」
ダーツ発祥の地?からも一人入賞者を出せてよかった。
もちろんこれも拍手が沸き上がっている。
「おめでとうー!」
「あの花きれいだったわよー!」
様々な歓声の中、リオネちゃんは堂々と両手を上げそれに答えていた。
「一位になれたのは皆様の応援のおかげですわ、ありがとうございます!」
ニコッと笑うと、それに合わせて魔法の花びらと光がリオネちゃんの周りを華やかに彩った。
すげえ、少女漫画じゃん……。もちろん、拍手喝采だった。
あまり魔法を自己表現の手段として使う人がいないっぽく、斬新だと皆が褒めている。
魔法って言うと、攻撃とか、治療とか、実用的なイメージが強いもんなあ。
もちろんリオネちゃんにも賞品が送られた。
リオネちゃんがもらったのはエーリュシオンさんの手作りの蝶々をモチーフにした銀色のブローチだった。
「僅かではあるけど、加護の魔法も込めてあるよ、おめでとう、リオネ」
エーリュシオンさんはリオネちゃんを労いつつ、
「あ、あ、ありがとうございます! 一生大切にします! 嬉しいーっっ!! あああああああ!!」
リオネちゃんは絶叫するとブローチの箱を抱いてぷるぷるとうずくまり、声にならない声を出しながら土にまみれるのも気にせずゴロゴロ転がって推しからのプレゼントとお褒めの言葉という衝撃のイベントにのたうち回っていた。
こういう所を見ると、シオンの兄なんだなあと実感する。
動き方が限界オタクのソレなんだよ。
次いで各審査員賞を発表し、ついに総合優勝者を発表することになった。
「それでは、総合優勝者を発表します。 パワー部門と芸術部門で二位を獲得したゴドー・ドルヒさんです、ドルヒさんは子供部門で優勝したリリロッテちゃんのお父様でもあります! 親子での入賞おめでとうございます!」
総合優勝は爆発を貫いたドワーフの人だった。芸術は爆発だって言うもんな。しかも娘さんも優勝とかすごい。
今まで以上に大きな拍手が送られ、ドルヒさんもさっきまで怖かった顔が少し和らいでおり、その足元でリリロッテちゃんが飛び跳ねている。
「おとうちゃんすごーい!」
「おう、お眼鏡にかなったようで嬉しいぜ、ありがとうな!」
まだ使い切っていなかったらしいダーツを空に放つと、先程と同じだけの眩しい花火が空に輝き、皆が眩しく空を見上げた。
昼間でも見られるように調整してあるのか、とても明るいが美しい。
賞品は、素朴な木の枝と金糸を編んで作られたブレスレットである。
もちろんただの地味なブレスレットではない。エーリュシオンさんが祈りを込めた特製だ。
一年間無病息災、無事故無呪詛が約束されているトンデモアイテムである。それと、副賞にイロイロナオール錠EX二週間分。
「おお、精霊の祝福の装備とはありがてぇ……どうしても鍛冶屋やってると事故はつきもんなもんで……。エーリュシオンさま、心より感謝いたします、大切にいたします」
エーリュシオンさんに向けて跪いて感謝を捧げる。
エーリュシオンさんはまんざらでもない顔をしている。
「一年を超えてもしばらくは効果は残るから安心してくれ。有効期限が切れても怪我をしないように気をつけていれば、君をある程度は護ってくれるだろう。安全第一を心掛けたまえ」
それを聞いたドルヒさんはまた深くエーリュシオンさんに祈りを捧げた。
「祝福地の御身は気が荒いと聞いてたけど噂は嘘だったな」
「なんと情け深い精霊様か……」
「さっきもここにいる皆に祝福してくれたしな……」
そんないい雰囲気で終わるかと思った直後、甲高い声が高らかに聞こえてきた。




