第48話 祝福地御前試合 2
「祝福地様万歳! エーリュシオン様に神の恵みあれ!!」
ド派手な魔法のばら撒きに観客は湧き上がり、歓声をあげた。
俺も挨拶を促され、しょうがないのでなんとか言葉をひねり出す。
「先月生まれた世界樹の若木の木野です! 本日はダーツ大会とても楽しみにしております! 新人ですが皆様のご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」
そう叫ぶとエーリュシオンさんの時程ではないが拍手が沸き上がった。良かった……。
「先月生まれてもう喋れるなんて!」
「言葉遣いも態度も丁寧ねえ」
「一ヶ月なのに葉も茂ってて将来性を感じるなあ」
意外に俺へのお褒めの言葉をいただいている。ちょっと嬉しい。
出来て当然かも知れないが、ほら、普段あまりほめられない人生だから……。
少し喜びを噛み締めさせて欲しい。
俺とエーリュシオンさんはエルシーさんの家の跡地に盛られた土の上に鎮座し、一段高いところから歓声を受けている。
おもにエーリュシオンさんへの歓声だろう。花冠つけたエーリュシオンさん、めちゃめちゃかわいいもんな。
俺も歓声に応えて前世でみた記憶の王族のように手を振ってみた。
「えっ、いま世界樹の若君、腕動いてなかった!?」
「まさか、風で揺れただけだろ……」
「なんか蠢いてたような……」
と観客がざわざわし始めたので俺はお手振りを封印することにした。
元とはいえ日本人だからね。空気は読めるんだ……。
それにしても人が多い。
この集落は百人もいなかったはずだがこんなに人いたっけ?と思ってよくよく見るとエルフ以外の人も多い。ドワーフとか人間とか。
エルフ以外の人種、こっちに来て初めてみたかもしれない。
周りの村からもあつまっているらしく、見たことない顔が一杯だ。
この田舎にしては大変な賑で俺もちょっとワクワクしてきた。
よく見るとりんご飴の屋台や、このへんで取れる知らない果実のフリッターの店、果実酒のエールの屋台なんかもあり、小さなお祭りのようだ。
観客席には当然のようにテーブルがあり、つまみと酒で既に出来上がってる人も結構いる。
あーっ、身体がないのが惜しい!
あのりんご飴とか食べてみたい! 日本と味が違うのかが気になる。
買ってもらえても口がないから無理なんだけど。食べ物を見ると食べたくなっちゃうんだよなあ。
俺は前世は酒より飯派だったんだ。
酒も飲めなくもないけど、酒を飲むと気が大きくなってフィギュアとかを大人買いしちゃうから飲むの辞めたんだよな……。
そうこうしているうちに、準備が整った。
部門は三つに分かれており、子供部門、パワー部門、芸術部門に別れ審査員を俺、エルシーさん、マギネ、エーリュシオンさん、集落の長を務めているというユージェニーさんの五人が担当することになった。
……パワー? 芸術? ダーツと関係ある?
「ちょっと聞いていいですか、なんでダーツにパワー部門とか芸術部門があるんです?」
「若君から教えていただいたダーツは子供用の遊びの定番になったんですが、大人からはそれではつまらないということでもっと派手にいこう! ということでルールが決まったんですよぉ、うふふ」
集落の長のユージェニーさん(やはりこの人も聖樹族なので外見で年齢が判別できない)が教えてくれた。
うん、なーんもわからん。
俺もこの世界に慣れてきたので、とりあえず見てから考えることにした。
今から先のことを考えても疲れるだけだからな。
子供部門の参加者はシオン他十名程、ドワーフの女の子とかもいる。
本当にちっちゃくてすごく可愛いけど、それでも十五歳とからしい。
4,5歳くらいにしか見えないんだけどな。
子供部門のダーツの的は一見普通だった。
ちょっと大きく、子供用にわかりやすい真ん中に行くほど得点が高く、三回投げて合計を競うというルールだ。
「てやー!」
歓声の中現れた一番手はシオンだった。練習の成果なのか、一発目をかなり中心に当てる。
的に当てた瞬間、バーン! という破裂音とダーツの着地点から衝撃波のような光まで飛び出しまるでシオンが剛速球をうったかのような演出になっている。
CGのような演出を、リアルでやれるのが魔法の強みだな。
「うわー、派手だな! かっこいい!」
「うふふ、そうでしょうそうでしょう、私の発案でエーリュシオン様に実装をお願いしたんですよ」
ユージェニーさんが俺の右横でニコニコしている。
この人なかなか演出力があるな。なるほど、これは見ていて楽しい。
シオンは一回目の緊張のためか、一回目は良かったが二回、三回目はいまいちの得点。
それでも一度は真ん中に当てられたからすごい。参加賞のお菓子をもらって嬉しそうにエーリュシオンさんに手を振っていた。
「シオン、頑張ったね」
エーリュシオンさんもニコニコ手を振り返し、周りに花と光の他に魔力で出来た蝶まで飛び交っている。余程ごきげんなんだろうな。
他の選手も、可愛らしく活躍をした。
「えい!」
「いけー!」
シオン以外に人間の子供も、ドワーフの子供も、的に当てるたび全員にド派手な演出が湧き上がり、見る者を楽しませた。
優勝を決めたのは一番小さなドワーフの女の子、リリロッテちゃんだった。
「せやー!」
小さな体から力いっぱい投げたダーツは三つともほぼ中央に着弾。
中央に当たる度に演出の派手さが増え、三回ともあたったときは中心からパン!とクラッカーのように銀テープが飛び出し魔法の花吹雪が舞い上がり『完全得点おめでとう』という表示が的の上に出た。
派手な魔法の演出に、自分で投げたのではない子供立ちまでキャーキャー騒いで、大盛りあがりだった。
もちろん、大人も盛り上がっている。
「おめでとうー!」
「よっしゃ! お祝いに飲むぞ!」
「ダーツ面白ー! 俺も始めようかな!」
歓声の中、俺も演出に見入ってしまった。
「本当にめちゃくちゃ派手だな……」
「ソウヤ様も楽しまれているようで嬉しいです!」
左に座るエルシーさんが嬉しそうにしている。
しかし俺は知っている。本当のダーツはこんなド派手ではないことを。
暇なときに動画サイトで見たダーツの大会はこんな派手じゃなかった気がするんだよなぁ……。
なんかおじさんが黙々とストン。ストン。って投げてた気がする。
ああ、でも子供向けだからわざと子どもたちが楽しめるようにわかりやすい演出にしているのかな。エーリュシオンさん子ども好きだもんな。
その時はそう思っていた。
ド派手な子供部門が終了し、準備の後次に始まったのがパワー部門であった。
ダーツにパワーとか要る? そういう俺の疑問をよそに準備は粛々と進む。
パワー部門に用意されたのは、分厚い木の的だった。
しかも、一枚ではない。それが五枚並べられ、その奥に鉄で出きた的まで置かれている。
しかも、予備の的もかなりの数が準備されている。もうこれはダーツではない。
「瓦割りか何かか……?」
明らかに角度を90度変えた瓦割りの風情なのだ。本当にこれはダーツなのであろうか。
しかも薄いベニヤの木とか割れやすい瓦と言うわけでもなく分厚い木の板。
これをダーツの矢で射抜くのは無理があるのでは? 俺の疑念を知ることもなく参加者が集まってくる。
殆どは筋肉ムキムキのおっさんだが、一人だけほっそりとした、アジア風の服にサングラスの色白なお姉さんがいて目を引いた。
あのメンツの中に混ざってしまったのは手続きのミスかなにかだろうか。
準備が終了しパワー部門の競技が開始された。
ルールを聞いたところ的ダーツで射抜いて一番多くて的を貫通させた者が勝利らしい。
ダーツはそういう競技じゃないんだよ……って心から思ったが、今言っても無粋だな。
ここは一つ異世界ダーツの誕生を見守ることにしよう。




