第47話 祝福地御前試合 1
「暗黒樹って、もしかしてものすごく邪悪な性格とか……?」
俺は恐る恐る質問した。
「よく勘違いされるんですが、闇属性はただの属性の一つであり、邪悪さとは無関係なのですよ。たしかに呪詛などとも相性がいいのですが、睡眠などにも関わってくる大事な属性のひとつなんです」
「なるほど……そういえば世界樹にも闇属性の栄養は必要ってマギネ言ってたもんなあ」
「世界樹が何らかの理由で闇属性が強くなり、聖属性がメインでなくなると、天候操作魔法などが使えなくなるんです。代わりに、別の魔法が使えるようですが詳しくは研究が進んでいません」
「ちなみに、あのどんぐり汁の入れ物になった暗黒樹はもしかして……」
「ご安心ください、野生の意志のない暗黒樹の間伐材でございます。黒くて目立つので、一部の好事家に人気の木材なんですよ。それと、魔法をすごく吸収する性質があるんで便利なんです」
安心した。世界樹の亡骸だったら、と思うとちょっとヒヤヒヤしていたのだ。
「早く大きくならないとなあ」
エーリュシオンさんの見立てではまだ俺の根っこは地脈まで届いていない。
ただ、そう遠くはない未来に急速に成長し始めるだろう、と。
魔法の使い方も教わらないといけないな。
「そういえばソウヤ様」
「うん?」
「来週、ついに開催することが決まりましたよ!」
「何を?」
「エーリュシオン様とソウヤ様お立ち会いの元、ダーツの御前試合が開かれることになったんです!」
「えっ」
「楽しみですね!」
マジで流行ったんだ。なにが流行るのか、本当にわからないものだなあ……。
っていうか、俺、移動できないんだけど、どうするんだろう。
それにしても、御前試合ねえ……。
エーリュシオンさんを御前というのには異論はないが、俺も御前になっちゃうのか。若君呼びされてるもんな……。
しかし、ダーツっておしゃれだけど派手さはないよな。
最近のは的が光ったりするみたいだけど。
エルシーさん曰く
「ド派手にやりますからね! 楽しみにしててくださいね!」
らしいが……ド派手なダーツの想像がつかない。矢が光るとかかな。
最近遊びに来ないと思っていたシオンだが、ダーツの練習に勤しんでいたらしい。
本当に集落の中にダーツブームが来たらしく、みんな好き勝手にダーツをアレンジして遊んでいるらしい。好き勝手、のレベルが想像できないけれども。
優勝者には何か景品もあげたほうが良いだろうかとエーリュシオンさんに相談してみる。
「総合優勝した者には僕の祝福をやるぞ。一年間絶対に病気にも怪我にも事故にも合わない強力なやつだ」
「それ、俺が欲しいやつなんですけど」
「おまえはどっちかと言うと景品を出す側じゃないのか」
「まだキッズの俺がなにを出せばいいと言うんですか」
「それを考えるのは僕じゃない、お前の仕事だよ」
まあそうなんだけども。
筆とインクを借りて表彰状でも作ろうかな。書道の心得はないけど、世界樹が書いたっていうと有り難みありそうじゃん。
とりあえず、あとで皆に相談してみよう。
「子供部門の参加賞はマギネの菓子らしい。優勝した子供には特大の焼き菓子が送られるってことでシオンが張り切ってるらしいね、木野も年齢的には子供部門で参加できるんじゃないか? 参加するかい?」
「結構です」
この集落のエルフはとにかく甘党が多い。
激甘お菓子となればなおさら張り切るのが目に見える。
こういう時、ちゃんとお菓子を作ってあげるマギネは偉いなあ。
後で俺からも褒めてあげよう。でも俺が褒めるよりなんか素材あげたり本読んだほうが喜びそうな気はするな。
今回の御前試合はエーリュシオンさんもノリノリであり、男爵やエルシーさんも色々作業をしており忙しい。マギネだけではなくアカシアも翻訳朗読会を休んでまで試合の準備をしている。
俺だけが置いてけぼりになりしょうがなく積んだ本を消化したり、地面に触手……もとい、枝で書き取りの練習をしたりしている。
この世界の文字も翻訳技能EXで形自体は書けるようになったのだがきれいに書くのが結構慣れない。
あれほしいな、電子メモとか磁石でお絵かきするボード。
地面だと書いても慣らすのが面倒。エーリュシオンさんくらいの魔法が使えれば自分で作れるんだろうけど、俺はまだその域にない。そもそもまだ魔法らしい魔法を使えないのだ。
魔法らしい魔法を使いたいと思って初学者向けの本を読もうと思ったのだがエーリュシオンさんに止められている。
エーリュシオンさん曰く。
「やめておけ、木野。お前のその貧弱な体でそのバカ高い魔力を調整失敗した時に本当に身体が消し炭になるぞ。そうなったら僕でも救えるかわからない」
とのことだった。否定できない。
俺の魔力は10000あるのに体力は7だったもんな……。
あれから50センチ以上成長したしもうちょっと体力は増えたと思うけど、この魔力が持ち腐れ過ぎてるんだよなぁ……。
他の世界樹もこんなふうに極端なステータスなのかが気になるところだ。
もし会うことがあったらこっそり覗かせてもらおうと思っている。
エルシーさん曰く、世界樹同志が仲があまりよろしくなく、他の樹にも親切な扶桑さんがレアとのこと。ならば、俺がこっそりステータスを見るのも仁義にもとるほどの行為でもないだろう。
問題は出会う見込みがないことである。
そんなこんなで一週間が経ち、御前試合開催日になった。
会場は元エルシーさんの家の敷地の前の広場。祝福地の外も天候に恵まれ、開催を知らせる魔法の花火が上がる様子がここからでもよく見えた。
「俺、歩けないし、移動出来ないんですけど来賓席にどうやって移動するんですか?」
「大丈夫だよ僕に任せておけ」
「エーリュシオン様、準備整いましてございます!」
祝福地入ってすぐの場所からエルシーさんがエーリュシオンさんに声を掛ける。
「わかった、今行く!」
「行くぞ、木野!」
「はい!」
と叫んだ瞬間にはもう祝福地の外にいた。
「うわっ……」
魔法で移動したんだと思うけど、エーリュシオンさんの魔法は予備動作も呪文もないことが多いので、めちゃめちゃビビるし、風情がないと思う。
味気がゼロなのでもっとド派手に魔法を演出してほしい。
なにはともあれ、移動してきた……と思って地面を見ると、地面だけは祝福地のままである。ここだけ明らかに青々と草が生えてるが周りは晩秋で、草は枯れていた。
「祝福地の飛び地を作ってそこに転移させたぞ」
すごいけどさぁ~……演出ほしいなあ。俺の精神衛生のためにも。
『世界樹&祝福地御前試合』とこちらの文字でデカデカと書かれた看板の下に俺達はいる。
「世界樹の若君と祝福地のエーリュシオン様のご入場です!」
とエルシーさんにご紹介に預かると、思ったよりも大勢の人から拍手を受けた。挨拶をするように、エルシーさんが俺とエーリュシオンさんに促す。
「よく来たね、諸君。僕は最古の祝福地、エーリュシオンだ。ここにいる世界樹の若木の契約者でもある。今日はダーツの大会を開くと聞いた。僕も大変楽しみにしている。ダーツ大会の参加者、そしてこの場に参じた全ての者に、僕の祝福を与えよう、本日は皆楽しんでいきたまえ!」
エーリュシオンさんが声とともに大きく両手を上げるとキラキラと光る花びらと風がどこからともなく一斉に巻き上がり、ここにいる参加者とそれ以外の全ての人間の身体を周りを巡る。
おそらく見た目だけではなく本当に祝福の魔法なのだろう。俺の身体もちょっと軽くなった。
エーリュシオンさんは祝福の魔法も無詠唱・無動作・無演出で出せるはずなのだが、ここはあえて演出の一手間を入れた。
あざとい。普段からやってほしい。俺がビビらなくて済むので。




