第46話 世界樹のこと
あれから数週間。祝福地の外で秋はゆっくり深まっていき、日がどんどんと短くなっていく。幸い祝福地内の気温は一定のままで、俺はすくすく育った。
俺はここに来てからというもの、土と水と光が美味しすぎてもう一メートルほどの大きさになった。あとちょっとでシオンの背丈も追い越せそうだ。
そういえば最近シオンが遊びに来ないな。虫以外の何かを見つけたんだろうか。
おかげでエーリュシオンさんがちょっとしょんぼりしているのでたまには遊びに来て欲しい。
俺はここしばらく週に数回マギネとアカシアに本を音読し、代わりに探してきてもらった初学者向けの本をエルシーさんの解説を聞きながら読む、という楽しい日々を過ごしていた。
「わからないことは何でも聞いて下さいね」
というエルシーさんのお言葉に甘えて、わからないことは何でも聞くようにしている。
色々本を読んで、解説してもらってわかったことだがこの世界はやはり中世ヨーロッパくらいの文化であるようだが、幸いなことに精神的にはなんとなく現代に近い気がする。
これが本当に中世ヨーロッパくらいの精神が主流だと俺魔女狩りとか村八分に合わない自信がない。運が悪い方、という自信はあるんだ。
「それにしてもソウヤ様はご立派ですよね、枝はちょっとその……うん……アレですけど……」
エルシーさんはまだ俺の枝が触手になってしまったことを気にしているようだ。便利なので俺はもうずっとこれでいいと思っているんだが。
「そういえば聞きたいことがあるんですが」
「なんでしょう、ソウヤ様」
「本でもよく見るんですけど、世界樹の性格が個性的って見るんですよ。個性的、って要は性格がやばいってことですよね?」
エルシーさんは否とは言わなかった。
「扶桑さんやエルシーさんが仕えていた世界樹さんは話に聞く限りなんかお姫様みたいでしたけど、他に実例があったら知りたいんです」
そういう俺をエルシーさんはものすごく困った顔で見ていた。
「あと、なんで世界樹に他の世界の人間の魂が入ってるのか、とかも気になってて」
エルシーさんはもっと困った顔になる。
「本当は、もっと育ってからお話しようと思っていたんですけど」
そう前置きしてエルシーさんはこの世界の神話のようなものを教えてくれた。
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神が世界を作った時、世界はどこまでも荒野や砂漠だけの荒れ果てた世界だった。
水は地下深くにしか存在せず地上には砂埃が舞い、太陽を遮った。暗く埃っぽく、地獄でも天国でもない荒涼とした大地が広がるばかりだった。
そこで、神は安心できる場所を作ろうと、最初の祝福地を作った。祝福地には太陽が輝き、草が生え、花が咲き、他の生命を産み始めた。
しかし、神は祝福地をいくつか作ったがそのために多くの力を使ってしまったので、自分の代わりに環境を作り変えていく植物、つまり世界樹を地上に遣わした。
世界樹の力で、神の似姿である二本足の種族……つまり人間やエルフ、ドワーフ、魔族などが生まれ世界は大いに繁栄した。
最初の世界樹は普通の植物であり、魂を持たなかった。
それ故にせっかく世界中を美しく作り変えたあと、二本足の種族がもう世界樹は不要である、として切り倒してしまう。
そうすると、また世界は神のいる祝福地以外荒れ果ててしまった。
神は反省し世界樹の手足となるようにエルフを守護者として任じた。
エルフを任じたのは寿命が長いためである。他の種族では世界樹が成長し切るまでに何代も守護者が変わり、その度に諍いが起きたためそうされた。
これにより世界樹は伐採しようとする愚かな者たちに抵抗する力を得られるようになった。
しかし、それでも世界樹を利用しようとするもの、伐採しようとするものがあり、神はそれに心を痛めた。
神は世界樹が一つの種族や国家に利用されないように、他の世界から魂を招きそれを世界樹とするように変えた。
この世界のしがらみのない魂は強い力を持ち二本足の種族に抗う完全な力を得た。
しかし、招かれる魂は様々な性格を持ち、中には世界樹を辞めるもの、その力を振るい二本足の種族を従え王になるもの、様々なものがいた。
そして今の世界が出来、十二柱いた世界樹は今や六柱、うち二柱は現在機能を停止しつつある。
かつて世界全域に広がっていた祝福地や世界樹はいまや僅かな数を残すだけであり、魔王を倒したあとも世界は混沌とし続けていた。
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「そして、待望されていた累計十三柱目の世界樹となるのがソウヤ様なのです」
あと六柱の同僚がいて、一人は扶桑さん。
もう一人はエルシーさんの元主であったお姫様(仮称)の世界樹か。
「残り四柱ってどんな樹かわかる?」
そう俺が聞いた時のエルシーさんの顔が歪む。
めちゃめちゃ話したくなさそうである。でもいつかは知らないといけないことだ。
「個性的……ではもう通じませんね」
諦めたようにエルシーさんは話し始めた。
「北の世界樹が扶桑様、北東に私の元主ミルラ様がおられ、中央北側の荒地にソウヤ様、南東の世界樹がオー・オヤブン様、南のラ・ベッラ様、西部にハオマ様、そして東部に現存する最古の世界樹様がおられます」
「動きのある順番に紹介しますね。ラ・ベッラ様は……その、顔のいい男子を集めた国を建国しており女王として君臨しておりきらびやかに着飾ったお姿で有名でございます。オー・オヤブン様は『組』という組織を作りまわりの他の世界樹の領域を侵したり『ミカジメ』という税金を集め周囲に睨みを効かせておいでです……」
ラ・ベッラさんはあの美人姉妹みたいな感じの人なのか?
俺、あんまり女の人の趣味ってよくわからないけど、逆ハーレム作るって言っても俺ら木だよな。集めてどうするんだ……?
あとオー・オヤブンってなんだ。明らかに大親分だろそれ。
神様の人選ミスじゃないのか。明らかに反社とか、ヤから始まる自営業の方の匂いがするんだが……絶対会いたくねえなあ……。
「ハオマさんと最古さんは?」
「ハオマ様は三番目の古参の世界樹様です。保守的な方で自分の仕事だけを淡々とこなし、他の世界樹様と交流を持ちません。現存する最古の世界樹様は誰も名前を知っておらず、他の世界樹様との交流も僅かです。私も他の世界樹様とは全て面識がありますが最古の世界樹様のみお姿を拝したことがございません」
どっちも俺の味方になってくれるかは怪しいな。
「扶桑さんとミルラさんは?」
「ミルラ様は魔王との戦いで傷つき機能の半分を停止中、扶桑様は魔王を封印するために現在お力を封印に多く振り分けており、天候操作をかろうじてなさっているだけになっております。扶桑様のこと、今まで秘密にしておりましたことを心よりお詫び申し上げます……」
「そっか」
言いたくないこと言わせちゃったな。
でも聞けてよかった。あのとき俺が転生を断ってたら、きっと十三柱目、もしくは七人目の担当者がいなかったに違いない。扶桑さんはきっとエルシーさんを口止めしていた気がする。
定員人数を欠く職場の辛さは俺がよく知っている。
誰かのカバーをするために誰かが犠牲になり、その結果質は落ちていく。
その質をカバーするために残業、サビ残……。誰も幸せになれないループの出来上がりだ。
俺はこの世界に来て今のところ良かった、と思っているのでできれば扶桑さん、そしてエルシーさんの元主、ミルラさんのことも助けたい。
全てが解決したら俺は気持ちよくニート生活がしたい。
不安を抱えつつのニート生活なんて何も楽しくないもんな。
「残りの六柱はどうなったのか聞いても良い?」
「そうですね、お話しないといけないですね……」
「二柱は現存しません。一柱は反聖樹派の人間の王がテーブルに替えてしまい、国ごと滅びました。二千年前のことです。もう一柱は魔王に焼き尽くされ、灰も残っておりません……」
なんかこんなこと聞いてる俺のほうが悪人みたいな気持ちになってくるな。聞いてる俺も辛いが多分必要な情報なので頑張って聞く。
「残りの四柱ですが、いろいろな理由はありましたが世界樹を辞め、暗黒樹へとお変わりになってしまいました」
暗黒樹という名前には覚えがある。俺のどんぐり汁原液を収める箱の材料だったはずだ。
「暗黒樹は様々な要因で闇属性に傾いてしまった意志を持つ樹の総称です」
えっ、また厄ネタか……?
俺は戦慄しつつもその詳細を聞くことにした。




