第43話 矢投げ
昨晩はステータスの話で盛り上がって、無事にそのまま就寝した。
腕が動かせるってだけでも、自衛できる気がしてきて安心感からか前よりもぐっすり寝られた。
土に慣れただけかもしれないが、エーリュシオンさんのお布団魔法がなくても寝られるようになった。やはり腕があるのは良い。
エルシーさん他皆様は腕にあまり良い顔をしていないが、そのうち慣れるだろう。
「若君あそぼー」
日向ぼっこをしているとシオンがやってきた。
「ねーちゃんだかにーちゃんは?」
「魔法のおけいこだって」
「へー、どんな事するのかな?」
「なんかすごいかおしてまりょく出すれんしゅーしてる」
すごい顔ってのが気になるが魔法のお稽古か。
俺もやってみてえなあ。魔法学校の映画みたいなかっこいい魔法使いたい。
「シオンは魔法の練習しないの?」
「うーん……おれは弓がいいな!」
「やっぱエルフは弓ってイメージあるよなー、わかる」
「でもまだおまえにはまだはやいっていわれた」
「そうなんだ」
「まだおれの引けるサイズの弓と矢がないんだって」
「なるほど……」
よっぽど必要がないと子供用の弓なんかは作らないのかもしれないなあ。成長に合わせて作るのも不経済だし。
矢も、矢じりが尖って危ないし。
でも、弓矢が楽しそうなのはわかる。俺もやりたい。
でも、矢を撃ってくる世界樹って強そうだけどもうそれは世界樹じゃないよな……。お外では自重せねば。
「そうだシオン、ダーツしよう、ダーツ」
俺は適当な思いつきを口にした。暇だったので。
それに、正直ルールは全然知らないんだけど、生前やってみたいなーと思っていたのだ。
でも、ダーツが出来る場所はおしゃれそうな感じで陰キャリーマンにはハードルが高くて入れなかった。
しかし今なら木だし、おしゃれとか気にせず遊べる。
「ダーツってなに?」
「弓を使わないで矢だけ投げるやつ」
「おもしろそう、やるー!!」
『ほう、面白そうな競技ですな。わしも見学させていただいても?』
ダーツに引かれて男爵もやってきた。めちゃくちゃ二人の食いつき良いな。
俺もなんか腕使って遊びたいからちょうどいいや。
道具がないのは……我らが祝福地様がどうにかしてくれるだろう。
「エーリュシオンさーん!」
俺は気軽にエーリュシオンさんを呼び出す。
「なんだボンクラ」
一瞬で現れてくれた。ボンクラ呼びもむしろ愛着が湧いてきたな。
「ダーツの道具つくってください!」
「ダーツをそもそも僕は知らないんだが? お前、僕を道具屋か何かだと思ってるな……」
エーリュシオンさんはそう言いつつも俺が地面に描いた下手な説明と、いつもの直接思考読み取りによりいい感じのダーツの矢と的を魔法で錬成してくれた。
本当に気軽に作ってくれるけど、ものすごいことなんだろうな……。所要時間数分だったし。
「全員が投げ終わったら自動で手に戻って来る機能もつけといてやったぞ」
技術だけでなく気遣いも神だった。
俺は出来たダーツを、うにょうにょと蠢く枝で持ち、てい!と投げる。
ヘロヘロと飛んだダーツは的のギリギリに刺さった。
「うおおおおお!」
シオンのテンションが上っている。
俺の腕がキモい事には気がついて居ない様子でよかった。
「つぎはおれやるね! とおっ!」
全力で投げ、良い速度ではあったが的にかすりもせずに遠くに飛んでいった。
「当たらなかったけどいい速度出てる気がするぞ」
「えへへ」
自動的に手元に戻ってきたダーツを持ってシオンは照れ笑いをしている。
このダーツ、持っている人間に怪我をさせないように的を狙うときまで針が出ないような仕組みになっていて、よく出来ている。
戻ってきたのを手に取る時、針が出てたら危ないもんな。
この土地、地味にお節介焼きなのでは……。と思うが、有り難く恩恵に預かることにする。
数回投げると、さすがエルフの子供なのか、シオンはどんどん上達し俺とシオンの点数は互角になりつつ合った。
とはいえ、ルールも、正直真ん中にあたったほうが点が高いとか、そのくらいしか知らないので本当に雑な採点である。
「シオンは上達が早いな、僕が褒めてやろう」
「エーリュシオンさまありがとう~」
『確かに筋がよろしゅうございますな』
「やったー! だんしゃくにほめられたーっ!」
「俺も負けられないなー!」
腕を蠢かせて俺も頑張るアピールをするが、俺の腕の蠢きを見るエーリュシオンさんと男爵は残念な顔になった。
「まあ、木野が楽しいなら僕は構わないよ」
構いたいけど我慢している顔をなさっている。
あなたのやったことなので早く慣れてください。
空に浮いてるエーリュシオンさんと、その手のひらに乗った男爵が俺達のダーツごっこを観戦していたが、男爵はついに参戦を決意したようだった。
『わしも少しダーツをさせていただいてもよろしいですかな?』
「いいけど……ダーツの矢、デカくない?」
男爵がデカ目のダンゴムシとはいえ、身体より数倍大きいのだ。
『これがございます』
ダーツの矢より小さい、自前の槍だった。
ちなみに、異世界のダンゴムシは地球のそれによく似ているが別種なので食事用の二本の比較的大きい腕があり男爵はそれで槍を操っている。
「おお、だんしゃくのわざが見れる!」
シオンは興奮を隠せずにいる。
俺もちょっとは興奮している。たまに技を見せてもらうんだけど、大体すごい。威力もヤバい。
「お、いいねー、男爵がんばれー!」
エーリュシオンさんも応援を始めた。
『それでは失礼いたします』
エーリュシオンさんに一礼すると男爵は小さなダンゴムシの身体全体を使い、身体を捻るとその反動を使い一気に槍を解き放つ。
轟音とともに発せられた槍は衝撃波を放ち、一瞬にして的に突き刺さる。
さすが魔法の的だけあり、凄まじい威力の槍を見事に受け止めきった。サイズは爪楊枝より小さめの槍だが直撃を喰らえば大怪我は間違いなさそうだ。
男爵もエーリュシオンさんもすごいな。
日本で会社員やってたら見られない光景だ、と思うとちょっと感動する。
『なるほど、これは楽しゅうございますな!』
なんとなくニコニコしてそうなのがわかる。
「すごーい! すごーい! さすがだんしゃくだー!」
ダンゴムシの限界オタクシオンは草原をゴロゴロ転がりまわって男爵の勇姿を褒めちぎっている。推しの活躍を目の当たりにして狂わないオタクはいないもんな。
「あら、楽しそうなことをしていらっしゃいますね」
集落のお手伝いをしていたエルシーさんが帰ってきたようだ。
「ダーツという俺の前世の遊びをしてたんですよ」
「こちらでは投げ矢というんですよ。ソウヤ様の世界の投げ矢は投げやすそうな形をしていていいですね!」
エルシーさんがダーツを手に取りながらキラキラした目で見つめている。
蛍光カラーのやつにしてもらったから、色が好きなのかな?
「エルシーさんもダーツ……投げ矢で遊んだりしたの?」
「遊びにするという考えがございませんでしたね……。使うときは本当にピンチの時ばかりで……でも、確かにこれは楽しそうで、いいですね」
「因みにどんなときに使うの?」
「暗殺や、奇襲、あとは弓が壊れた時の遠距離攻撃手段ですね。主に毒を塗って使います。弓矢よりも更に音がしないんですよ、便利すぎます!」
「…………」
聞かなきゃよかった、と後悔した。
ニコニコしながら話しているが、あまりにも物騒すぎる。そういえば魔王倒したんだから、それまでもずっと戦ってたんだろうな……。
「私も、このダーツというのを投げてみてもよろしいですか?」
「う、うん……」
「じゃあお借りしますね」
エルシーさんは俺からダーツを受け取ってにっこりと笑った。
ここだけ切り抜くと、職場のきれいな憧れのお姉さんという風情なのに……。
エルシーさんは、一般的なダーツの投げ方のスタイルではなく、矢全体を包み込むように持ち、足を開いて大地を踏みしめた。
「えーい!」
かわいい掛け声とは裏腹に大リーガーもかくや、のフォームで剛速球の如くダーツが発射された。ブンッと音はしたが正直、早すぎて腕の残像しか見えない。
直後、ガッ!と良い音がして的のど真ん中にぶち刺さっていた。あれが刺さったら大体の人死にそう。エルシーさんにコントロール能力があって本当に良かった。
俺に刺さってたらあんなん即死だよ。
「守護者もやるじゃないか」
エーリュシオンさんが満足気に拍手する。
「ありがとうございます! それにしてもこの矢の投げやすいこと、とても素晴らしいですね…! 二百年前にこれがあればどんなにか……」
エルシーさんがやや危な目の感慨を抱いている。ツッコミづらい。
そういう事は忘れて遊んで欲しい。
『左様、これがあれば無駄な乱戦をいくつか回避出来たかもしれません。あの砦からの狙撃が失敗したのも弓がしなる音を聴いて砦の主が逃げたからですしな……』
男爵の感想もガチ目だ……。
「投げナイフや槍投げと違って傷跡を目立たなくできるのもいいですね。眠り薬とかを合わせると戦術が広がりそうで素敵ですよねえ」
出来ればお遊びとして捉えて欲しいが、245年前まで魔王と闘っていた、エルフ感覚でいうとつい最近の出来事で、だからそういう感想になっちゃうんだろうな。
「ソウヤ様、これお借りできませんか?」
ダーツを指さしてエルシーさんは突然の申し出をした。
「えっ、俺のじゃなくてエーリュシオンさんのだと思うけど」
「いいよ」
エーリュシオンさんは即返事をした。
「ありがとうございます!」
「何に使うんです?」
エルシーさんは少し頬を染めて
「集落って娯楽が少ないんですよね、これなら大人も子供も遊べるからいいかな、と思いまして」
ものすごく恥ずかしそうに言うが、俺はすごくいいと思った。
確かに、この集落、遊ぶものが少なそうだなとは思っていた。みんなで遊べたら楽しいよな。
「もし流行ったら俺も試合とか見てみたいな」
「うふふ、そうなったら御前試合を開きましょうね!」
「あはは、大げさですよエルシーさん」
俺は笑ったが、後日俺はこれが現実になるとは夢にも思わないのだった。




