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元社畜、どんぐりに転生する【完結】  作者: 芥部


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第39話 スーパー魔改造タイム



 ※三人称視点 草也に見せられない話をする回です

 

 ────その頃のエルシーの家の中


「どうなさったんですか、エーリュシオン様」

「そんなにやべー代物だったんすか?」

「いやー記録しましょう、ドキドキですね」


 各自好き好きなことを言う三人に、エーリュシオンは渋い顔をした。


「扶桑ってさぁ、こんなおばあちゃんみたいなやつだっけ?」

「おばあちゃん?」

「人間の言葉であるだろ、『孫を虫歯にするおばあちゃん』」


 そう言われて、ああー……。と三人は納得する。


 『孫を虫歯にするおばあちゃん』とはこの世界で孫可愛さに孫にお菓子を与え続け、孫のすべての歯を虫歯にしてしまった老婆がいたという実話に基づいた慣用句である。

 つまり、保護対象を甘やかしすぎる保護者ということだ。


「そんなにすごいんですか?」

「ヤバいね、劣化版僕の目だ。持ち出せる分もっと悪質かな」


 エーリュシオンは扶桑の枝をじっと見つめる。


「甘やかしにしても今の木野には毒すぎる」


 エーリュシオンは最古の祝福地である。

 最古の祝福地とは最古の土地精霊であり、地上において彼女より力を持つものは殆どいない。


 エーリュシオンは自分の支配する土地にいる限り神に次ぐ最大の権能を発揮できる。

 それは普通の存在には見えないような、存在の薄れた精霊、木野草也の魂のようなもの、建物や服を貫く透視(マナーとして彼女は普段はそれを使用しない)、身体に潜む病気やありとあらゆる呪詛や祝福、記憶、思考、それら思いつくものならすべてを見通すことが出来る。


 ただし、それはエーリュシオンが自らの支配地にいる限り。

 土地から離れれば強い精霊程度の力しか無い。それでも、凡百の聖樹やエルフ、魔族等では相手にもなれないレベルであるが。


「ステータスってやつも概念がわかれば見れると思うんだけど」


 エーリュシオンは悩む。


「本人に聞いてみたらどうっすか?」

「それしかないか」


 エーリュシオンはいきなり消滅し、数分後いきなり現れた。


「よし聞いてきたぞ! ちょっと使ってみるか……」


 そうして、枝の輪越しにエルシーやマギネ、アカシアを眺める。


「うんうん、さすが僕、出来たんじゃないかな」


 エーリュシオンは満足気に頷いた。


「うわー! すげーっす、さすがエーリュシオン様っす! 貸してください! 試させてください! 遊びたいッス!」

「いや、まだ駄目だ」

「なんでっすかー!」

「お前の魔力でこれ使ったら、一回で魔力切れ起こして頭痛で三日寝込むぞ」

「あっ……でもっ……面白いもの見れるなら三日くらいっ…ス!」


 エーリュシオンは無詠唱でマギネの頭に静電気魔法を使う。


「いったああああ! これ若君がいつも食らってるやつッスね! 興味深いっす!」

「お前懲りないやつだな……しょうがないな、使ってみてもいいよ。後悔するなよ」


 マギネはウキウキとしながら隣のアカシアを枝の輪で覗き込んだ。

 もちろん許可は取っていない。


「MP1500、HP250とか、完全記憶レベル8とか出てるっす!えーっと……あっ」


 急に消費された魔力に身体がシャットダウンをかけ、一瞬にして気絶してしまった。

 呆れた顔で、エーリュシオンがマギネに治癒魔法をかける。

 治癒魔法をかけられたマギネは一瞬にして回復した。


「こうなるのはわかってたから、一応僕は止めたんだよ。でも根性があって面白いね、嫌いじゃない」

「魔法とポーション大好きッス! その次に好きなのが魔道具ッス!」


 まだ若干魔力切れの頭痛があるのか、こめかみをもみながらマギネは元気に叫んだ。


「エーリュシオン様すみません、マギネも大分その……」


 エルシーは申し訳無さそうな顔をしているが、マギネの視点はずっと枝の輪に注がれている。

 エルシーは後で絶対にこの後輩の説教をしようと心に誓っていたが、マギネにはそれを知る術はなかった。


「学者達、魔力を制御するのに良いような材質に心当たりは?」


 エーリュシオンには普段道具を使って魔力を制御する必要がない。よって、その手の魔道具材料に心当たりはなかったのだ。

 エーリュシオンはほぼ全能だが、全知ではない。


アカシアが答える。

「手に入れやすいのはオークとかヤドリギですかねぇ……ミスリルとか、世界樹材、暗黒樹材もありますけど、レアで高価ですし……うぇひひ」



「うーん、オークかヤドリギのどっちかかな、これをこの枝にくっつける感じでいい感じに加工してくれたら僕が魔法を付与するよ。学者か守護者、工作は得意かい?」

「いいえ、でも集落に得意なものが居ります、ジェスロと申しまして家具、小物、魔道具の装飾など器用にこなします」


「じゃあ眼鏡じゃない方の学者、そいつを連れてきてくれ」

「うぃーっす!」


 十五分後、道具袋を持ったジェスロとマギネがやってきた。

 ジェスロは久々の全力疾走にぜえぜえと息を切らしていた。


「ご苦労」


 息を切らすジェスロにエーリュシオンが治癒魔法をかける。


「すまないね、職人。僕はエーリュシオン。最古の祝福地だ」

「最古の祝福地の御身よ、命名おめでとうございます。この老いぼれに御用と伺い参上いたしました」


「うんうん、君は丁寧で良い感じだね。みたかい、学者? それでねこの枝の輪にいい感じの柄を付けてほしいんだ」


 言外にエーリュシオンは『マギネ、普通の態度はこうなんだぞ』と伝えているがマギネに伝わっている様子はない。エーリュシオンは続けて説明する。


「この枝の輪はこの柄を持って覗き込むように使う魔道具で、ちょっと調整が甘くてね。柄をつけて一部の機能を制限したいんだ。制限は僕の方でやるから、この枝の輪に柄をつけてくれないか。材料の候補はオークかヤドリギ。頼まれてくれるかい?」


「畏まりました。こちらの柄ですと……ヤドリギがよろしいかと。材料はございますかな」

「僕が準備するよ」


 そういうとエーリュシオンはどこからかヤドリギの枝が絡まった玉のようなものを出した。

 ジェスロはそれを受け取ると魔力遮断の機能のある手袋を履いて、作業を始める。そして、マギネとアカシアはそれを邪魔しないように近距離で観察する。


「畏れながらエーリュシオン様」

「なんだい、守護者エルシー


「魔力量だけでしたら若君には問題なかったのでは?」

「魔力量の意味だけじゃないんだよね。あの魔道具はね、あれを通過させることで持つ者が見える可能性のあるものを全て見せるんだ。心や記憶まで見える可能性がある。あの木野はその使い方をしないとは思うけどね」


「私もそう思います」


「でもね、それ以外にも見えてしまうものがある。生前、身体が堪えきれないほどの苦役で心を擦り切らせた木野が、うっかり他の誰かの本音や記憶や気持ちを覗き込んでみろ。あんな生々しいもの。また絶対室内に引きこもりたいって泣き出すぞ、面倒くさいにもほどがある」


「なるほど、納得いたしました。エーリュシオン様のご慧眼に感謝いたします」


 エルシーは頭を下げた。


「だからね。しばらくは木野のおもちゃにしておこう。ステータス、というやつが見られるだけの枝だ。それならあまり害はないだろう」


 エーリュシオンは窓越しに外を眺める。視線の先には木野とゴムシー男爵が他愛もない話を楽しんでいる。


「扶桑がおばあちゃんになった理由が、ちょっとだけ分かるね」

「そうなんですか?」

「世界樹が元人間とはいえダンゴムシとも楽しく話し合っている光景なんて、僕の長い土地の歴史で見たのは初めてだからね」


 本当に楽しそうにエーリュシオンは窓の外を眺めている。


「そうですね……最初は『虫やだああああ!』って泣いておいでだったんですけどね」

「あはは、なんだそれ!」


 通常、世界樹は虫など恐れない。

 だが、鬱陶しい事はあるので近寄るな! など叱りつけて気に食わない虫に呪詛を放つ世界樹も稀にいる。虫と世界樹は共生関係にあるが、基本的には圧倒的に世界樹のほうが立場が強いのだ。


「シオン君が男爵をソウヤ様の植えられているお水に投げ込んでかき回したときに、『助けてー』って泣いてましたよ」

「それなのによくもここまで慣れたものだね」


「でも多分、守護者の勘なんですが。多分、毛虫とか芋虫見たら泣いて呼ばれる気がしますね……」

「はー、本当に赤ちゃんじゃないか……」


 呆れた顔で外を見るが、確かに木野の顔は世界樹に選ばれし者のする顔ではあまりない。

 ゆるんで、薄ぼんやりして、微笑んでいる。扶桑はだからこそ、この人選をしたのだろう、とエーリュシオンはふんわりと感じた。


「エーリュシオン様、完成いたしました」


 ジェスロがヤドリギの細い枝を使って綺麗に編み上げた柄をみて、エーリュシオンは満足した。


「いい出来だ、君は素晴らしい職人だね」

 そう言うと、エーリュシオンがちょい、と指を動かす。温かな光がジェスロを包む。

 わざと光を出したり、指を動かしたのは魔法を使っていると判らせるためである。

 本来なら無詠唱無動作で発動できるのだ。


「祝福だよ、しばらく君を護るだろう」

「腰と指の痛みが……!」


 ジェスロは何度も礼を言いながら退出した。


「慢性痛って魔法で治りづらいんすよね、それなのに流石ッス……!」

「いやー記録しがいがありますねえ」

「眼鏡の方、今回は記録する前に検閲いれるぞ」

「うっ……か、悲しい……でも承知いたしました……若君を護るのは聖樹族エルフの努めですもんね……」

「わかっているならよろしい」


 そうしているうちに、昼下がりになり、ようやく準備が終わった。



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