第38話 ステータスというお約束
「夢だったんだけどなあ」
異世界に行ったら『ステータスオープン!』って叫んで自分のステータスを見るっていう、定番のアレ。
絶対やってみたいじゃん。でも、出来なかったんだよね。
「夢? まだ寝てるのか、ボンクラ」
エーリュシオンさんのお口は相変わらず辛口である。俺は辛口も結構行けるので大丈夫。まだこのくらいなら。
エルシーさんも男爵もエーリュシオンさんに同意してそうな顔をしている。世の中は世知辛い。
「そういうわけじゃないんですが、俺が前世読んでた物語にですね、ステータスっていう概念があるんです。体重とか、身長って数値に出来ますよね?」
「出来るな」
「それと同様に、魔力とか、体力とか、器用さとか、それを総合して数値化したレベルとか、持ってるスキルとかをすべてまとめて表にして目でわかるようにしてあるのが、ステータスなんですよね。異世界転生といえばステータスオープンというくらいで、俺の憧れだったのに……」
残念なものを見るようなエーリュシオンさんの後ろから、急に賑やかな声がしてきた。
「何それ! めっちゃ面白そうじゃないッスか!?」
「わかる、面白そう」
マギネとアカシアのペアがやってきた。朝からこいつら暇なんだろうか。
「そういえば挨拶しないと駄目だったんじゃないの」
俺はちょっと冷たく二人にツッコミを入れる。
「残念でしたー! 祝福地に入る前にエーリュシオン様に挨拶してまーす!」
くっ、なんか微妙に悔しい。
「こら、マギネ! シア! ソウヤ様にも挨拶しないと駄目でしょう! 祝福地から出るときに少しお話しましょうね?」
エルシーさんがそう言うと、二人はは急に態度を買えた。
「おはようございます若君様」
「若君、おはようございます、本日もご機嫌麗しゅう……」
また急に単語数が増えた。最初から普通にしておけばいいのに……。
面白いから良いけど。
「おはよう、マギネ、アカシアさん」
俺は努めて冷静に挨拶をする。うっかりすると吹き出しそうだったので。
「で、何が面白そうなの?」
「そのステータスってやつッス!」
マギネの目がキラキラしている。
「面白い発想でいいっすね、新鮮ッス」
ということはつまり……。
「やっぱりステータスって存在しないの?」
「二百年ほど完全記憶魔法やってますが一度も聞いたことないですねー」
アカシアさんのセリフに俺はがっくりする。
「私も知らないっスね。あったら皆真っ先に若君のステータス見ると思うっすよ。面白そうだし」
マギネが追い打ちをかける。
まあ、それもそうか。自分が使える主のHPとか絶対知っておいたほうが良いもんな……。
それにしても俺のレベル、めちゃ低そう。
最大100レベルのうち、3もあれば良いところだろう。
「でも、近いものはあるハズっすよ」
「えっ」
俺の目が輝いた気がする。今急に葉っぱもツヤツヤし始めた気がする。
だって見たいじゃん、自分のステータス。
「魔力の大きさとかは数字じゃなくても、だいたいこいつはどのくらいの力があるな、って魔力の強い種族だとわかるんすよ」
「あー、筋肉みたいに見て強そうなのが分かる感じ?」
「近い感じッスね。周りに漂う魔力の雰囲気とかっす。エーリュシオン様とかになると、もうパッと見意味分かんないくらい強いっす」
エーリュシオンさんは、普段から銀色に光ってるからなあ……。
昼間でも夜でも煌めいているの、アレやっぱり魔力なんだ……。
「体力も、体の大きさとか筋肉の量とか、そういうので分かる部分ってあるじゃないっすか」
「あるな」
「それを魔法でまとめたら、数値化みたいなのは出来るかもしれないっすね」
「マギネ天才じゃん」
「いやーそれほどでもあるっす!」
その返しは初めて聞いたな。マギネらしくはある。
「でもその数値化するところが多分難しいと思うんスよねぇ……」
「だよなー、そんなのよっぽどのチートスキルでもないと……」
それを聞いたエルシーさんは、なにか思い出した顔をした。
「ソウヤ様、お渡しするものがあります。少しお待ち下さい」
そう言って家の中に戻り、そしてまたすぐ帰ってきた。
「扶桑様から言い遣っておりました。ソウヤ様が『ちいと』という言葉を出したら、これを渡してくれ、と」
エルシーさんが差し出したのは、丸い形をした、枝だった。
柔らかな枝を丸め、つややかな水引のようなもので縛って止めてあり、二点に紙垂がついている。まるで、金魚すくいのポイのようだ。
紙垂も水引も、久々に見たなあ。なんとも懐かしい。
「チートと関係あるのか、これ?」
「扶桑様がそう言っておられただけなので、詳しくはわからないのですが……」
エルシーさんが心から困った顔をしている。
「どうやって使うんだろう?」
そもそも、使うための手が俺にはないわけだが。
「申し訳ありません、そこまではわからなくて」
エルシーさんが申し訳無さそうな顔をしていると、それをエーリュシオンさんがつまみ上げた。
「僕はわかるぞ?」
「おおっ!?」
皆がエーリュシオンさんの言葉に聞き入る。
「こうだろ」
そう言うと、自分の目のあたりにその小さな輪を掲げた。
小さな輪越しに、エーリュシオンさんと目線が合う。
「なるほどなるほど」
エーリュシオンさんは納得したようだが、すぐに困った顔になった。
「うーん、これお前に手渡して良いものかな?」
「えっ、だって扶桑さんが俺にくれたってやつじゃないんですか!?」
「そうなんだけどな……」
エーリュシオンさんが何かを言いたそうだが言えなさそうな顔をしている。申し訳無さそうな、無茶を言われて困ったような、そんな顔だ。
「酷い、ゼロ歳児の俺からカツアゲするなんて!」
年齢を盾にする戦法をとる俺。
「ゼロ歳児の赤ちゃんはそんな事言わないだろ」
全く持ってその通りでございます。年齢戦法失敗。
でもカツアゲされるのはやだ。
「少し待ってろ、木野。守護者、学者ども、ついてこい。男爵、結界はあるが、こいつビビリだからな。ここでボンクラを護ってやってくれ。頼む」
『畏まりました』
「うぃーっす」
「はーい」
「ちょっとまって! 俺の扶桑さんの枝返してええええ!」
転生してようやく手に入れた、自分以外の素材ののチートアイテムが手に入る前に奪われてしまった。ちょっと悲しい。
なんかさあ、自分由来のチートアイテムって嫌なんだよね。
どんなにチートでも、自分の手垢がついてる光沢画面のスマホでゲームしてるときに何かで暗転して、うっかり見えた自分の顔……みたいな気持ちになる。
俺はそれ以来アンチグレア過激派です。
だから、どんぐり汁よりあの輪っかが今はとてもほしい。
それにせめて、どんな効果があるアイテムなのか自分の目で見て知りたい。
でもまだ、手足的なものがないので自由に使えないんですけども……。
『まあまあ、若君。エルシー殿を信じて待ちましょう。エルシー殿はいつでも若君の味方ですゆえ』
「うう、エルシーさん……」
『私も若君の味方ですぞ』
「ありがとう……」
そう言って気がついた。
「あれ? 男爵ちょっと大きくなってない?」
『左様ですかな? 自分ではなかなか難しいですからなあ』
「なってる気がするんだよなー、あとでエルシーさんにいって測るもの借りてみよう。俺もついでに身長測りたいんだ」
『良いお考えですな!』
そんな雑談をしているうちに、一時間か二時間か経ち、もう陽が真上にある。
時刻は昼になっていた。
エルシーさんの家からは誰も出てこない。
俺は若干の不安を覚えだしていた。
すると、エーリュシオンさんが飛び出してきた。
「うわっ」
エーリュシオンさんは自分の土地ならどこでも出没可能なので、ちょくちょくこういう心臓に悪いことが起きる。
「木野! ステータスってやつを思い浮かべてくれ、できるだけ詳しく!」
「は、はい……」
俺の魂のおでこに指を当てる。
「よしわかった!」
と叫んでまた消えた。
今度はマギネが
「ちょっと行ってくるっすー!」
といって祝福地を出ていったと思うと、ジェスロさんを連れて戻ってエルシーさんの家に駆け込んでいった。
家から出たり入ったりしているが、誰もこちらに来る様子はない。
「男爵、何が起こっているんだと思う?」
『わかりかねますが、魔道具には調整が必要な事が多いのでそれではないですかな』
「そうなの? ボタン押したらポチッと着くとかじゃないの?」
『ランタンくらいならそれでいいのですが、特殊な魔道具は調整無しで使うと上限無しで魔力を吸い上げ、死に至るなどの事がある、と騎士団時代に聞いた覚えがございます』
「うわ怖い、じゃあしょうがないかあ」
『左様、信じてお待ちするのがよろしいでしょうな』
「それでさ俺この世界に来てずっと気になってたんだけど……」
しばらく俺は男爵と雑談を続けるしか無いようだった。




