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第37話 二度目の成長期




「全くわけのわからない事ばかり言って! お前昨日から自分の体ががどれだけ成長したのか見てみろ!」


 エーリュシオンさんは俺の前に急に鏡を出してみせた。

 エーリュシオンさんはほとんどの魔法を無詠唱無動作で発動するのでこわい。


「うわっ」


 まず鏡に驚き、次いで自分の姿に驚いた。親指ほどの小さな四葉だった俺が、二十センチほどとはいえ、見てわかるほど木っぽくなっており、頭には白く小さな花が咲いていた。


「ソウヤ様、初開花ですね、おめでとうございます!」

『おお、我が主よ!そのお年での開花は天地開闢より初ではありませんかな。心よりお祝いを申し上げますぞ!』


 エルシーさんと男爵が喜んでくれて嬉しい。


「ボンクラ、見てわかったかい? 君は思ったよりも成長が早いんだ。木野に併せて屋根を作っていたら、毎週大工を呼ぶ羽目になる。僕はそんなの許さないけどね」


 俺も鏡を見て、正直成長の早さにびっくりしている。これ明日は、明後日はどこまで育つのか、自分でも怖い。


「そういや、じゃあ天候操作魔法ってのはそろそろ使えるの?」


 ずっと気になっていた事を質問した。


「うーん……成長が早すぎるから読めないが多分一ヶ月くらいか。……もっと短いかも」

「やったー!」

「根が地脈に接続すれば使えるようになるよ。でもなあ」


 エーリュシオンさんが苦い顔をしている。


「ああ……」


 エルシーさんも渋い顔をしている。何で?


「地脈に接続すると、場所が曖昧だったこの祝福地の座標が確定してしまうんだ」

「と、いいますと?」

「君の場所がジワジワとバレていくんだ。他の世界樹とかにね」


 えっ、世界樹って、あの評判の悪い木のことですよね? まあ俺も世界樹だが……。


「僕が常に結界を張っているけどね。位置がわかれば強制転移で割り込める高位術者もいるし、地脈経由で地面からくる不届き者もいるし。もちろん僕と守護者はそのためにいる。不埒者は片っ端からボコボコにしてやる予定だが」


 エーリュシオンさんは血の気が多い。

 エルシーさんも笑顔で頷いている。怖い。


「えっ。地脈接続ってそんなに怖いんですか!?」

「怖くないといえば嘘になるが、世界樹の育成のための栄養はほとんど地脈経由で得るんだ。君が育つためには必要なことだよ」

「怖い! エルシーさん、地脈接続ってしないとだめですか!?」


 エーリュシオンさんに比べて、比較的俺に優しいエルシーさんに質問することで万が一でもいいから俺に優しい回答が来ることを期待する。



「しないと駄目ですね……」

 万のうち9999の方来た。


「地脈接続がないと天候操作魔法も使えないんですが、写し身などの聖樹様特有の魔法や周囲を浄化する力、環境を改変し土壌をよりよく変える力、治癒魔法、そのへん全部が使えないんですよ……。それに何より、それだとただの木ですので、短い場合で百年くらいでお亡くなりになりますよ」


 多分新品でオフラインになってるアプリのないスマホくらいの役に立たない存在なんだろうな。表現に苦慮しているのを感じられる。


「うーん……俺元が人間だから百年は別にいいんだけどね」

『主よ、百年で主が亡くなったら、エルシー殿が悲しみますぞ』


 男爵が厳しいところを突っ込んでくる。


「……すみませんでした」


 エルシーさんが悲しむ顔は見たくないです。


「お前、扶桑の跡を継ぐんじゃなかったのか?」

「そうなんですけど、もっとなんか、ただ植えられていれば良いのかと……」

「確かに、世界樹の実情を知らない者から見ればそうなのかもしれないな。お前には少し同情しなくもないよ」


 珍しく、エーリュシオンさんまで俺に同情している。この先にどんなヤバい出来事が待っているのであろうか……。


「ちなみに、成長が早いって、普通ならこのサイズになるにはどのくらいのくらいの日数がかかるんですか?」

「普通は発芽に半年から1年半、そのサイズに一ヶ月ってところですね……」


 エルシーさんが困惑気味に話す。


「本当はどんぐりが地中にあるうちに、地面越しに聞こえる声や、遠く地脈から聞こえてくる声で世界の事を少しずつ夢の中で学んでいくんです。そして発芽してからは守護者や周りの聖樹族の者からいろいろなことを学んでいくものなのですが……」


 エルシーさんは更に困ったような顔になる。


「一万年分の記録からモデルケースを探しましたが、どんぐりの頃からの喋る聖樹の成長記録はありませんでした。前例がなく、ソウヤ様の守護者と従者たち全員が手探りでこれからどうしよう、という一族会議をこれから開くところですね」


「なんか、俺が思いついたグリッチ(どんぐり汁)のせいでご迷惑をおかけしております……」


 やっぱりゲームの最初一回目からグリッチで乗り越えようというのは駄目だな。

 ある程度、最初は真面目にやらないと……。でもできるって思っちゃったんだよなぁ。


「もう過ぎたことはどうしようもありませんし、全てが悪い方に向かっているわけではないですから。私は、少し楽しみなところでもありますよ」


 エルシーさんが優しいことを言ってくれる。


「転生したんだから、スキルの一つや二つ、あると思ってたんだよなあ」


 俺はため息を付いた。そして思い出す。


「あっ! そうだ! 異世界転生ったらアレじゃん!」

 俺は魂で決めポーズを取った。


 多分これを見られるのは、エーリュシオンさんだけである。しかし構わない。


「ステータス、オープン!」


 俺はかっこよくポーズをとり叫んだ。


「ん?」

「何をなさってるんです?」


 全員がきょとんと俺を見ている。

 俺は期待して虚空を眺めている。





 そして数分。

 何も、起こりませんでした。




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