第32話 ちひさきものはみなうつくし
「皆はそう言うけど、子犬とか子猫とかリスとか蝶々とか、かわいいじゃないですか」
俺は皆に言い含めるように語り始めた。
まずわかりやすい共通認識から入っていけば理解してもらえると信じたい。
「まあ、確かにそうですね……」
エルシーさんは一応納得してくれたようだ。良かった。
「僕の前世の古文書でも『ちいさきものは、みなうつくし』と言いまして、小さいものってぜーんぶかわいいよね、という見解が大昔から一般的でした。つまり小さいというのはそれだけで可愛いんです」
「うーん、わからんでもないんスけどねえ」
マギネは渋い顔をしながら一応納得している。
お、いい感じだ。この調子で時速160キロほどで口車を走らせていくぞ。
「また、小さな鉢の中に本当は大きくなるであろう樹を小さく植え育て、その鉢の中に小宇宙を見出すという一種魔術的でもあり、哲学的なですね……」
俺は心でろくろを回す仕草をする。
「あとは…その………………………」
ちょっと気恥ずかしくて小声で呟いた。
でも本当に一人で孤独にぽつんと植えられてるの、想像するだけでも辛い。
「それだけなのか? そんなの、守護者がここに住めばいいだろ。守護者の家くらいなら僕も許してやるぞ。木野、もしかしてアホなのか?」
エーリュシオンさんの言葉には容赦がない。
社畜の心はガラスのハートだからもっと優しくして欲しい……。
「エーリュシオン様、ほら、ソウヤ様には常識が……」
「そうだったな……」
エルシーさんもとどめを刺さないで欲しい。
ショック死しちゃう。
「すみません、もうちょっと俺に優しくしてもらえませんか」
「僕が厳しかったらとっくの昔に木野は消し炭になってるよ」
「因みに、参考に聞かせていただきたいんですが、他の世界樹と契約するってのは無しなんですか?」
「無いな。そもそもそんな適格者がいたらもう契約してるんだよ。それにお前のこと、扶桑にも頼まれてるからな。大きくなりたいんだろ?」
「はい……」
そう、大きくなりたいのは確か。
大変な過程はできるだけすっ飛ばしたい。
タイパを重視するのが平成に生まれ令和に生きたアラサーのサガである。
「うう、俺が大きくなってもエルシーさん一緒にいてくださいね……」
「もちろんですよ、ソウヤ様。私はソウヤ様の守護者ですから。命尽きるまでお側におりますよ」
「エルシーさん……!」
エルシーさんが俺をなでなでしてくれる。ああ、癒やされる……。
ここ両日得られなかったヒーリングパワーをエルシーさんの指から感じる。
「守護者、木野をあまり甘やかすんじゃない。そうやって甘やかすからいつまでも芽でいたいなんて言い出すんだ」
「エーリュシオンさん、それは違います。俺は生前から家から出たくないをモットーに社畜をしていました! 社畜をしていたのも引きこもり資金を貯めるためです!」
エーリュシオンさんがすごい顔をしている。
そんなに引くことだろうか。普通の話じゃないか……。
「そういうわけで、俺は命がけで引きこもりの準備をしていたわけです。エルシーさんが甘やかさなくても、俺は鉢植えの芽のままで一生を終えるのも全然アリな選択肢だと思います!」
俺は力強く、最低の主張をした。
しかし、己の心にウソを付くことはできなかったのだ。しょうがない。
「……僕は理解したぞ」
エーリュシオンさんはひょいと指を振り上げる。まるでオーケストラの指揮者のようだ。
すると、空が陰った。
「えっ!?」
上を見ると、三十メートルくらい上空だろうか、なにか巨大な土の塊のようなものが浮いていた。
全員が驚愕しているが、エーリュシオンさんは意に介さない。
土の塊の下に生えている草花が、一斉に左右に動き、地面を更地にする。
指を振り下げると、土の塊が地面に落下し、轟音と土煙をあげた。
消えていく土煙の中に、既視感がある。そこはかとなく見覚えのある建物ですね……。
「ほら、家だ。文句あるか? 守護者、どこに植える?」
「そうですねぇ……とりあえず、リビングの窓の前あたりに……」
あっこれガチの奴だ。
見覚えがあると思ったらエルシーさんの家だ。
「待って! まだ心の準備できてないから!」
「うるさい! 木野は黙って僕にされるがままでいろ!」
「だって俺に酷いことするんでしょ、エロ同人みたいに!」
「エロ同人?」
ネットスラングが通じるわけもなかった。突っ込まれても困るが……。
「この一帯全てに僕の祝福があるんだから、魔王だって入ってこられるわけ無いんだ、安心して植えられろ!」
「やだぁーー!! お家入るううううううう!」
俺の抵抗運動にイラッとした顔をしたエーリュシオンさん。指をちらっと動かすと、エルシーさんの指定した場所に大きく穴が空く。
「そーれ!」
乱暴に俺を掴むと、その穴に俺をすごい速度で投げ込んだ。
茎と根折れるやんけ! と思ったが、意外に大丈夫で、着地すると魔法の力で柔らかな土が俺を包みこんでくれた。
「いやだああああああああ、お家入りたいいいいいい」
「家の中で育つ世界樹がどこにいる、このボンクラ!」
もう木野とすら呼んでくれなくなった。
「ここにいますううううううう!」
でも、俺は最後まで抵抗を続ける!
絶対に諦めない!
数十分後。
全力での抵抗虚しく、家の窓、いつも男爵と日向ぼっこをしていた窓の前に、俺は植えられてしまった。
意外に苦しくはないが、もうどこにも連れて行ってもらえない……と思うとしょんぼりする。
そうして俺は、ついに家の庭(?)に植えられてしまったのであった。
辛い。
植物が地面に植えられた。字面にすると当然のことなのに、なんでこんなにつらいのだろうか。
俺はせめて植木鉢に植えてほしかったよ……。




