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元社畜、どんぐりに転生する【完結】  作者: 芥部


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第25話 限界オタク(ダンゴムシ)



 シオンが静かになるまで二十分ほどかかった。


 二十分くらい床でずっと顔を覆いながら


「かっけー……よすぎる……」


 と延々つぶやきながら転がっている。

 なんでこいつが日本に生まれなかったのか不思議なくらいのオタク仕草だ。


「落ち着いたか?」

「た、たぶん……」


 でもチラチラ男爵を見てはムッヒョー! と言わんばかりの顔になっては手で顔を覆い平静を装う仕草を繰り返している。


 男爵はあえて沈黙している。賢明な対応だ。

 今のシオンは男爵が何を言っても尊さで爆発するだろう。


 エルフの美少年という言葉から想像されてくる全てを斜め上に上回ってくるシオンに、マギネの時と同じ残念感があった。

 でも空想上の存在と実物が違うのはよくあることだ。諦めないといけないのは俺の方である。


「まあ子供は虫大好きだもんな」


 という俺の言葉にシオンはヘッドバンキングに見えるほど激しい頷きを返していた。


「やっぱ若君くらいになるとすげーダンゴムシもつかまえられるんだなー」

「え、 違うぞ。最初に捕まえたのシオンだぞ」


 俺の言葉にシオンは目を白黒させている。


「最初に会った日に連れてきたダンゴムシの一人が、こちらの男爵だぞ」

『左様、シオン様ですかな。若君からお話は兼ね兼ね伺っております。シオン様がその若君の水に私を入れていただいたおかげで覚醒できた仕儀にて。心からお礼を申し上げますぞ』

「えーっっ……!!」


 シオンは驚きでまたオタク仕草を再発しそうになっている。数分間尊さで心臓が潰れそうなのを堪えるオタクの顔をしていた。


「やはりおれがみつけたダンゴムシがさいきょーすぎたんだ……もしかしておれ、ダンゴムシのさいのーがあるのでは?」


 シオンが独り言を再開する。


「あー、おれはじぶんのさいのーがこわい! ダンゴムシのさいのーがありすぎる!」


 ダンゴムシの才能とは何だろう。気になりすぎるが細かいツッコミはやめておこう。


「やっぱみつけたばしょがよかったのかも」

「なんか特別な場所なのか?」

「うん! いっつも虫とれたり、花さいてるばしょある!」


 元気なお返事を頂いた。しかし気がつく。

 あっ。これ深入りしちゃいけない話題だ。フラグ鑑定士三級の資格がある俺にはわかる。


 この冬を楽しくエルシーさんと過ごすために、この話題は全力でスルーせねばならない。俺はおうちに引きこもりたいんだ。

 どうやって流すか考えていると。


「あっ、でもこれひみつにしろってにーちゃんにいわれてたんだ」


 明らかにシオンの顔が曇っている。

 年上の兄貴てなんか怖そうな雰囲気あるよな。俺一人っ子だったからよくわからんけど。


「そっか、じゃあ秘密にしておくよ、シオン」


 フラグ破断成功。ヨシ!

 手があれば猫のように指さしをした気分だ。


「あら、シオン。遊びに来ていたのね」


 後ろにいつの間にかエルシーさんが立っていた。両手にナタのようなものを持っている。怖い。もしや両手で薪割りをしていたのだろうか。


「もう日も暮れるわ、お家に帰りなさい」

「はーい!」


「いいお返事ね。それと、明日その秘密の場所のこと、詳しく教えてもらえるかしら?」


 悲報。フラグ折れてなかった。


 しばしシオンが考え込む。おそらくにーちゃんの怖さとエルシーさんの怖さを比較しているのだ。


「明日、にーちゃんといっしょにきます……」


 シオンは長考していたが、観念したようだった。エルシーさんの勝ちのようだ。


「いいお返事ね、シオン。はい、お土産よ」


 といっておそらくあのお菓子が包まれているだろう袋を手渡し、喜ぶシオンを俺達は見送った。

 シオンの生存を、俺は祈ることしかできない。


「エルシーさん、あの袋に入ってたのは……」

「ソウヤ様がご想像通りの物ですよ。薪割りのお礼にといただきました」


 この家、俺含め誰も食べられないのにあのお菓子をくれたマギネのセンスはどうなってんだ。緊急時のカロリー源とか、砕いて紅茶やコーヒーに入れるとかならアリかもしれない。いや、それでもどうかな……。


「……死人が出るのでは?」


 実際、俺は死にかけたし。


「それが、あのお菓子は子どもたちには好評なんですよねえ。舌が若いと受け入れられるのかしら……」

「マジか……」


 エルフって甘党多いのかな……。

 その日はそれ以上定植や祝福地の話題もなく、夕食のあとも無事に一晩を過ごす事が出来た。


 翌朝、エルシーさんと男爵と、楽しい朝食を終えた直後だった。

 コンコン。ドアをノックする音がした。


「ごめんくださいまし」


 聞くからに可憐な少女の声がした。エルシーさんに別のお客だろうか。そうだったら昨日のフラグも折れてちょうどいいんだが……。


 ドアを開けると、後ろにすごい嫌そうな顔をしたシオンを連れた少女がいる。

 シオンよりも5センチほど背が高くて白いワンピースに白い帽子、この集落の女性のエルフ達と同じような凝った編み込みの髪をした美少女だ。


「あら」


 エルシーさんの知り合いなんだろうか、と思ったけどそもそも集落のエルフは多くない。知り合いに違いなかった。


「おはようございます、エルシーお姉様、若君様」


 完璧なカーテシーをしてみせる少女。異世界転生漫画で百万回くらい見たけど、実物を見たのは初めてだ。


「はじめまして、世界樹の芽のソウヤです。貴女はシオンの……お姉さんですか?」

「はい♪」


 俺の質問に嬉しそうに答える少女。にーちゃんの代わりに連れてきたのか?


「シオンの姉、リオネ・エルダリー・アルビオンにございます」

「にーちゃん……」

「お姉様と呼びなさい」

「でもにーちゃんはにーちゃんだし…」

おねえさま(・・・・・)

「わかったよ、ねーちゃん……」

「まあいいわ」


 なるほど、男の娘かあ。まあ人にはそれぞれ事情があるからな。深入りはすまい。


「よく来てくれたわね」

「はい、エルシーお姉様がお呼びと聞きましたので! それで、どのようなご要件ですの?」


「シオンくんが言っていた、いつでも虫取りができて、お花が咲いてるという場所について教えてほしいの」


 エルシーさんは、ごく優しく聞く。

 しかし、リオネちゃんはくるっと振り返るとシオンに向けて修羅の顔をした。

 あっ、昨日エルシーさんに呼ばれたとだけ伝えて内容は一言も言わなかったやつだ。俺にはわかる。


 修羅の面を、エルシーさんには見せないように、極穏やかにリオネちゃんは振る舞っている。


「シオン、お家に帰ったらいっぱいお話しましょうね(説教するからな)


 そこはかとなく、副音声も聞こえてきた。

 大丈夫かな。でも俺には何も出来ない。自力で頑張ってほしい。


 くるりと振り返ったとき、もう修羅の顔のリオネちゃんはいなかった。


「しょうがないですねぇ。入れるかどうかは、保証しませんよ」

 そう言うとエルシーさんの方を向く。


「それでも、いいですか?」

「ええ、構わないわ」

「エルシーお姉様のためだもの、しかたないわ」


 絵面はなんか尊いんだけど……なんか百合成分を感じるのにそうじゃないの、不思議だ。


「行きましょうか、お姉様。あの丘に」

「ソウヤ様、参りましょうか」


 えっ俺も行くの。エルシーさんだけじゃだめですかそれ。と思ったが口には出さなかった。


「ソウヤ様も行かないと駄目です」


 心を読まれたらしい。


「わかぎみー。だんしゃくもいっしょに行こー」


 シオンがお気楽な発言をする。くそー、こいつだけ楽しそうだな。

 全ての元凶のくせによぉ……。


「男爵、ご一緒お願いできますか……」

『もちろんでございます』

「やったー!!」


 シオンが喜んで俺と男爵を抱えたエルシーさんの周りを高速回転し、それをリオネちゃんに睨みつけられている。何だこの構図。


 エルフの子供、エルフの男の娘、エルフの美女、そしてダンゴムシと四葉の俺。謎の組み合わせで、謎の土地に出発することになった。





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