第24話 キッズと俺
それから数日は何事もなく過ごすことが出来、俺の根っこも順調に増えている。
異世界に来てから一週間。双葉から、葉も四枚に増えた。マギネ作のお菓子以外好き嫌いせず食べたおかげだろうか。
ふたば組の年少さんを卒業し、よつば組の年長さんになったといっても過言ではないだろう。
異世界に来て最初の数日が色々ありすぎた影響か、今はゆっくり過ごしたいという気持ちが強い。
そんな気持ちとは裏腹に、日々昼の時間が短くなり、集落の皆は冬の準備に忙しい。
やがて冬が来るだろうことはなんとなく肌で感じる。
冬になればどうなってしまうのか、この辺の気候はどうなっているのか、不安だ。
俺はそれをエルシーさんに相談してみた。
「ソウヤ様はお小さくて、まだ天候操作はできませんからねえ」
「その魔法、度々聞くけど俺が何歳くらいになったら使えるんだろ」
「天候操作は加護魔法なので、もう少し大きくなって地面に定植してからですね。加護の範囲は広いですが植木鉢では大地からの祝福が得られませんから」
「祝福かぁ」
祝福は欲しいが、定植、正直したくないんだよなぁ。
ずっと外にいて、一人で、雨に打たれたり雷に怯えたりするぼっちの俺が容易に想像できるので……。
あと、水栽培や植木鉢にいる状態なら毎日エルシーさんと一緒にいられるし。
定植のメリットが実感出来ないんだよなあ。
でも天候操作魔法のない世界樹はありえないらしいので、どうにか世界と折り合いをつけて行かなくてはならない。
世界樹の入る植木鉢があるとも思えないし……。
大学に入ってから帰省するとき以外ずっと一人暮らしだったし、それが好きだと思っていた。それなのに立場が変わるだけでこんなにも嫌になるとは。
人間って不思議だ。
「冬はおうちで過ごしましょうか」
「やったー!」
インドア派にはおうちは救いである。めちゃめちゃホッとした。
「春になったらどこに植えるとかあるの?」
「小高い場所か開けた場所ですね。祝福地があれば今からでもいいんですが、見つかるかどうか運ですからねえ」
「祝福地?」
あまり良い予感はしない。
「大地の祝福が強く表れた場所で、冬でも暖かく、花が咲き、邪悪を寄せ付けない結界にもなっていると言われております」
「そんな都合のいい土地、もう誰かが先住してるんじゃない?」
そんなの絶対に住むし観光地になるだろ。頼む、近くにあったとしても先住民いてくれ。
そして俺を拒否ってくれ。せめて一冬お家にこもらせてくれ。
「祝福地に家を建てると、その祝福地は気を悪くして逃げ出し、祝福がなくなっちゃうんです。それに、妖精の魔法で隠されている事が多く、すぐそばに、それこそ家の裏にあるのに百年気づかれなかったなんて話もありますよ」
「祝福地、見つかってもそれだと近くに誰か住んでもらうわけにはいかないのか……」
エルシーさんとも他のみんなとも仲良くなり始めて来たのに、ぼっち生活に戻るのは嫌だなあ。
「祝福地に世界樹が植えられれば祝福地の格も上がるので、周りに城を作るとか極端な建築でなければ許してくれるみたいですよ」
「植えられれば、ってことは失敗することもある?」
不穏な単語は事前にチェックし言質を取る。ブラック企業勤めを生き抜く暮らしの知恵である。
「この一万年でも数件しかありませんがものすごく相性の悪い世界樹を追い出した祝福地の記録が残っていますね」
「相性が悪いことなんてあるんだ」
「世界樹や聖樹の皆様は個性的でおられますので……ソウヤ様は皆にお優しく、集落の者一同感激しております」
なんだその個性的って。性格が悪いのマイルドな言い換えじゃないのか。
成長したら他の世界樹とも連絡が取れるって言ってたけど、不安になってきたな……。
「あれ、世界樹の他にも聖樹っているの?」
そうだ、前々から気になっていたんだ。
「居られますよ。聖属性の強い魔力と意思をもつ木々が聖樹、その中でも特に大きく加護が与えられた木が世界樹です。聖樹から世界樹になる場合と、最初から世界樹として生まれる場合がございますね」
「じゃあ針葉樹の世界樹とか広葉樹の世界樹とかバリエーションあるんだ」
「ございますね。その土地や、聖樹さま御本人の方針に合わせた姿に成長されます」
子供達が赤い実がとかオレンジの実がとか言ってたのはそう言うことだったのか。
そりゃ樹種が違うなら生える土地や気候もバラバラ。土地や気候は人間の性格にだって影響を与える。
大地と気候に大きく依存する世界樹はさらに影響されるだろうな。
などと考えていたその時だった。
「シー姉様〜、お助けぇ〜……」
「エルシーさん薪割り手伝ってほしいッス……薪割り頑張り過ぎてもう腰と手が痛くって死ぬッス!」
アカシアとマギネが悲痛な顔をしている。
薪割り、重労働そうだもんな。明らかに学者肌の二人には荷が重そうだ。
でもこの集落、妙に男手がいないし、人も多くない。なんか理由があるんだろうけど、聞きにくいな。
「あらあら……ソウヤ様、私少し席を外してもよろしいでしょうか?」
「もちろんいいよ。何かあっても男爵もいるしね」
『もちろん、若君様のことはわしがお守りしますぞ』
男爵も快く引き受けてくれた。
ダンゴムシから放たれる槍は、人間だったときよりも大分威力は落ちたというが材木くらいならば一瞬で真っ二つにして木くずにするほどの威力がある。
それでもダメなら、俺が全力で助けを呼ぶこともできる。
以前試しにやったら、集落の人間全員の鼓膜を破壊しかけたので最後の手段ではあるが。
なんなんだろうな、この謎ボディ。
「いってらっしゃーい」
手伝いに行くエルシーさんに、心の中で手を振った。
「俺も手伝えたらいいんだけどな」
人間の姿ならもうちょっと色々手伝えると思うんだよな。都会育ちの貧弱サラリーマンだったけど……。
『若君様は育つことがお仕事ですぞ。育てば気候は温順となり冬備えの薪割りも必要なくなるでしょうし』
「あっ、俺が無能なせいで……」
『いやいや、若君様が普通のどんぐりだとしても冬をここで越すなら冬の備えは必要でしたぞ』
「この辺雪降るの?」
『わが祖国ティエライネンに近いですから多少は降るかと』
「へー、俺がいたところも年に一回か二回雪の降るところで……」
窓から入る緩やかな日差しを浴びつつ、男爵と雑談をしていると、ガラス越しに視界に入る生き物がいた。
その生き物は高速でドアを開け、絶叫しながら近づいてきた。
「うわーーーーーー 若君ーーーーー!」
「うわっ、シオンか。急に大声だして超接近するな。心臓が止まるかと思っただろ」
「ごめんー、あっ、ちがう。ごめんなさい」
この辺、エルシーさんの教育が活きてる雰囲気があるな。
「まあいいけど、どうしたんだ?」
「その! 超かっこいいダンゴムシはどこで拾ったんですかっ!」
俺じゃなくて男爵かよ。でもまあ、こいつならそうだろうな……。
『わしに何かご用ですかな?』
「しゃべってる! どうしよう若君、おれ、こんなにかっこいいダンゴムシうまれてはじめて見たっ……!」
シオンはお目目をキラキラさせて、白馬の王子様を目にした村娘もかくやという憧れの眼差しを男爵に向けている。
俺は調子に乗ることにする。
「そうだろう、そうだろう。俺を守ってくれる最強の騎士団長だからな!」
『若君様にお仕えする騎士を拝命いたしました。ダン・ジャック・ゴムシーと申します。若君様の幼き友よ』
男爵は合わせてくれた。優しい。
しかし、完璧なマナーで男爵が一礼してみせると、もう駄目だった。刺激が強すぎたのだ。
「ぎゃああああ、かっっこいいいいいい!もうだめ、かっこよすぎる!さいきょー!おれのかんがえたさいきょーのダンゴムシをこえてる!よすぎる!ちょうすごい!もうむり、たすけて!あーーーーーー!」
推しに会って限界突破して精神崩壊したオタクみたいだな、未来あるエルフの子供のはずなのに……。
俺と男爵はやや引き気味になりつつ、シオンが落ち着くのを待つことにした。




