第23話 ポジティブシンキング
「解呪して、ダンゴムシの身体から魂を開放するとして、肉体と強く結びついた魂がどうなるか。そして何より……魂を順調に開放できたとして、戻る肉体をどうするんです?」
「…………」
皆、長い沈黙に包まれていた。
「例えば、竜とか馬に変化させられた、とかなら予後は悪くないんス。肉体がデカいからそれを素材に人間に作り変えるのは、ものすごい難しいけど、出来なくは無いんスよ。でも、逆に小さいもの……虫、小鳥、ネズミとかだと大分厳しいんスよね。魔法で変化させられるのは、似たような質量か、元より小さな生き物だけなんですよね……。小人とかはまた別で、そのまま巨大化させればいいだけなんですけど……」
質量保存の法則って、魔法の世界にもあるのか……。
語尾が普通になっているあたり、マギネも精神的にきついんだろうな。
「ちなみに、大きい方向に変化させる魔法はめちゃめちゃ難しくて、小さい方向に変化させる魔法は比較的低レベルでできるっす。だから、昔話で何かをした人がネズミや小鳥に変えられたってのは、そういうことなんス。その、小さなものに変化させる魔法でも、普通の魔法の数十倍難しいんスけど」
なんか、魔王の性質の悪さが伝わってくる。
嫌がらせをするためだけに生きてるような印象で最悪だ。
『この身体にも大分慣れてきております。会話できるようになったことだけでも有り難いことです』
「……私、余計なことをしてしまったでしょうか」
エルシーさんが悲痛な顔をしている。どうしよう。いたたまれない。
「この世界は魔法があるから、魔法で何でもできるんだと思ってた」
俺は本音をポロリした。
「たまに若君みたいに、他の世界から来た人がいるんですけど、だいたいそうおっしゃいますね……」
いるんだ、異世界人。それとも地球人か、はたまたもっと別の世界の人か。気になるなあ。
『それでも、わしは記憶を取り戻して、楽しい時間を過ごせておりますぞ。今はそれで充分ではありませんかな』
男爵の表情は伺えない。もしかすると、強がりかもしれない。
「そうですね、そのお姿でなくては出来ないことが、起こるかもしれませんものね。そのときは是非、お力をお貸しくださいね」
エルシーさんが頭を下げた。
「長い事ポーションと魔法を研究してるんスけど、研究すればするほど、出来ないことが多いってわかっちゃうんスよ。こういうとき、神ではないものにできることの範囲を、考えてしまうんスよね」
マギネはしみじみとした顔で呟く。
「でも、若君のどんぐりの殻みたいに、面白いこともありますからね。これからも研究はするッス!」
「俺で良ければ研究にも付き合うよ……生きて帰れる範囲で頼むな」
マギネはゲラゲラと笑い、エルシーさんにチョップを食らっていた。うんうん、マギネはそういう顔してるのが似合ってる。
「うぇひ……確かに、若君のどんぐりの殻、面白すぎましたね。どんぐりから喋る世界樹の記録をできるなんて、完全記録魔法の術者冥利に尽きるってものですよ……いひ……まあ、記録に乗せるのは、大分あとだと思いますけどね」
アカシアさんが気になることを言う。
「リアルタイムで記録に乗せると若木狙いの色んな輩が来るものねえ」
なんだその輩って。ワイバーンより怖いやつだったら嫌だな……。
「そうなんですよね、なので、あと何十年か待ってから記録に書き込むと思います……皆の反応が楽しみですね、うひひ……」
『もしかするとわしも喋るダンゴムシとして記録に残れるのかもしれませんな』
「あー、絶対残します。面白いんで……うぇひひひひ」
和やかにガーデンテーブルの午後は過ぎていった。
どうなることかと思ったけれど、まあ、なるようにしかならないだろう。
蛮族やら魔王やら呪いやら恐ろしいことの多い世界だけれど、今の俺が仲間に恵まれたのは事実だろうから、それは本当に良かった。




