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第123話 初めての魔法



「皆に今日持ってもらっているのは、火のワンドです! 魔力を集中し、魔力をワンドの中の魔法石を通すことで、全てを火の魔法に変換することが出来るのです。まず、それをやってみましょう!」


 そういって、一人ひとりの前に燭台とろうそくが置かれていた。もちろん先生の前にも置いてある。


「じゃあ先生が見本を見せますね!」


 エフェ先生はマントを翻し、ワンドの先をろうそくの芯へと向ける。


「我が体に宿る精霊よ、内なる魔力よ、我が手に、我がワンドに来たれ」


 すると、薄く先生の体が発光し、その光がワンドに集まっていくのが目で見てわかる。なるほど、あれが魔力か。

 一分ほどかけてゆっくりと魔力が集まり、ワンドの先の魔法石が赤く光る。


「魔法石エーテライズ終了。安全制御装置、解放! 炎よ、我が元に来たれ!」


 すると、ワンドの魔法石から、ふわっとライターほどの炎が上がり、ろうそくに着火した。


「術式終了、力よ、我が体に戻れ」


 すると、魔法石からすっと光が消えた。

 なるほど、ここまでが一式なのか。確かにやる手順が多い。その分、わかりやすいというか、再現度が高そうに見える。


 生徒たちから拍手が上がり、もちろん俺も一緒になって拍手しした。


「やっぱり先生のまほうかっこいい! にーちゃんもそうおもうよね!」


 子供にフレンドリーに話しかけられた。


「確かにすごいです。俺も使いたいなー」


 俺は頷いた。同級生だもんな。俺も気楽に行こう。


 年齢差がありすぎるけど、まあ気にしない。魔法に関してはこの子どもたちのほうが一足先に進んでいるはずだからだ。 


 人間の魔法は確かに、聖樹族エルフやエーリュシオンさん、魔族の魔法とも違うもののようだった。

 皆、基本的に念で詠唱するか、なんならイメージで瞬間的に発動するから、ぜーんぜん参考にならないのだ。

 しかし、エフェ先生の実演を見て確信した。これなら、俺でも魔法を使えるかもしれないぞ!


 ちなみに呪詛なんかは詠唱や厳格な手続きをするので俺向きと思ったのだが、まず呪霊を確保しないといけないらしく俺と相性が悪すぎたのだ。

 俺、基本的に存在が聖属性だから、呪霊を集めようとしても呪霊が逃げてしまうんだよな。

 試しにペリュさんの呪霊をお借りしたら触った瞬間逃げられた。浄化の仕方なんて、消臭芳香剤ファブリーズを使う方法以外知らないのに……。何もしてない内から逃げるの止めて欲しい。


 それはさておき、生徒のターンが始まった。


 まず、一人目の女の子が元気よく挨拶をする。


「リディア・ニールです、よろしくお願いします! 我が体に宿る魔力よ、内なる精霊よ、我がワンドに来たれ!」


 すると、体がかすかに光るがさっきの先生と違いゆらゆらと揺れて不安定な感じがする。なかなかワンドの魔法石が光らないが、先生の倍以上時間をかけて魔法石が光る。


「エーテライズ完了! 炎よ、我が元に来たれ!」


 しかし、焦げ臭い匂いとともに煙が出て炎は出ずに終わってしまった。

 先生は怒るわけでもなく優しく教える。


「うーん、呪文を間違えてたわね。かなり近かったから煙は出てたわ。魔力の練り上げは良かったわよ! 暗唱できるようになるまでは教科書を見ながらの詠唱でもいいわ。それと、安全制御を解除してなかったわね。ワンドの安全解除ボタンを押しながら確認しないとだめよ、さあ、もう一回やってみて!」


 優しく修正点を教えてくれる先生。


「はい!」


 今度はたどたどしく教科書をチラチラ見ながら手順通りやると、無事成功した。無事灯った蝋燭の灯を女の子はドヤ顔で見せつけている。


 皆順番に魔法を成功させていき、最後俺の番になった。


 俺も皆のようにワンドを構え、教科書を横目に呪文を詠唱する。


「我が体に宿る精霊よ、内なる魔力よ、我が手に、我がワンドに来たれ」


 するとパリン、といい音を立てて腕輪が砕けた。金属製の腕輪に見えたんだが……。あまりいい感じはしなかったが、そのまま詠唱しようとする。慌ててエフェ先生が叫んだ。


「ストップ! ストーップ!! 弟君、ちょっと腕輪を今付け替えますね!」


 焦った様子のエフェ先生が自分の腕輪を外し俺につけてくれたのだが、また腕輪が砕け、俺がまるでサーチライトのように光り始めた。

 あ、これ魔力が制御できてないな……。と思った瞬間、先生は一瞬だけ考え込み決断したようだ。


「エルシー様! 弟君をそのまま抱えて私のあとに付いてきてください!弟君は詠唱はしないで、しばらくお待ち下さい!」


 エフェ先生が走り出すと、エルシーさんも俺を抱えてそれを追う。お姫様抱っこされるのも堂に入って来たな……。

 ついた場所は学校の中庭だった。エルシーさんは、そこで俺を地面におろしてくれた。


 先生は首から下げている笛に肺活量いっぱいに息を吹き込む。鋭い音が鳴り響き、学校中にアラームが鳴る。


「警備魔法発動! 魔法障壁起動! 周囲100トフィール間の生物の侵入を禁ずる!」

 エフェ先生が詠唱し、ワンドを周囲にぐるりと一回転振ると、先生を中心にして30メートルほどの円形に光の障壁が発生した。


「弟君、いいですか。まず、ワンドを上に高く掲げてください。ここからは私の指示に従って詠唱をしてくださいね!」


 俺は頷きで返事を返し、腕とワンドを天に掲げる。


「魔法石エーテライズ終了。安全制御装置、解放! ここで、親指の場所のスイッチをスライドさせてください! 炎よ、天に昇れ!」


 俺は先生の指示通りに詠唱をする。


「魔法石エーテライズ終了。安全制御装置、解放! 炎よ、天に昇れ!」


 すると、一拍の後にまるで遡る滝のように炎が立ち昇り、俺はその反動で倒れそうになったが無事エルシーさんに受け止めてもらえた。

 炎は数十秒出続けており、屋根よりも高く立ち上っている。これは、確かに障壁を貼らないと飛び火して危険だったかもしれない……。エフェ先生の機転に感謝しよう。


「術式終了、力よ、我が体に戻れ」

「術式終了、力よ、我が体に戻れ」


 無事、サーチライトのようだった体が通常に戻った。よかった、怪奇発光人間とかにならずに済んで……。



 炎が出たのは一瞬のことだったが、確かに俺は初めてまともに魔法を使えたのだ。しかも、適正がないはずの火属性魔法を。その感激で、俺はしばし空をずっと眺めていた。


 本当に俺があの魔法を使ったのか。すごいな、夢のようだ。

 子供の頃夢見た魔法がいま現実になったのだ。流石に、ちょっと興奮する。


 こうして結果を見るとエーリュシオンさんが以前言っていた、魔力の制御に失敗したら俺なんか消し炭になる、というのはあながち嘘ではなかったようだ。やはり最初はちゃんとした経験者に教えを乞うて正解だった。


 ちゃんとした経験者に、残念ながらエーリュシオンさんや聖樹族エルフの皆は入っていない。

 なんとなくで使う人達は参考にしてはいけないのだ。


「弟君、申し訳ございません! 世界樹の君の魔力に腕輪が耐えきれずに危険な目に合わせてしまいました、何とぞお許しください、他の生徒達にはお咎めがありませんよう……!」


 先生は平謝りをしていた。しなくてもいいというか、いい判断だと思ったんだけどなあ。


「いや、お詫びをするのは俺の方で……。なんか魔法が使えるのが嬉しくて魔力を出しすぎてしまった気がします。俺、写し身と天候操作以外の魔法を使うの初めてで……」

「左様でございましたか……そうですね、これからじっくりと魔力の調整の練習をなさると宜しいでしょう。その方法がこの教科書の……」


 といいかけたところに。


「うわー兄ちゃんの魔法すげー!」

「エフェせんせい、私もお兄ちゃんみたいな魔法使える~?」


 幼い同級生たちに囲まれて、もみくちゃにされた。ちびっこの攻撃力は時に大人よりも強い。

 幸いなことに、全ての失敗はちびっこたちの攻撃力でなかったことになった。

 大問題にはしたくなかったので、助かった。ありがとうちびっこ達。



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