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第122話 新入学の一年生(27歳)



 〽だんだんだーん♪ ダンダーン♪

 〽強い〜男爵ぅ〜ダンダンダーン♪

 〽聞こえも高き騎士団のぉー♪

 〽誉れもぉーっ、高きぃー♪


 この歌には聞き覚えがあった。

 俺は小走りで若いゴムシーさんを呼び止めた。


「あの、すみません。この歌は何の歌なんですか? 聞いたことがあるのですが詳しく知らなくて」

「えっ、聞いておられたんですか、お恥ずかしい……この歌は、260年ほど前に我が家の初代、ゴムシー男爵がドラゴン征伐をしたときに、当時のティエライネン王ユーミル十二世が、我が先祖の武勲をたたえ作られた歌でございます」


「そんな歌だったんですか!」

「はい、今は知るものも少ないですが、たまに歌のないバージョンが軍楽隊に演奏されたりしておりますね」


「素敵ないわれのある歌なんですね、教えていただいてありがとうございます!」

「いえいえ、ミルラ様の弟君もこの歌を知っていたとは、感激です。これを知れば、きっと我が家の初代もお喜びになると思います!」


 ゴムシーさんは満面の笑みでそう教えてくれて、足早に去っていった。


「男爵、あの歌、そんないわれがあったんですね」

『お恥ずかしゅうございます。若君に初めてお目にかかる際この老体は大分緊張していたのでございますが、国王陛下がわしの為に作ってくれた歌を思い出しながら自分を奮い立たせてお声をかけたのでございます』

「ずっと気になっていたんで、聞けてよかったです。今度は歌全部聞かせてください、歌詞が気になります」

『いや、お恥ずかしい……』


 男爵は珍しく照れているようだった。

 歌うことに対してなのか、歌っていたことを俺が聞いていたことに対してだったのか。


 わからないけれど、青年騎士ゴムシーは幸せそうだった。

 それを見ている男爵も嬉しそうだったので俺は満足である。ずっと、家族に会わせたいということが気になっていたので。


 その日は早く寝て、翌日に備えることにした。

 明日はマギネとアカシアを図書館に放流し、その間俺は学校見学をする予定だ。もう手段は問わない。俺は魔法が使えるようになりたいのだ。




 翌日、マギネとアカシアは青年騎士ゴムシーさんに案内され、ティエライネン王室図書館に出向いていった。

 俺は入らなかったけど、建物を外から眺めて説明を聞いた。


 図書館はいくつかの巨大な建物を数個渡り廊下で繋いでいるという、前の世界の基準で考えてもかなり大きなな建物だ。

 最大でも地上四階建ての建物だが、この世界では珍しく地下二階まであり、全てが六階建て。中はエレベーターもなく、全て階段らしい。そらそうか、エレベーターのあるペリュさんの店がこの世界基準だと異常なんだ。移動大変そうだな……。


「この建物の全部に本が詰まってるんスよ! うひょー!」

「あー本の匂いがもう漂ってる気がします、胸いっぱいに深呼吸ー!」


 ビブリオマニアの興奮は絶好調に達している。

 ちなみにこいつらは朝飯もろくろく食わず、昨日の夜も興奮でろくに眠れず、というか明日どんな本を読むかのガールズトークが深夜大音響で行われていた。

 もちろんエルシーさんが修学旅行の引率の先生宜しくお説教をするのを俺は別室から聞いていたのだが。



 俺は無事図書館に高速で吸い込まれていくマギネとアカシアを見守ったあと、そのすぐ横にある王立学園に案内された。

 王立学園には魔法学校と、騎士学校、実務学校の三つがあり、俺は魔法学校の見学をお願いしている。


 特に魔法学校の中でも、入学したての一年生のクラスを見学させてもらうことにした。俺は魔力はあるけど魔法が使えない。その状況をどうにかしたいのだ。

 一応、マギネとアカシアにも参加するか聞いてみたが本のほうが読みたいらしい。


 でも教科書は全学校、全学年分貰ってきてくれ、と無茶振りをされている。欲しいんなら自分で来いよ。俺、一応主人ってことになってるんですけど! 昨日のお淑やかな二人はどこにいったんだよ!?


 と俺は憤ったが、エルシーさんは考えるだけ無駄です、と言わんばかりに首を横に振った。こいつらよく従者に採用されたな……。



 魔法学校の一年生は特に魔力の才能のある子供が貴族平民問わず集められており、基本的に全員同じ服装をしている。

 人数は八人ほどで男女も同比率。先生は優しそうな女性だった。名前をエフェというらしい。


「みなさーん、今日は新しいお友達が来ていまーす! 世界樹ミルラ様の弟君、キノ君でーす! ご挨拶、でっきるかなー?」

「はーい! こんにちはー!!」


 子どもたちは元気に挨拶し、俺は頭を下げた。


「よ、よろしくお願いします……」


 見学だけのつもりだったんだが、なんか授業に参加することになっていた……。

 俺は一番うしろに用意された座席に座った。六歳の子供たちに混じって、同じ机と椅子に座るのはあまりにも恥ずかしかったが仕方ない。この際みっちり基本とやらを教わろう。


 そして、後ろにはエルシーさんが立っている。まるで俺の保護者のようだ、というか、保護者です。何年ぶりの授業参観であろうか……。


「では、今日は実習からやります。実習をする前のお約束、わかるかなー?」


 元気よく叫ぶ先生。


「あいさつ! つえ! まんと! うでわ!」


 子どもたちも元気よく答える。


「よくできましたー! では、それぞれ自分の杖とマント、腕輪をつけて、実習室に行きますよー!」

「はーい!」


「あ、キノ君は今日が初めてだったわね。先生の装備を貸してあげます!」


 そう言って、笑顔がチャーミングな先生が俺にウィンクをしてくれた。


 借りたマントは少し丈が短いけど、あまり問題はないだろう。杖は魔力の調整と強化のため、腕輪は過剰な魔力を杖に流さないように、マントはもし子供が間違った方向に魔法を暴走させても怪我をしないためらしい。

 よく考えられている。雰囲気のためとかじゃないんだな……。


 実習室は魔法を吸収する性質のある暗黒樹張りで出来ていた。

 めちゃめちゃ金かかってるけど、確かに普通の建材だと的を外した時、魔法で燃えたり壊れたりして困るもんなあ。子どものうちはそういう失敗もするだろうし。


「では、今日は魔法で火を灯します」


 あ、俺そういえば世界樹だから火属性魔法の適正無いんだよな……。俺は手を上げた。


「先生、俺、火属性魔法の適正無いはずなんですけど……」

「うふふ、それは世界樹の魔法のお話ね。人間の魔法は、ちょっと方法が違うの。一応試してみてくれる?」


 うーん、この子供に対するかような対応、懐かしいような気恥ずかしいような……。とりあえず、そんな態度はおくびにも出さず、俺はそれを了承した。



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