第119話 歓迎式典
ティエライネン王都に戻る理由の一つとして俺がティエライネン王からお招きを受けているらしいことがある。
「ミルラ様を治療していただいたお礼」だという。
別にお礼とかどうでもいいんだけど、と正直思う。
扶桑さんから受けた恩を返しただけだしな。正直そんな場に行くのは嫌だ。面倒くさい。マナーも全然わからない。
しかし、こういうところで遠慮をするのが皆にヨワワみたいに思われる一因なのかもしれないと思って一応招きに応じることにした。
これからの俺は強くなるのだ。ヨワワなどともう言わせない。
朝になり、出発の時間になる。
ドラゴンになったチカぴさんの周りに、俺達を見送るため大勢の人が来てくれた。
メアリーさんやその守護者、従者たち、そしてミルラさんとその関係者。
はじめに会った時は生気のなかったミルラさんも、泣きそうな顔だったメアリーさんも、今は元気に笑っている。
それだけでも、ちょっと無理をしてきた甲斐はあったかな。
「お兄ちゃん、また遊ぼうね!」
「はい、ミルラさんもお元気で!」
チカぴさんに乗り込む前、爽やかに挨拶をこなし、俺は機上の人となった。
上空は寒かったが前回来た時に比べて大分寒気が緩んでいたように思う。前回は刺すような痛みにすら思える寒さだったが、今日はコートを着ていれば耐えられるレベルの寒さだ。
籠から見下ろすと、以前はまるで薄い氷で包みこまれた凍てつく世界のように見えたティエライネンが、今は白い綿のような雪に包まれ、温かみさえ感じさせる。
天候操作魔法の恩恵がある時と、ない時。あまりにも温度や風の強さが違う。これは確かに世界が変わる魔法だ。
まあ、俺は、あんまりうまく使えないんだけど……。早く使えるようにならないとな。
「そういえば、今日は温かい気がしますね」
エルシーさんも気がついたようだ。
「なんか今日は暖かいね、うれしー! 前のときは前世で生足通学してた頃くらい寒かったのにねぇ」
やっぱりチカぴさんもそう思うか。
でもあまり無理はしないでほしいな、俺もやっぱりちゃんとした魔法を使って、一緒に旅をするときくらいチカぴさんに寒い思いをさせなくて済むようになりたい。
メアリーさんが魔法を使ってくれているのだろうか、王都までのんびり飛んでも三十分もかからず到着する。しかも、あまり凍えなくて済んだ。やはり冬だから暖かさにも限度があるんだろうけれど、有り難い。
以前到着した広場に近づいてくると、前回と様子が違う。雪に覆われているのは他の場所と変わらないのだが、広場から王宮への通路がきっちりと除雪されており、その道の左右に旗や槍を持つ衛兵たちが均等にずらりと並んでいる。
広場には誘導係のような人がいて、チカぴさんはその誘導に従ってゆっくりと滑空する。
その数分後、無事チカぴさんが無事着地し俺たちが籠から降り立つと、広場の左右にいた軍楽隊が、勇壮なファンファーレを奏でた。
「えっ、なんですか、これ!」
俺はオロオロと左右を見るが、皆きらびやかな礼装に身を包み、姿勢を正し俺達に敬礼を向けている。
こういう時、俺はどうすればいいんだろう?
(ソウヤ様、ほら、王様とご対面と言ったじゃないですか)
エルシーさんが耳打ちをしてくれるが、俺達が宮殿にお邪魔して、ちょっとお話して解散とかを想像していた。
(ええ、でももっと地味なイベントかと思ってて……)
幸いだったのは、コートの下にペリュさんのお店で作った礼装を着ていたことである。
アカシアとマギネはいつの間にか礼装に着替えていた。着替え魔法とかあるんだろうか、と疑問になったがあのワンピースで国王と対面とか、俺の胃が死んでしまうので本当に着替えてくれていて助かった。
もちろんエルシーさんはバッチリ決まっている。写真撮りたい。
「世界樹ミルラ様の弟君、木野様と魔族の王女ペリュシデア・ソレニア様、闇竜の姫君、そして従者の皆様、ようこそティエライネンへ!」
号令係の人なのだろうか、メガホンもないのに広場に朗々と声が響いている。これも才能なんだろうな。
仰々しい名前の読み上げの後、俺達に向けて観客は盛大に拍手を送る。うっ、辛い。どうしよう、こんなこと初めて過ぎて逃げたい。
(エルシーさん、どうしよう、何をしていいかわからなくて!)
(何もしなくていいですからどっしり構えていてください!)
どっしり、俺の人生で最も縁遠い言葉の一つである。おろおろの方ならズッ友だと思っている。
なんとか逃げ出さないことには成功しているが、俺は明らかに挙動不審になっている自覚がある。逃げてないことだけでも褒めてください。
オロオロと立ち尽くしていると、また別のアナウンスが始まった。
「ティエライネン第40代国王、ポッポ二世の来場でございます。皆様、拍手でお出迎えください!」
凄まじい歓声が上がり、馬車から小柄な人が降りてくる人が見えた。馬車のドアの前に控えているのは、以前使者として集落に着てくれたシエラさんと、その兄の宰相シジルさんだ。
中から降りてきたのは、体に見合わない王冠に被られているような感じの、ミルラさんよりも更に幼い幼女であった。
「余がティエライネン王にして、世界樹ミルラの守護者、ポッポ・ティーナ・ユグド・ティエライネンである!」
声優かなにかしていらっしゃいました? という感じのハチャメチャに可愛らしい声。
重そうにマントを引きずり、更に重そうに王笏を持っている。幼女にしか見えないが、その目には知性の光があり表情は大人びている。
エルシーさん、マギネ、アカシアが跪くが、ペリュさんとチカぴさんは跪かない。
(あの、俺も跪いたほうがいいですか!?)
(アホ! キノっちは王族と同レベルの扱いや、そのまま棒立ちしとき!)
ペリュさんにも叱られてしまった。
あれ、マギネとアカシアがまともに礼儀正しい……なんで? 俺相手にはルール無用の無法っぷりなのに……。
王様は、ズカズカとマントを引きずりながら俺の前に立つと、顎をクイ、と動かす。すると、宰相のシジルさんが抱っこして、目線が俺と並び立った。やっぱ跪いたほうが良かった気がするなあ。
「ミルラ様の弟君、木野殿よ、よくぞ王都に参られた。ミルラ様を救っていただいたこと、国民全てを代表し、余、ポッポ二世が礼を申し上げる」
シジルさんが国王を地面におろし、宰相のシジルさん、筆頭補佐官のシエラさん、皆が俺達に対して膝まずき、国王ポッポ二世だけが立ったまま礼をしてくれた。
俺も思わず一礼してしまう。
「丁寧なお迎え誠にありがとうございます。若輩者なので無礼があると思いますがお許しください。国王陛下に拝謁する栄誉をいただき誠に感激しております」
よ、よかった。なんとかそれっぽい事を言えた!
「木野殿は生まれて二ヶ月と聞いた。生まれて二ヶ月でそのような成長、さすがミルラ様の弟君と申すべきであろう!」
「有難うございます」
俺はさらに一礼した。この国王様、どう見ても5、6歳という感じの容姿だけどあまりにもしっかりしすぎている。正直、俺の百倍くらいしっかりしてそう。
「うむ、弟君は礼儀正しくいらっしゃる。守護者の教育が良いのだろうな」
国王がうんうん、と頷くとドヤ顔をするアカシアとマギネ。お前らのことは絶対褒めてないからな!?
「それでは、どうぞ馬車にお乗りください。ささやかですが歓迎の宴を用意しております」
国王は王冠に被られながらも優雅に俺達を馬車へとエスコートした。
俺は、国王のマントを踏まないように気をつけて歩くので精一杯だった。
6月17日の日間ランキングにランクインしてたみたいです(通知来てた)
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