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第105話 同床同夢



 ペリュさんはミルラさんを診察しつつ、所見を語った。


「そして、このアクセサリーや。指輪はおまけやな、メインは腕輪と耳飾りや。大きな血管の通る手首から力を吸って、耳飾りは脳につながって夢を見せとるんやろな。せやから、そのアクセサリーしとる時は穏やかな顔しとったんやない? 顔色は悪かったやろけど」


 聞いてみると悪辣な仕組みだな……これ、ネックレスやティアラも揃ってたらだいぶん不味かったんじゃなかろうか。逆に、それが揃っててなおたくましく生きているメアリーさんの生命力がすごい気もする。


「そうです……。それをつけているときのミルラ様は、いつも楽しそうでした」


 ルシアーネさんは唇を噛みしめるように呟いた。


「まあ、まだ若君一人分くらいの体力は残っとるらしいから、なんとかなるやろ。夢と眠りは、闇魔導師の領分や。これでも大ソレニアの娘やからな。得意な分野で助かったで」


 ペリュさんはすっと立ち上がって、ぽん、と俺の肩に手を乗せた。


「若君、じゃあミルラ様といっしょにベッド入ってくれん?」

「はぁ!?」


 思わず大声を出してしまった。それは、メアリーさんやルシアーネさんも同じで、思わず声が揃ってしまう。


「いや、この中で、抗魔力も魔力もあって、ミルラ様に楽しい夢、いうか明るい未来を見せてあげられそうな人が他に思いつかん」


「私じゃ駄目なの!?」


 メアリーさんが抗議する。最もである。


「じゃあ、言うてみてや。具体的に見せたい明るい未来、有るん? 」

「うっ……そ、それは。えっと、種を取り戻して、それで……」

「具体的な方法は決まっとる?」

「……」


 メアリーさんは何も答えることが出来なかった。


「若君は有るねん。一昨日扶桑様のところで聞いたからな。予定ではミルラ様と若君の夢をつなぐ予定なんやが、これは、『本当に出来る』と思ってない人とつなぐと、その人まで帰って来られんくなる可能性があるねん」


 おいおい、それは俺も怖いんだけど。でもやらないと先に進まないからやるが……。それならメアリーさんを除外するのは正しい方法だ。


 今、ティエライネンを救えるのはメアリーさんしかいない。最悪、ミルラさんと俺が共倒れになっても、メアリーさんとエーリュシオンさんの契約が有る限り、この辺り一帯を支えることが出来るだろう。


 自分でも冷酷な考えだなとは思うが、世界樹三人の中で誰か一人だけ生き残るならメアリーさんが適任だろう。

 もちろん、ミルラさんには助かってほしいが俺の力不足で助けられない可能性だってゼロではないからな……。


「せやからメアリー様は、安心してミルラ様が目を覚ませるように待機しとってほしいねん。ええか?」


 メアリーさんは、ぼろぼろと涙を流しながら頷いた。可哀想だけど、人柱になるならまず俺からだ。死んでも一番影響が出ないしな……。


「でも、せめて手を握るとかじゃ駄目ですかね、ペリュさん。こんな三十手前のさえない男の横で目を覚ましたら、ミルラさんだって驚くでしょうに」


「えー、けっこうイケメンやん? ……嘘ついたわ、すまん。フツメンやけど、そもそも驚けるくらいに元気になるならええことちゃうんか。そうやってどうでもええ心配できるくらいには、若君には余裕があるんや。だから、頼むで。無理やったらやーめた! って起きてくれてええから」


「夢の中でやーめた!とかって自由に思えるもんですか? 生前明晰夢一回も見たことないんですけど」


 俺が夢が夢であると認識できるようになったのは転生してからだ。それも、たまに認識できないただの夢を見ることもある。なので、やや不安がある。


「特殊な術やから大丈夫やで。それにな、こういう術は切羽詰まった人間がやると逆に失敗するねん。闇の精霊は何々しなければならない、みたいな気持ちを持った人を見ると、絶対に失敗させたなるんや。だから、若君が一番ええと思う。この中で、若君より冷静にミルラ様を見られて魔力が有るのおらんからな」


 そういえばそうだったな。闇の精霊は逆張りが大好きだとかなんとか……。

 つまり、メアリーさんもルシアーネさんもこの作業には適さないのだ。


「つまり魔力さえあればマギネでも良かった……?」

「いや、あかんな。ポーション作りたーのしー! って夢を見せられても起きたくならんやろ……」

「確かに……」


「はぁ? ポーション作り死ぬほど楽しいんスけど!? ミルラ様に教えて差し上げたいくらいっすよ!」

 マギネはこの状況で、瘴気に酔いつつもツッコミを入れてきて楽しい。面白いやつがいるのは良いことだな、と思う。


「まあいいか、しょうがない。本当に手を握るだけとかじゃ駄目?」

「同じベッドで同じ夢を見るのに意味がある術やねん。諦めーや。ほんま無理なら起きてくれればええ」


「はい……」


 俺は諦めて、最後に風呂に入ったのが一昨日なのでせめて別室で体を拭いて清潔にし、ペリュさんが出してきてくれた手術の時に着るような服に着替えた。


「じゃあ、ここに寝て、ミルラ様と手を繋いで。恋人繋ぎで頼むで」

「普通のつなぎ方じゃ駄目なんですか!?」

「恋人繋ぎとミルラ様を抱きしめるの、あとおでこくっつけ合うの、好きなの選んでいいで」

「恋人繋ぎでいいです」


 うう、ミルラさん本当にすみません。起きたら素敵な彼氏か彼女でも作って思い出を塗り替えてください。俺は諦めてベッドに入り、横になりミルラさんの手を握った。ミルラさんの手は小さく、そして奇妙に冷たかった。


 明らかにミルラさんの命がすり減っていっているのを感じる。こんな俺の手でも、少しは温もってくれたら良いのだが。


「ここからは、本格的に闇の呪詛使うから、闇の魔力に慣れてない人と夜目の効かん人は退出してや。それでもおりたいなら、ゲロを受け止める桶でも用意してな。でも、出来れば慣れとらん人は外で結界張ったり警備しとってくれると嬉しいかな。闇の魔力に惹かれて魔物が来る可能性もあるからな」


 それを聞いたエルシーさんは言う。


「ソウヤ様、では私は外を警戒してきます。魔力だけならルシアーネのほうが高いのできっとお役に立つはずです。絶対、戻ってきてくださいね」

「はい、無理はしない予定です」


 エルシーさんは微笑むと、弓を持って部屋の外へと出ていった。一緒にいてほしいけどしょうがないよなあ。


「私、天候操作してくるわ。そのために来たんだもの。ミルラが起きた時に外にいっぱい雪が降っていたら、きっと喜ぶと思うの」

「メアリー様、お供致します」


 メアリーさんとアルビオンさんも外に出た。


「私はどうするッスか? 見たいのは山々だけど、手伝うことがないと邪魔になるッスよね?」

「同じく……」

「魔力タンク代わりになってくれるんならおってもええよ。うちの魔力が足りんようなったらジンメン君くっつけて魔力吸わせてもらう感じで。常時魔力をチャージできるように、あの錠剤も適宜飲んでおいてや」


 イロイロナオールも便利なアイテムだよなあ。MPも回復できるんだったな、そういえば……。


「了解っす! じゃあ黙って魔力タンクになっとくっす!」

「同じく~」


 二人は部屋の隅で座って待機し始めた。まあ、足が壊疽する呪詛を喜々として受けるようなやつなら、邪気で吐き気がするくらいなんでもないだろうな……。


 残されたのは俺、ミルラさん、ルシアーネさん、ペリュさん、そして補助役として闇の魔力に強いチカぴさんとマギネ、アカシアが残った。


「ほな、始めるで」


 ペリュさんが宣言した。



すみません投稿順間違ってました……正しい順番は現在のもので

胡蝶の夢1

https://ncode.syosetu.com/n2722km/106


はこのエピソードの次の話となっております

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