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第九話 ツギノステップ

雪村ゆきむらが母親との対話を経て、少しずつ前に進む決意を固めたものの、心の中でまだ完全には晴れない曇りが残っているのを感じていた。母親との関係は確かに一歩踏み出したが、まだ時間が必要であり、それをどう乗り越えるかはこれからの課題だ。


一方で、あやはその決意を信じ、雪村を支えることを決して放棄しなかった。どんなに雪村がつらくても、彼が自分を必要としている限り、彩は彼の側にいると心に誓っていた。


ある日、雪村が突然言った。


「彩、少しだけ…君と一緒に過ごす時間が欲しい。」その言葉に、彩は少し驚いたが、すぐに心の中で感じた温かさが広がった。


「もちろん。」彩は微笑んで答えた。「どこに行きたい?」


「うーん…その、静かな場所で。」雪村は少し照れくさそうに言った。


そして二人は、雪の降りしきる中、町外れの小さな公園へ向かった。そこは日常の喧騒から離れた、静かな場所だった。公園のベンチに座りながら、二人は言葉を交わした。普段は何気ない日常を共に過ごしていたが、今日はその空間にしっかりと向き合っているような感覚があった。


「雪村、さっき言ってたこと…」彩は少し黙ってから、ゆっくりと言葉を続けた。「過去を乗り越えるって、簡単なことじゃないよね。でも、私はあなたが進む道を信じているよ。」


雪村は黙って聞いていたが、その顔に少しだけ緩やかな表情が浮かんだ。「ありがとう。君がいてくれるから、俺は今、こうしているんだと思う。」


その言葉に、彩は少し目を細めて微笑んだ。雪村が自分の支えを感じてくれていることが嬉しくて、心が温かくなった。


「でも、どうしてこんなに優しくなったんだろう?」雪村は少し苦笑いを浮かべながら言った。「俺、昔はこんなに他人を気にするタイプじゃなかった。」


「それが、あなたの成長だと思う。」彩は静かに答えた。「過去に何があっても、今のあなたが大切だって思う。」


その言葉を聞いた雪村は、少しだけ息を呑んだ。そして、心の中で決意が固まったようだった。


「ありがとう、彩。」雪村は真剣な眼差しで彩を見つめた。「俺、これからも君と一緒に進んでいきたい。」


その瞬間、彩は心から嬉しく感じた。彼が過去を乗り越え、未来へと向かって歩み始めている。そのことを感じ、彼と共に歩むことができる幸せを実感した。


しかし、そんな穏やかな時間が続くことはなかった。翌日、雪村にとって予期せぬ出来事が待ち受けていた。突然、母親が雪村の前に現れたのだ。


その日、雪村が学校を終えて帰宅したところ、家の前に見知らぬ車が停まっていた。そしてその車から降りてきたのは、雪村が何年も会っていなかった母親だった。


「雪村…。」母親は少し震えた声で言った。彼女の顔は、昔の面影を残していたが、そこにはどこか疲れたような表情が浮かんでいた。


雪村は立ち尽くし、少しだけその場で動けなくなった。「母さん…どうしてここに?」


「雪村、話がしたくて。」母親は雪村を見つめ、深く息をついた。「私はずっと、あなたと向き合うべきだと思っていた。でも、あなたが傷つくことを恐れて、なかなか声をかけられなかった。」


その言葉に、雪村は胸が痛むような感覚を覚えた。母親が長い間抱えていた思いを、今ここで初めて聞くことになるのだろうか。


「でも、今なら…。」母親はゆっくりと言葉を続けた。「今なら、あなたに伝えたいことがある。」


雪村は少しだけ震えるように息をつき、母親の方を見た。「母さん…」


その瞬間、雪村は決断を迫られていることを感じていた。過去の傷を、今まさにもう一度掘り起こさなければならないのだ。しかし、彩が支えてくれていることが、雪村にとって何よりの力となっていた。


雪村は静かに言った。「母さん、話をしよう。でも、今回は、全てを受け入れる覚悟で向き合わせてほしい。」


母親は少し驚いたように目を見開いたが、やがて静かに頷いた。


雪村は深く息をつき、そしてゆっくりと母親の元へ歩み寄った。過去を受け入れ、今を生きる。彼は一歩を踏み出した。その一歩が、どんな結果を生むのかはわからない。しかし、前に進むその決意は、彩の存在があったからこそ、雪村の中に強く宿っていた。

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