表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

第八話 ユキドケ

雪が降りしきる寒い日が続き、街はすっかり冬の姿を深めていた。雪村ゆきむらは、あやと一緒に歩くことが日常となり、少しずつ心の中に温かさを感じるようになっていた。だが、彼が抱える過去との向き合いは依然として終わりが見えない。母親との関係、そしてそれを乗り越えるための決断は、彼を深く悩ませていた。


そんな中、ある日、雪村から連絡があった。


「今から少しだけ話したいことがあるんだ。」短いメッセージが届き、指定されたカフェに向かった彩は、雪村がいつもよりも少し真剣な表情をしているのを見て、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。


カフェの一角で、雪村は少しだけ視線を落として座っていた。彼の手には、まだ温かいカップが握られているが、目の前の彼はまるで心の中で何か重たいものを抱えているように見えた。


「来てくれてありがとう。」雪村は静かに言った。


「どうしたの?」彩は、雪村の顔をじっと見つめながら尋ねた。


雪村は黙って一瞬の間をおいてから、ゆっくりと話し始めた。「実は、俺、今日、母さんに会ってきた。」


その言葉に、彩は少し驚いた。これまでずっと雪村が避けていた、母親との対話。それを、彼がついに実行に移したことに心から驚いた。


「本当に?」彩は口をついて出た。「どうだった?」


「最初は、何も言葉が出てこなかった。母さんも、俺を見ても何も言わなかった。」雪村は少し苦しそうに言った。「でも、少しずつ、お互いに言いたいことが出てきて、結局…」


雪村は言葉を止め、彩の方をじっと見つめた。その目には、解放されたような、そして同時に深い疲れが浮かんでいた。


「結局、母さんは、俺が何をしても許してくれないって、言ってくれた。でも、それが、意外とすっきりした。」雪村は少し笑うように言った。「俺がしたことは、もう取り返しのつかないことだってわかってる。でも、少なくとも、母さんが気持ちを整理してくれて、俺も自分がやったことを本当に反省できた。」


彩は、雪村の言葉をじっくりと受け入れ、そして静かに頷いた。「それは、すごく大きな一歩だと思う。」


「うん。」雪村は少しだけ強く頷き、そして深いため息をついた。「でも、ここからが本当の問題だと思ってる。俺が母さんを許してもらうには、時間がかかる。でも、それにどう向き合うか、俺にはわからない。」


その言葉に、彩は少し黙って考えた。雪村がどれほど苦しみながらも、その過去に向き合おうとしているのか、心から理解していた。そして、それでもなお、自分にできることがあると信じていた。


「雪村。」彩はしっかりと目を見つめながら言った。「今、あなたがやっていることは、過去を変えることじゃない。変えられないことを受け入れ、それをどう生きるかを選ぶことだと思う。そして、その選択を、あなたはすでにしている。それを私は信じているよ。」


雪村は、しばらく黙ってその言葉を反芻した。やがて、彼は微笑みながら言った。「ありがとう、彩。君がいてくれるから、俺は頑張れる。」


その瞬間、雪村は初めて、心の中で本当に過去を受け入れ、前に進む決意を固めたように感じた。母親との和解はまだ完全ではないかもしれない。しかし、彼はもう過去に縛られることなく、前を向こうとしている。


「でも、まだこれからだ。」雪村は言葉を続けた。「母さんとの関係がどうなるか、わからないけど、俺は一歩ずつ進んでいきたい。」


彩は微笑みながら、しっかりとその手を握り返した。「一緒に進もう。どんなに小さな一歩でも、あなたが前に進むその姿を、私は見守っているから。」


雪村は深く息をついて、そして力強く頷いた。二人はそのままカフェを出て、雪が降り積もる街へと歩き出した。彼らの足音は静かに響き、雪の中に消えていく。


過去を乗り越え、今を生きる決意を固めた雪村。彼の心にはまだ傷が残っているが、それでも一歩一歩進んでいこうとするその姿に、彩は心から寄り添い続けることを決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ