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第四話 ツタエタイキモチ

雪が降り続ける中で、二人の間に静かな約束が生まれた。雪村ゆきむらと歩く雪の日が、あやの心の中で大きな意味を持ち始めていた。それは、ただの寒い冬の一瞬の出来事ではなく、彼との関係が少しずつ形を作り上げていく、大切な時間の積み重ねのように感じられた。


その日も、放課後に雪が降り続いていた。校門の前で雪村を待ちながら、彩はその約束を思い返していた。「雪が降るたびに、またここで歩こう。」雪村の言葉が頭の中で何度も繰り返されていた。その言葉が、今の自分にとってどれほど大きな意味を持つのか、まだ完全に理解できていないのかもしれない。でも、確かに感じていた。それは、今後も続いていく何か特別なものだと。


しばらくして、雪村が現れた。いつもより少しだけ早くやってきたのは、もしかしたら彩を待っていたからだろうか。雪村は静かに彩を見て、ほんの少しだけ微笑んだ。


「今日は雪が強いね。」彩が言うと、雪村は頷きながら、やはり少し照れたように口元を緩めた。


「うん、でも、雪が降っているときの方が歩きやすいんだ。道が滑らないから。」


「それ、確かに。」彩は思わず笑った。その何気ない会話の中にも、二人の間に少しずつ溶け込んだ心の距離が感じられる。


二人はそのまま、雪が舞う中で歩き出した。静かな雪の世界は、二人を包み込むように広がっていく。しんしんと降り積もる雪が、世界を静かに浸していく。どこまでも白い景色に包まれながら、二人は歩いていった。


「雪って、やっぱり不思議だよね。」彩がふと口にした言葉に、雪村は少しだけ目を細めて答えた。


「うん。雪が降ると、なんだか心が落ち着くんだ。普段は考えないことを考えたり、静かな時間が心地よかったりする。」


「私も、雪の日は静かに過ごすのが好き。」彩は少し恥ずかしそうに言った。普段は賑やかな人たちに囲まれて過ごすことが多いが、雪の日だけは、ひとりでも、誰かと一緒でも、その静けさが心地よかった。


「だから、今日もこうして歩いてるんだ。」雪村が言うと、彩はその言葉に少し驚いた。彼は少し照れくさそうに口元を引き締めてから、また雪を見上げた。


「雪が降ると、思い出すんだ。」雪村は静かな声で続けた。「過去のことを…誰かと歩いたことを。」


その言葉に、彩は何かを感じた。雪村が大切に思っている誰かが、過去にいたこと。それが彼の心に残る記憶だということが、少しずつ分かるような気がした。


「誰か、って…?」彩は自然と聞いてしまった。過去の雪村のことが、少しだけ気になった。


「それは、まだ言えないよ。」雪村は少しだけ笑ってから、再び前を向いた。「でも、君には言わなくちゃいけないことがある。」


その言葉に、彩は胸の奥で何かが動いた。彼が言いたいこと、伝えたいこと。雪の中で、何かが変わろうとしていることを感じた。


「何?」彩は少しだけ緊張して問いかけた。


雪村は歩みを止め、しばらく沈黙が続いた。静かな雪が、周りの音を全部吸い込んでしまう。やがて、雪村はゆっくりと口を開いた。


「君と一緒に歩くと、心が軽くなるんだ。」雪村の声はいつもよりも真剣で、彩はその言葉に心が震えるのを感じた。「今まで誰かと歩くことがこんなに心地よかったことはなかった。だから…」


雪村は少しだけ顔を赤くして、視線をそらした。「だから、これからも、雪が降るたびに、一緒に歩こう。」


その言葉が、彩の胸に深く響いた。雪村が本当に伝えたかったのは、ただの約束ではなく、心からの思いだった。彼の目の奥にある真剣な気持ちが、彩の心に温かさを届けてくれる。


「うん。」彩は小さく頷き、そして静かに言った。「私も、雪が降るたびに、君と一緒に歩きたい。」


その言葉に、雪村は微笑み、また二人は歩き始めた。雪が降り続ける中で、二人の心は静かに、しかし確かに通じ合っていた。雪が降るたびに積もる思いが、二人の間に新たな絆を作り始めていることを、彩は感じていた。

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