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第二話 ユキノナカノ

雪が降り続く中、あやは自分でも驚くほど、雪村ゆきむらのことを考えていることに気づいた。彼との出会いから、毎日のように一緒に歩くことが増えていたが、それ以上に彼の存在が、自分の心に静かな影響を与えていることがわかった。


学校の廊下で、彩はふと雪村を見かけた。彼はいつも通り、無口で周りの騒がしさを遠くから眺めるような顔をしていた。でも、その静けさの中に、どこか温かさを感じることができるようになっていた。


「おはよう、雪村くん。」


彩が声をかけると、雪村は少し驚いた顔をしてから、少しだけ頷いた。普段なら彼はあまり自分から話しかけてこない。だから、彩が声をかけたことに、どこか照れくさい気持ちを感じているのかもしれなかった。


「おはよう。」


いつもより少しだけ、声が低くて優しかった。


「今日、雪降るかな?」と彩が言うと、雪村はしばらく考えるように空を見上げた。窓の外には、すでに雪が降り始めていた。彼が言う前に、彩はすでに予感していた。雪村は、きっと今日は雪が降ると言うだろうと思っていたから。


「降るだろうね。予報では夜まで降るって言ってたし。」


その一言が、彩の心に暖かい予感をもたらした。雪が降ると、二人の距離がまた少し縮まる気がしたからだ。


昼休み。食堂の窓から外を眺めると、雪はやっぱり強く降り続けていた。周りの学生たちはあまり気にすることなく、いつものように賑やかに話していたが、彩はその静かな世界に一人だけいるような気持ちになった。


その時、後ろから軽い声がした。


「今日は、放課後、雪の中を歩く?」


振り返ると、雪村が立っていた。何気ない一言だが、その問いかけに、彩は心臓が少し高鳴った。彼がわざわざそんなことを聞いてきたのは、何か特別な意味があるのだろうか。いや、ただの冗談だろうか。でも、そう思いながらも、彩は自然と頷いていた。


「うん、いいよ。雪が降っているときは、歩くのが好きなんだ。」


雪村はほんの少しだけ微笑んだ。その微笑みは、いつもよりも少しだけ柔らかくて、彩の心を軽くした。


放課後、雪がさらに強く降る中、二人は校門を出た。雪の降る街は、どこか異世界のように感じられた。街灯の明かりが雪の粒を照らし、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「こんなふうに雪の中を歩くのは、久しぶりだ。」彩が言うと、雪村は静かに頷いた。


「うん、雪が降っているときは、なんだか静かな気持ちになれる。」


二人は並んで歩きながら、無言のまま時を過ごした。雪の中での静かな時間。何も言わなくても、ただそばにいるだけで心が通じ合っているような感覚があった。


途中、雪村がふと立ち止まった。彩もその背中に続くように足を止める。


「雪って、どこか不思議だよな。」雪村はそう言って、ふっと息をついた。


「不思議…?」


「雪が降ると、何か心が静かになって、忘れていたことを思い出す感じがする。誰かと歩いていると、その気持ちがもっと強くなる。」


その言葉に、彩は少し驚いた。彼がこんなふうに感情を言葉にすることは滅多になかったからだ。でも、それは彼の心の奥深くにあるものを見せてくれたような気がして、彩は心の中で少しだけ温かくなるのを感じた。


「私は…雪の中で、また一つ、大切なことを思い出したよ。」彩は静かに言葉を返した。


雪村はその言葉に少し目を見開き、そしてただ微笑んだ。その微笑みが、彩の胸を温かく包み込んだ。


二人はそのまま、雪の降り続ける街を歩き続けた。言葉を交わすことは少なかったけれど、静かな雪の中で、二人の心は確かに寄り添い始めていた。

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