一脚の椅子から、哲学まで
椅子
あなたの起立するさまを見ると
哲学のアイディアが
ほとほとと沸き立つ
椅子
そのカラカラしていて虚脱な見た目すらも
わたしたちの認識を
わたしたちの美学を
造っている
西日の差した集会所で
あなたに、のしかかった飴色の体重
むかし、一時期賑わったリゾートで
乳製品の香りをさせていた少女、その重さ
すべての荷物
あなたは
期間が過ぎて燃やされて
灰になっても
存在する骨格として
いろいろ、深くおもいだす
むつかしい問いはやめよう
こすりつけるような答えもやめよう
背もたれは
いつも体温をもたないまま
わたしたちの体温に濁されてゆく
熟されてゆく
と、
誰かが
椅子を倒して
蹶然
立ち上がる
哲学とはそのようなものである