魔王を倒した勇者が投獄された
「カネメ・トルヤ。魔王を倒した勇者よ。其方の役目もここで終わりだ。あとは牢でしっかりと罪を償うがよいぞ!!」
勇者を召喚した国の国王は、勇者を投獄して言い放つ。
「は!? なんでだよ。俺は世界を救ったのに!!!!」
トルヤは鉄格子を掴んでわめく。
手錠には魔封じとスキル封じがかかっているから、外に出る方法はない。
くらい牢のなかでトルヤの声だけが響いた。
一年ほど前。ヨワイナ国は召喚士の総力をもって、異世界から勇者・金目取矢(16歳)を召喚した。
そしてトルヤはギルドで歳近い者とパーティーを組み、勇者にしか使えない魔法やスキルを駆使して、一年かけて魔王城に乗り込み、魔王を打ち倒した。
魔王を倒したのに投獄とは理解に苦しむ、とトルヤは叫ぶ。
「なぜ世界を救った英雄の俺が牢屋にぶち込まれるんだ!」
「身に覚えがないとは言わせないぞ、トルヤ」
国王の側近が、持っていた書面を一枚ずつ読み上げていく。
○月☓日 王都民家1 ケインじいさん
勇者がうちのタンスを片っ端から開けて、薬草と鉄の剣を盗んだ。
■月○日 ハジマリ村 ジーナばあさん
勇者に道案内を頼まれたから案内したのに、足が遅いもっと早く移動しろとなぐられた。
○月◆日 王都 民家2 トムくん
勇者がうちのツボを全部割っていった。
ぼくの木の盾も持ってっちゃった。
○月☓日 王都 ギルド受付嬢
勇者に1日100回話しかけられた。用事はないという。意味がわからない。
○月☓日 チイサナ王城・王の私室
勇者が私室に入ってきたあと、王妃のマントがなくなった。翌日、勇者の仲間がそれを着て歩いていた。
○月▲日 トナリ町 民家
勇者が店の樽をすべて壊した。寝室から毒消し草を盗んでいった。
○月▲日 トナリ町 武器屋店主
勇者が鉄の剣と木の盾を売りに来た。
買い取ったあと王都で盗まれたものだと判明した。
○月▲日 トナリ町 酒場 看板娘
ぱふぱふなることをしろと言われた。意味がわからない。
○月▲日 トナリ町 酒場 看板娘
勇者に入浴しているところを覗かれた。
▽月☓日 ゼンリョ市 学校 マルロ先生
勇者が教室を物色し、魔導書を5冊盗んでいった。
「トルヤよ。これはまだ序の口だ。訴状はあと500枚ある」
トルヤは白けた顔をしている。
鼻をホジり頬杖をつく勇者の手首についているバングルは、王室の宝物庫にあった先王の遺品である。
王と側近が怒りで顔を真っ赤にしながら、トルヤが悪事の限りを尽くしたことに対して怒る。
「えー、そんなんRPGだと定番っしょ。勇者が民家のものを物色するのはオヤクソク、お咎め無しなのも定番なんだよ。必要経費っつうの?」
「そんなわけあるかぁ!!!! 金なら装備を固めるための軍資金として国家予算の1割を渡しただろう!! それはどうしたのだ!」
「ポーカーにつぎ込んだら一晩で全部とけた」
国家予算1割を、賭博で消すとは。その場にいた者たちが絶句した。
「お主の国と違う場所ではあるが、刑法はちゃんと存在する。罪を償ってもらおう」
「嫌だ! 世界救ったんだからオンシャとかないわけ? むしろ一生遊べる金をくれても足りない」
「たわけが! 魔王を倒したことを差し引いても30年は牢の中じゃわい!!」
勇者トルヤと冒険していた者たちも勇者の感覚に毒されたのか、我が家のように民家に侵入し物を盗っていた。
今は全員牢屋の住人になっている。
この後、この世界において「異世界勇者召喚するべからず」という新たな法案が制定されたのは言うまでもない。
なお勇者は牢屋に入ってしばらくすると
「学校行かなくていいし寝てるだけでご飯出てくるし、ニート最高!」と楽しんでいる模様。