1章-8
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半壊となった六堂の練習場はすっかり元の様子を取り戻していた。
二人はプロテクターを付けると試合の段取りを付け始める。
「ルールは一対一。先に相手のHPを0にした奴が勝ち。これでやる」
「制限時間は無しでいいか?」
「無しでいい。私達のどちらかがギブアップするかHPが尽きるまで続ける。それと練習場から外へ出ても負け、これでどう?」
「それでいい。で、オレが勝ったら、対抗戦のメンバーに入ってもらう。負けたら、ゲームは無駄な努力だと言ったことを撤回する」
「ああ。・・・・・・じゃない!! 私の事を負け犬だって言ったことを撤回しろ!!」
「なんだそっちか」
「始めるぞ」
二人は一定の距離まで離れると、水面化でそれぞれの能力を発動するための準備を進める。
「行くぞ!」
先に動いたのは御影の方だった。
御影が右手を大きく突き上げるとその右手首を中心に鮮やかな青色の粒子が現れ、それが集約されていく。
現れたのは四角い形をした青い機械のようなオブジェクト。それは遠目からではよく分からないが少なくともで生物ではない事は明らかだ。
何かの装置だろうかと溝畑が思案しているうちに御影は種明かしに入った。
ポケットから一枚の大きめのカードのような長方形の紙片を取り出すと、それを右手首の青い機械に当てがった。
「・・・・・・変身!!」
「変身?」
御影がカードを機械に通すと彼女の体が青い光の膜に包まれる。それは彼女と一体化するように彼女自身の身体に吸収されやがて消滅した。
「覚悟しろ!!」
御影が言い放つ。どこから拾ってきたのだろう。いつの間にか彼女の両手には二丁の銃が握られていた。銃身が大きく、そして縦に長い。
御影は照準を溝畑に向けると躊躇なく引き金を引く。
現実の銃とは違い、放たれたのは実弾ではなく青い光を纏ったレーザー弾だった。
「・・・・・・おっそ」
しかし放たれた銃弾は一発たりとも溝畑を捉える事はなく彼の周囲を通過していく。
それもそのはず。放たれた銃弾は肉眼ではっきり捉えられるほどのスロースピードで、簡単に目で見て避けることができた。
「ふざけてるのか?」
「う・・・・・・。そうじゃない。余りにも瞬殺だったらプライドが傷つくと思って、手を抜いてやっただけだ!」
「へぇ」
御影は立て続けに銃弾を放つが、一向に弾速が早まる気配がない。
「そんなに連射しても逆効果だ。一発に集中して撃て」
「敵にアドバイスするな!! 教師かお前は!!」
御影は憤慨しながらもバラバラと弾幕を貼り続ける。しかし一発も溝畑を捉える事はなく、そればかりか弾の軌道がデタラメになった。弾は歪曲し、途中で勢いが止まり落下する。それに呼応するように御影は撃つのをやめた。
「ああもう。なんで当たらない!?」
「・・・・・・ふうん」
溝畑が独りごちていると間に御影はまた新しいカードを手にしていた。
「次は別のカードを使うのか? 大丈夫か? もう肩透かしはごめんだぞ」
「うるさい! というかなんで攻撃してこないんだ? ルールを忘れたのか?」
「オレが能力を使うのはお前のその能力発表会が終わってからでもいいだろう」
「・・・・・・その上から目線が気に入らない。次!! 変身!!」
御影が手にしたカードを勢いよくスライドさせる、が先ほどのような青い光の粒子が現れる事はなく、気まずい空気が辺りに充満する。
「・・・・・・あれ? もっかい。変身!!」
再び、今度は慎重にゆっくりとカードをスライドさせるが反応はない。
「やっぱ、ダメか」
「スタミナ切れだな」
「スタミナ切れ?」
「ガス欠だ。ロクに制御も効かないくせに無理したせいだ」
「じゃあ私はもう変身出来ないって事?」
「あと三十分くらいはこのままだ」
「じゃあ負けじゃん・・・・・・」
糸が切れた操り人形のように、御影はその場に崩れ落ちた。
溝畑はプロテクターを外すと、その場に胡座をかいた。まだ夏場には遠いとはいえ、私服での運動は普段よりも多く体力を使った。
「オレが勝った。約束通り対抗戦に出てもらう」
「嫌だ」
「あ?」
御影はこちらに背を向けたまま短く答えた。
「さっきの見たでしょ。全然駄目なんだ。能力なんて上手く扱えないし、力になれない」
先ほどとは打って変わって卑屈に訴えかける御影に、溝畑は少し戸惑った。それでも思った通りの感想を伝える事にした。
「その通り。ゲームと違って、弾は真っ直ぐに飛ばない。そもそもガス欠で二回目の変身も出来ない。このまま対抗戦に出場したらカモにされること間違い無しだな」
「おいおいおいおい。なんか執拗に私に精神的ダメージを与えようとしてないか?」
「気のせいだ。それで、さっき話した事だが、心配ない。すぐにでも克服できる。お前のやる気次第だがな」
「気休めはいいよ。というか、なんでそんなに博識ぶってるの?お前も同じ穴の狢でしょ?」
御影はグルンと寝返りを打つと溝畑を指で差した。
「オレは去年まで一条学園にいた。お前とは少し違う」
「・・・・・・マジで?」
「大真面目だ」
「え? じゃあ私勝てない相手に勝負をふっかけたって事? ああ・・・・・・」
頭を抱える御影を尻目に溝畑は立ち上がると倉庫から練習に使う人型のマネキンを運び、壁に立てかけるように置いた。




