1章-7
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「本当に金はあったんだな」
「当たりまえじゃん。私は、そこまでクズじゃない」
テーブルの上に所狭しと並べられた料理をまじまじと見つめながら溝畑は呆れ顔で呟いた。
「食べないの? 美味いけど」
「食うに決まってんだろ」
ものの数十分ほどで皿は空っぽになり、二人の間に気まずい空気が流れ始める。
少女はスマートフォンをいじりながら、時折り難しい表情を浮かべ、ため息を吐く。
「お前、名前は?」
「ん?」
「嫌だったらいい」
「いや、いいよ。御影梨央。んで、そっちは?」
「溝畑才志」
「ふぅん。・・・・・・はぁ」
御影がまたため息を吐く。彼女はそのままテーブルに突っ伏すと頭を左右に振った。
「なんだ辛気臭い」
「え? あ、いや。まぁ」
随分と歯切れの悪い言葉に溝畑は眉を顰めた。
「私の通ってる学校、なんか今年いっぱいでなくなるらしいんだよね。それでグロッキーになっちゃってさ」
しばしの間、場に沈黙が流れた。
「奇遇だな。オレもだ」
「奇遇って。はは、溝畑も六堂生なんだ」
御影は顔をあげ、ケタケタと笑う。隣のテーブルの家族連れからの冷ややかな視線が痛い。
「滅茶苦茶早いけど、これが最後の晩餐って奴かな?」
御影はスパゲッティを大口を開けて迎え入れる。よくもまぁ美味そうに食べるものだと溝畑は感心した。
「まだ廃校になると決まったわけじゃない」
「いやぁ。無理無理。なんか対抗戦に勝てば〜とかなんとか言ってたけど勝てるわけないって。ゲーム始めたての初心者が熟練者に勝つようなものでしょ」
御影は自虐するように呟いた。
「対抗戦に出るメンバーを集めてる。現在はオレ含め二人。最低あと三人は必要だ。・・・・・・出る気はないか?」
「なにそれ? 自分がヒーローになってやろうとか、そんな感じ?」
御影はストローでコップの氷をぐるぐるとかき混ぜながら、溝畑を嘲るような顔つきで見つめた。
「つまらないジョークだな」
「やめといた方がいいよ。勝てるわけないから。無駄な努力だよ」
「さっきのゲームとか、な」
「ふんっ!!」
「・・・・・・痛ってぇな」
溝畑が軽い口調で言うと、御影は露骨に不機嫌になり勢いよく溝畑の脛を小突いた。
「とにかく。私は出ない。負ける事が分かりきってる勝負に乗るほど、馬鹿じゃない」
「勝てる自信が無いだけだろ。気取んなよ」
「は?」
御影は食い気味に答えると目を細め、溝畑を睨みつけた。
「チームが負けても個人で勝てばお前は恥をかかない。個人で結果を出せば他の学校にスカウトされる可能性だってある。悪い話じゃないはずだ。能力者でいたいのなら藁にもすがる思いで参加するのが当たり前だ。
お前は結局自分が負けて大衆の目に晒されることを恐れているだけだろ。素直に怖いって言ったらどうだ?」
「・・・・・・」
御影は押し黙ると、罰が悪そうにストローをぐるぐると動かす。すでに中身は空になっており残った氷がカラカラと音を立てて踊っている。
少しの間居心地の悪い時間が二人を包んだ。しかし。
「・・・・・・しろ」
「ん?」
「なら、私と勝負しろ。一対一で」
御影はストローで溝畑を差しながら言い放った。
「ルールは一対一。対抗戦と同じでいい。私が勝ったらさっきの発言を全部撤回しろ。いいな?」
予想だにしない方向に話が進んでいるが、これはチャンスだとも言える。溝畑は素直に乗る事に決めた。
「ゲームじゃなくていいのか?」
「いい!!というかなんでお前そんなに自信満々なんだ? お互い落第の烙印を押された身のくせに!」
「場所は六堂の練習場でいいか?」
御影は大きく頷くと、コップの氷をガリガリと噛み砕きながら店外へと出ていく。
呆れつつテーブルを去ろうとした溝畑は気が付いた。
「あいつ、金払わず出て行きやがった」
随分と寂しくなった財布を悼みながら、溝畑は歩き出した。




