1章-6
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基本的に休日は暇だ。ゲームや映画、はたまたひたすら惰眠を貪ったりと怠惰に囚われる一日だ。
しかしこの日はそんな堕落的な快楽に身を委ねる気分ではなかった。廃校の件もあり気が張り詰めているせいか、何かしなければという危機感に襲われる。
溝畑は私服に着替え、街へと繰り出した。
総合運動都市には繁華街や商業区、工業区や研究区などの地区がはっきりと区分けされている。その全てを結ぶリニア鉄道が移動手段として一般的なものになっており、学生には定期券が学園から支給され、都市中を自由に行き来出来る。
研究区や工業区の一部などは例外で許可を受けた一部の人間しか立ち入ることはできない。その閉鎖性からか研究区では非人道的な能力者に対する実験が行われているなどの黒い噂が流れている。
手頃な駅で降り、繁華街に来ると同時に溝畑は少し後悔した。部屋にいると気が滅入ると思って外に出てみたはいいものの、人だかりの多さや暑苦しい空気に気圧され、結局外出しない方がマシだったのではないかと考えてしまう。
幸い、他の人々は溝畑の姿を見るとサッと道を空けるため移動に困ることはなかったがそれがかえって不愉快だった。
交通費だけ無駄にしてUターンするわけにもいかず、フラフラと辺りをほっつき回るものの行く当てのない繁華街巡りが上手く行くはずもなく、命知らずなキャッチに絡まれ人混みに酔い、溝畑は逃げるように近くのゲームセンターへ駆け込んだ。
街の喧騒とは裏腹に中は人が少なく、涼しい空気が身体を通り抜けていく。ホッケーやレースゲーム、リズムゲームにレトロなアクションゲームまで多種多様なジャンルの簡体が並ぶ。店内にはまばらに人がいるばかりでここなら寛ぐ事が出来そうだった。
シューティングゲームのコーナーに向かうと、一際目立つ人影があった。銃型のコントローラーを二丁持ちで携え、一人きりで二人用のゲームしている茶髪の女性。女性というには些か幼いが特に気になったのはその異様な振る舞いだった。
「ああ。クソッ。ああまずい! ダメだって!! 頼むから早く死んでくれ!!」
大袈裟に銃型のコントローラーを扱いながら画面に向かって叫んでいる。側からみたら痛い奴にしか見えない。
画面にゲームオーバーの横文字が表示されると少女はポケットに手を突っ込むとしばらく硬直し、小さく呟いた。
「もう・・・・・・ない」
少女はしばらく項垂れていたがふと視線を挙げた。運悪く溝畑と目が合う。
嫌な予感がした溝畑はすぐに踵を返し引き上げようとしたが、袖を掴まれ渋々対応する羽目になった。
「そこの人、お願い! お金貸して!!」
「は?」
溝畑は苦笑しながら金をせびる少女を見つめた。
肩まで伸びた茶髪はところどころに埃やほつれが見られ服装もお世辞にも綺麗とは言い難い。カジュアルというにはやる気のなさすぎるダボっとしたトレーナーとナイロン製のジャージが彼女の杜撰さをよく表している。
朝起きて部屋着でそのままここに来たという表現がピッタリだ。
「初対面の奴に金の話か。いい度胸だな」
「後少しでクリア出来るんだよ!頼む! 私を助けると思ってさ!」
「嫌なこった」
「後でちゃんと返すから! お願いだって!!」
「今家に取りに帰れよ。銀行も近いだろ?」
外に出ようとした溝畑を三度少女が引き止めた。
「時間が無いんだって。見てこれ! 後50秒で期限切れちゃうんだって」
画面に目をやると、「continue?」という太字の下でタイマーが作動していた。
制限時間内にお金を投入しないとデータが消される仕組みのようだった。
「諦めろ。人生こんな時もある」
「いやいやそんな人生論いらないって! 私と年そんなに違わないじゃんか!」
少女は目に見えて頬を膨らませた。
「この分からずやが!!」
「どうとでも」
「強情な・・・・・・。じゃあ!!一緒にやろう。私もプレイして、お前もやる。そうしたらピッタリだ」
「勝手に一緒にするな」
「これで無理なら・・・・・・」
「無理なら?」
「泣く。お前なんか怖いし、いたいけな少女とどっちが信用出来るか試してみよう」
「・・・・・・タチが悪いな。あと服装も悪い」
「どう、と、でも!」
普段ならそのまま帰宅していた事だろう。しかし、今日はなぜか流れに身を任せたい気分だった。
溝畑は無言で二人分のお金を投入すると、呟いた。
「一回」
「・・・・・・いいの?」
「オレの気が変わらないうちに早くしろ」
溝畑の言葉に少女は目を爛々と輝かせながら難易度選択ボタンを押した。
その後、スタンや毒などの害悪戦術を惜しげもなく使うステージボスを相手に、五回ほど追加の小銭を使う羽目になった。




