2章-16
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光陰矢の如し。対抗戦までの練習期間があっという間に過ぎ去り、気づけば後二日という所まで迫ってきていた。
結局、最後の一人を見つける事は出来なかった。あれから屋上の青年の元へは一人も通っていない。
勧誘を諦め、溝畑を除いた四人で三勝する方向に舵を切った。各々が自分の練習に没頭し時間と体力の許す限り足掻き続けた。
その成果が、多少なりとも実感できるようになったのがここ数日。
御影は銃と鉄球の能力を上手く切り替えて戦う術を覚え、学恋は三つの目印の間を一秒のインターバルで飛べるようになっていた。
御影は途中で縦に動かすことを放棄して横移動だけを練習した事が幸いし、作り出した巨大な手を目標に押し放つ事が出来るようになった。速度はお世辞にも早いとは言えないが、自身が上に乗って移動する事は可能となった。
そして・・・・・・。
「ああああああああああああ!!」
溝畑の作った別空間でひたすら壁崩しをしていた荻野も自身の限界を日に日に伸ばしていた。
相変わらず吹き荒れる風に規則性は全くなく、まるで制御の効かない猛獣のように壁の至る所に大穴を開ける。
「まぁ。これくらい出来れば本番は勝てる。問題ない」
隣で見ていた溝畑の髪は強風にあおられボサボサになっていた。プロテクターはダメージは弾くがそれ以外は全部通過してしまう。
「本当かよ・・・・・・。ずっとこの練習しかやってねぇけどよ。勝つビジョンが、ゴリ押ししかねぇんだけど」
「それが分かってれば十分だ」
二人は移動し練習場へと戻る。三人も帰り支度を済ませたようで、その中でも御影は大欠伸しながら目を擦る。
「明日ってさ。ふぁぁ。リハーサルなんだっけ?」
「ああ。二時間もかからない。すぐ終わる」
「もう、明後日には・・・・・・私達の進退が決まるんですね」
学恋が小さな声で呟いた。不安からか顔つきが暗く目つきが下がっていた。
「うん。ただでさえメンバーは一人かけてるから、厳しいのは当然だよ」
学恋とは対照的に御影は冷静に現状を把握していた。ただそれでも、彼の口からはポジティブな言葉は出ない。
少し靄がかかった五人の空気を一蹴したのは荻野の一声だった。
「勝とうぜ」
荻野には珍しく落ち着いた声色だったが、妙に安心のある声だった。学恋は少し顔を上げると彼の姿を見た。
「前も言ったけどよ。俺は最初一人だったから、不戦敗で終わりだと思ってた。けどみんな来てくれて、勝てるんじゃねぇかっていう欲が出始めたんだ」
荻野は周囲を見回しながら続ける。
「ちゃんとみんな練習したしやる事はやった。だから、気持ちが大事だと思うんだよな。負ける気で挑んだら勝てた勝負も、負けになる気がする」
「それはあってる。気持ちはプレイに出るっていうし」
「不安ならよ。思いっきり勝ちにいって、華々しく負けようぜ」
「・・・・・・それが出来る君が特別だと思うんだけど」
「同感です」
二人の返答に荻野は複雑な表情を浮かべた。
「それもそうか。人には人のアレがあるしな。まぁとりあえず言いたい事は、言いたい事は・・・・・・」
荻野は言葉に詰まった。
「・・・・・・勝とうぜ?」
「一気に中身無くなったじゃん。まぁでも、やるからには勝つ方がいい」
「ああ。それに、俺らは勝てるんだろ?」
荻野は溝畑を横目で見た。
「ああ。お前らは自分を過小評価し過ぎだ。そして、それと同じくらい他の能力者を過大評価している。上の数字の奴らの中に自分の能力をコントロールできる奴なんていない。
もちろん差はあるが、出来ることをして埋められたはずだ。十分勝負になる。オレが出なくても、だ」
溝畑の言葉に少しだけ四人の緊張が和らいだ。
「帰ろうぜ」
五人は練習場を後にする。
「うわ、これ見て」
御影がスマートフォンの画面を差し出す。
それはとあるニュース記事だった。タイトルには『六学園対抗戦が明後日開幕。総合運動都市内の宿泊施設は既に満員』とある。
「人すごい来るんだろうね。恥晒したくないなぁ」
「みんな親とか見に来たりすんのか?」
荻野の質問に皆が顔をしかめる。
「どうでしょう・・・・・・」
「知らないし言ってない」
「僕も同じ・・・・・・」
「まぁ。そうだよな。俺は一応伝えはしたけどよ」
皆はそれぞれ別れ、帰路につく。




