2章-15
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「で、ここにいんのか? その夜凪って奴」
「ええ。おそらくは」
荻野と学恋の二人は六堂学園の屋上前まで来ていた。理由は一つだけだ。この先にいるはぐれ者をメンバーに招き入れるためだ。
ただでさえ勝機が0に近いのに、人数のハンデまで背負ってしまってはどうしようもなくなる。そのため今日二人は引きずってでも彼を連れて行くと言う強い覚悟を持って来ていた。
「・・・・・・で。なんていうべきか。素直に言っても無理だったんだろ?」
「はい。門前払いをくらいました」
「まぁ。進む以外ねぇけどな」
荻野はまるで道場破りでもするかのように勢いよく扉を開け放った。
雲ひとつない青空の下、その綺麗な情景とは対照的に鋭い目つきで侵入者を睨みつける一人の生徒の姿がそこにはあった。
彼、夜凪玲央は面識のある学恋の方に目をやると、手に持っていた細長い何かを隠す。
「お前が夜凪、だろ?」
荻野は笑みを浮かべながら近づく。
「だったら?」
夜凪のすぐ前まで来ると、荻野は大きく頭を下げた。
「頼む!! お前の力が必要なんだ。一緒に対抗戦に出てくれ! 頼む!」
「・・・・・・それについては前にそいつに返事した」
夜凪は学恋を指で指す。
学恋は苦手意識を持ってしまっているためか、夜凪からかなり距離を取っていた。
「えっと。その・・・・・・」
「一人にしてくれ。邪魔だ」
そう言って夜凪は一つため息を吐いた。荻野はその姿を見て不審に思った。まるで彼が、憔悴しきっている様に見えたからだ。
「なんか嫌な事でもあったのか?」
「うるさい早く消えろ」
夜凪は聞く耳を持たず、まるで縄張りを荒らされた事に苛立つ猛獣の様に二人を睨みつける。
「ごめんなさい。やっぱり帰りま」
「消えろって。やなこった。なんでお前の言う事聞かなきゃなんねぇんだ。ここお前の所有地でもねぇだろ」
荻野の煽りの入った一言が、学恋の言葉をかき消す。
「ちょ、ちょっと!」
夜凪の眼光がより一層強さを増す。が、荻野はそんなことはお構いなしに続ける。
「さっきからこっちが下手に出てりゃいい気になりやがってよぉ。・・・・・・俺と勝負しろ」
「何の話だ?」
「シンプルだ。俺が勝ったらメンバーに加わってもらう。負けたらもう金輪際俺はお前を勧誘しない。どうだ? 勝てば煩わしい人間が一人消える」
「くだらない。俺には関係がない」
「受けるまで帰らねぇよ」
「俺が帰る」
夜凪は立ち上がると二人の横を通り抜けようとする。
「・・・・・・待ってください」
これまでほとんど口を開く事のなかった学恋が、夜凪を制した。
「貴方の生徒手帳を拾った分の借りを、まだ返してもらってません。・・・・・・荻野くんと、勝負してください。それでチャラです」
我ながら無茶な要求だと学恋は自虐した。理論破綻もいいところだ。彼に要求を飲むメリットなど何もなかった。
夜凪は無言で彼女の隣を通り過ぎ、姿を消した。
「まぁ・・・・・・。無理か」
荻野はそこまで気を落としていない様子だった。柵に寄りかかり今後について憂慮する。
「でももう他に出てくれそうなやついねぇんだよな。同じ学年の奴は軒並み勧誘したしよぉ」
「現実的なのは、四人で三勝する事、だと思います」
「兎にも角にも、俺らに引き下がる選択肢はねぇよ」
二人の間に一瞬の沈黙が訪れた。
「練習すっか」
「練習しましょうか」
対抗戦までの日数は残り十日まで迫っていた。




