2章-14
「瞬間移動前に助走をつけると、何故か攻撃力があがるんでしたよね?」
「ああ。今は理屈は考えなくていい。とりあえず次は助走をつけてやってみろ」
「ええ」
突如、ブラックホールのような真っ黒な円形の空間が現れた。中からゾンビのように手が、そして身体が突き出てくる。
「え!? え!?」
「うわ何これ気持悪」
すぐにその全貌が明らかになった。
「ぐ、うぐぐぐぐ」
苦悶の表情を浮かべながら荻野が地面に這いつくばる。その息は荒く、呼吸と共に身体全体が大袈裟に上下する。
「休憩か?」
「はぁ、ちょっとタンマ!」
ひとしきり息を整えた後、荻野はニヤリと笑って答えた。
「全部ブチ抜いたから、戻ってきた」
「・・・・・・へぇ」
溝畑は穴の中に姿をくらませると、またすぐに帰ってきた。
「二十じゃ少なかったな。倍にしておいた」
「倍ぃ!? いや無理だって! 二十枚ですらギリギリだったっていうのによぉ」
溝畑は必死の抵抗を示す荻野を抱え上げると、そのまま彼の身体を穴の中へと投げ入れる。
「おい! お前ふざけんなよほんとによぉ!!」
穴が閉じ、辺りの景色はまた平穏を取り戻す。
「続けるぞ」
「うん。・・・・・・じゃない!! なにさっきのブラックホールみたいな奴! 溝畑の能力? あれ?」
御影は食い気味に問う。
「ああ。オレの能力はいいだろ。優勝したらいくらでも見せてやる」
三人は気を取り直し、また練習を再開する。
その日の練習は日が暮れ、夜が深くなる時間まで続いた。
「あぁ・・・・・・。ああぁぁぁぁああああ!!」
溝畑の能力による懲役を終えた荻野が奇声と共に倒れ込む。
「成果は?」
「三十・・・・・・五枚だ。てかお前あの壁時間が経つと元通りになるのズル過ぎるだろ。あぁ」
「・・・・・・帰るぞ」
床にへばりつく荻野を一人残し、四人は帰り支度を済ませる。
「待て待て! 置いてくなよ」
*
「お前にもこれ聞いておこう。綾瀬、自分の能力をどうやって自覚したか教えてよ」
「え? ・・・・・・言わないといけない?」
綾瀬は眉をひそめた。まるで触れられたくないトラウマを蒸し返されたかのような、暗い表情を浮かべている。
それを察し、御影はすぐに取り繕う。
「いや、ごめん。いいよ。言わなくて」
「そう? なら言わないよ」
綾瀬は作り出した手を左右に動かしながら、自らの手も同じ動きを真似する。
能力で作った手と自分自身の手の動きをシンクロさせる事で能力の精度が上がる事に気づいた。
最初はモノを乗せただけで爆散していた手も今ではすっかり重みに耐えうるだけの耐久性を手に入れていた。
相変わらず作れる手の数は一つだけだが、大きさに関してはカゴ基準の物については枠の無い状態でも手を作ることが出来るようになっていた。
能力を使った攻撃に関して、綾瀬はずっと考え続けていた。いくつか候補が上がったが、結局はシンプルな結論に辿り着いた。
巨大な手を作ってブン殴る。
溝畑の言葉をそっくりそのまま借りる事にした。
巨大な手を作って動かし、攻撃する。今はただ、その練習に没頭している。手を作る早さと動かす速さ、どれもが半端でとても対抗戦で使える代物ではなかった。
綾瀬の胸中で焦りが湧いていた。
他の三人と比べて攻撃手段が乏しく、それを生み出すのに苦心していた。
「・・・・・・なら、オレで試せばいい」
「というと?」
「オレをサンドバック代わりにして殴りつける練習をやれ。実際に人でやる方が練習になるだろ?」
「え? それは悪いよ。痛いだろうし」
「衝撃が来るだけだ。問題ない」
綾瀬は溝畑の性格を少し理解していた。彼は一度言ったら論理的な反論をしない限り発言を撤回しない。
観念し、練習に打ち込む。
床に巨大な手を形成し、溝畑に向かって滑らせぶつける。
その速度は人の歩くスピードよりも遅く、十数秒かけて溝畑まで到達すると彼の身体を軽くこづいた。
手は役目を終えたとばかりにそこで砕け散り、溝畑は体力ゲージを見て呟く。
「一万回くらい当てたら勝つな」
「うん。分かってる」
綾瀬は俯く。速さがどうしても足りない。
「悩んでるな」
「うん。まぁね」
溝畑は倉庫からすでに綾瀬には必要なくなった空のカゴを引っ張ってきた。
何を今更と怪訝な顔をする綾瀬に溝畑は澄まし顔で答える。
「荒療治になるが、今からお前の手に速度をインプットする」
「は?」
訳がわからず思わず荒い口調になる綾瀬に苦笑しながら、溝畑は御影を呼びつけた。
「面白いじゃん。やるやるやる」
「嫌な予感しかしないよ」
御影はカゴの近くまで歩いていくと、合図をする。
「カゴの中にいつも通り手を作ってみろ」
「分かった」
上部の空いたカゴに丁度良い大きさの手が出来上がる。
「作った手に意識を集中させろ。絶対に気を逸らすな」
「うん? うん」
「じゃあ行くぞ!」
合図と共に御影がカゴを押して走り出す。
その中の手も一緒に、かなりのスピードで壁へと進んでいく。
「うわ!! なになになになに!?」
綾瀬は必死に自分の作った手が崩れないように気を保ち続ける。
やがてカゴは壁に激突し、手はその衝撃で砕け散る。
「ああなるほど。分かったよ。速さに慣れてみろって事か」
「これなら一人でも出来る。もちろん他の方法を思いつくならそれでもいいが」
「いや。これやってみるよ」
「それもよし、だ」
また一人で綾瀬は練習を始める。カゴに手を作り、押して転がす。無心で何回も連続で繰り返した。




