2章-11
中には先客がいた。彼女は並べられた机や椅子などの間を反復横跳びするように右へ左へ動く。そんな彼女をじっと見つめるのは溝畑その人だった。
「溝畑!? と、学恋さん」
荻野は慌てて二人の元へと駆け寄る。学恋は嬉しそうな、溝畑はいつも通りの澄まし顔で出迎える。
「学恋さん・・・・・・」
先の続かなかった荻野の言葉を学恋が引き継いだ。
「私、これ以外にやることなかったです」
その言葉は、荻野の心に強い余胤を残した。
「はは・・・・・・。そうか。そうだよな」
荻野は笑いながら、今度は溝畑に目をやる。
「まだ。練習に付き合ってくれるんだな」
「当たり前だバカが。・・・・・・学校に通うよりも、一人で黄昏るよりも遥かに有意義だ。それに、努力してる奴は報われるべきだ。その方が楽だからな」
溝畑の言葉の意味を上手く飲み込めずにいると、背後から扉を開く音が聞こえてきた。
「あーーーー!!!! あのくそミッドがぁ!!! 死ねぇえぇえええ!!」
耳をつんざくような雄叫びと共に御影が入場してきた誰もいないと思っていたのだろう。彼女は呆れ顔の荻野達三人と目が合うと、そそくさと引き返そうとする。
「あ。じゃあ帰るから」
「え!? ちょっと!? 待ってください」
御影が踵を返した瞬間、学恋の姿が場から消えた。
それを感じ取る暇もなく、瞬きを挟んだ先には御影のすぐそばで膝をつく学恋の姿があった。
「え!?」
御影は素っ頓狂な声をあげ、学恋は何が起きているのか分からないらしくしきりに当たりを見回している。
「すっげぇな今の。あんなとこまで飛んだぞ!」
目に見えて荻野のテンションがあがる。三人のいた場所と御影との距離は遠かったが、その距離を学恋はほんの一瞬でゼロにしてみせた。
「えっと。大丈夫? 具合とか」
「はい。・・・・・・とりあえず帰らないでもらってもいいですか?」
「ああうん」
恥ずかしさも喉元を過ぎ去ったようで御影は飄々した表情で駆け寄る。
「でも。さっきのはなんだったんでしょう」
「え? いや本人なら分かるじゃん。能力使ったんでしょ?」
「ええ。まぁ。でもあんな遠くまで飛べたのは、少なくともここでは初めてです」
「慣れたからだ。何度も練習してるうちに身体が広さや位置関係を覚え始めたんだ。だから、瞬時に飛べた」
「・・・・・・よく分かりません」
溝畑の言葉にも、学恋は煮え切らない態度で答えた。
「成長したって事だ」
溝畑は仔細を解説することを諦め、シンプルな答えを出した。
「でも今の本当にビビった。気づいたらそばにいたんだもん」
「それを対抗戦で出来るようになると、勝てる可能性が出てくる」
「それは分かります。相手が反応できないって事ですよね」
「ああ」
「御影。お前来たんだな。お前は正直もうここには来ねぇと思ってたが」
「そのつもりだったけど。ランクマッチで味方にトロールされてムシャクシャしたから鬱憤を晴らしにきた」
「トロ、なんだって?」
「それはいいから。サンドバックになってよ」
そう言って御影は能力を発動する。
「待て待て待て待て。せめてあれつけてからだ」
溝畑は狼狽える荻野から視線を逸らし開け放たれたままの扉を見つめる。




