2章-9
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「おいこれどういうつもりだ?」
極めて冷静に、しかし確固たる怒気を孕んだ低い声で溝畑は問いただした。
溝畑と学恋、綾瀬の三人は事務センターを訪れていた。その理由はつい今し方溝端の元へと届いた一通のメールが原因だった。
対抗戦選手申請結果連絡と件名に記されたそのメールには溝畑が審査に落ち、対抗戦に出場できない旨が記載されていた。
その体躯も相まって凄まじい圧力を受けた事務員の女性は大慌てで確認作業に入る。
しばらくして、ビクビクした様子で戻ってきた彼女は恐る恐る口にする。
「溝端さんは、その。六堂の生徒ではないので、六堂生として参加することができないんです」
「・・・・・・どういうことだ」
学恋と綾瀬が心配そうな目で溝畑を見つめた。
それは溝畑が激昂する事を恐れているのではなく、溝畑が対抗戦に出られないことへの不安だった。
「溝畑さんの所属は一条学園のままになっているんです。今は六堂学園にいると思うんですけど、それは一時的な措置で秋ごろには復帰出来る予定なんです」
「はぁ?」
溝畑はうろたえた。処分が下された時そんな話は聞かされていなかった。
「これは正式な措置なので、私にはどうする事も」
溝畑は絶句した。
「じゃあ。溝畑くんは、やっぱり対抗戦には出られないって事なんですね・・・・・・」
「こんな、せっかく五人集まってたのに・・・・・・」
学恋と綾瀬の口から落胆の言葉が次々と溢れ出す。
一同は事務センターを後にすると急遽帰宅した荻野と御影を呼び出し、一連の流れを説明した。
「え? ・・・・・・え? 冗談いいってば。こんな時に何言ってるのさ」
「溝畑が、出られない?」
二人は状況が飲み込めていない様子で、目の焦点が定まっていなかった。
「嘘だろ・・・・・・。え? だって。溝畑がいなけりゃ四人になっちまう。今だって、五人いたってキツイのに一番強いお前が抜けたら」
「それ以上に、不味いことがある」
御影が割って入った。
「話を聞く限りだと溝畑は秋になれば自動的に一条に復帰するんでしょ? じゃあさ」
次に発した言葉は、溝畑を除く全員の心に深く突き刺さった。
「溝畑が私達といる意味、もうないじゃん」
「・・・・・・それはどういう」
「だって、溝畑は何もしなくたって復帰出来るんだ。対抗戦で負けようが関係がない。私達に教える必要ももう無くなったって事じゃん」
「あ・・・・・・」
場が静寂に包まれた。
溝畑を除く四人が、御影の言葉を徐々に理解し狼狽始める。
「溝畑が私達に親身になって教えてくれたのは私達を強くした対抗戦に勝つ必要があったからじゃん。でも、もうその必要も無くなった。私達に価値が無くなったって事でしょ」
「そんな。・・・・・・溝畑はどう思ってるの?」
綾瀬の言葉に、溝畑は何も答えない。
「溝畑くんがいなくなったら、四人で戦わないといけないって事ですよね。・・・・・・そんなの」
「・・・・・・悪ぃ。オレ帰るわ」
荻野が踵を返して歩き出す。
「え? ちょっと!!」
「無理だ。この状況をすぐに受け入れるのは、ちょっと、色々考えてくる」
荻野が去った後で、今度は御影が歩き出す。
「私も同感。時間が必要だと思う。これからの身の振り方とか考えないと」
去り際に、御影は溝畑を見つめた。彼は平静を保ったまま何も言わずに彼女を見返した。
残された綾瀬と学恋はしばらくの間呆然と佇んでいた。
「・・・・・・ごめんなさい」
先に去ったのは学恋だった。残された綾瀬は俯いて顔を上げると、溝畑を見た。
「何も、言ってくれないんだね」
溝畑の返事も待たず、綾瀬は練習場を去った。
ポツリと佇む溝畑は一人、呟いた。
「不愉快だ。どうやら意地でも六堂を勝たせたくないらしいな」




