2章-7
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無事選手登録申請が済み、後は審査の結果を待つのみとなった五人は学園を統括する事務センターに足を運んでいた。
今日、ここで対抗戦に参加希望の選手に対する講習会が行われる。強制参加というわけではないが、年によって若干のルール変更も見られるため対抗戦に出場するほとんどの生徒が参加する。
何人もの生徒達が溝畑達五人とすれ違い、彼らは皆怪訝な顔つきで五人を伺う。
それもそのはず、学恋を除いて他の四人はみなジャージやスウェットなどのフォーマルとは程遠い服装をしていたからだ。六堂の制服を着た生徒が一人とその他。見慣れない光景なのは当然だった。
「なんか、私達めっちゃ見られてるんだけど、サーカスかなんかと勘違いしてる?」
「ここいろんな学園の人が行き来するから嫌だなぁ。早く入ろう」
野次馬を観察する御影に対して、綾瀬は早くこの場を抜け出したいらしく早足で進んでいく。
「私も制服じゃない方がよかったかもしれません。視線が・・・・・・」
「気にする必要ねぇよ。どうせあいつら、俺達のパーソナリティとか興味ねぇんだから。猿が六堂の制服着てても同じ反応をするだろうさ」
「なんか、はい。ありがとうございます」
各々悪態や不満を口にしながら、センターへと入り指定された会議室へと向かう。
荻野が扉を開くとすでに中には何人かの生徒が一まとまりになって着席していた。
彼らは溝畑達の姿を見るなりゴソゴソと何か話し始める。
「座るぞ。去年と一緒なら学園ごとに席が決まってる」
六堂学園の席は左前にあった。二人ずつ着席し余った溝畑が最後尾の席に座る。
「なぁ溝畑。講習会ってなにすんだ?」
荻野が身体を捻って溝畑の方を向く。
「さぁな」
「さぁなって。お前去年受けたんだろ?」
「寝ててほとんど覚えてない」
荻野が呆れた様子で前へ直る。
ガチャリ、とまた会議室の扉が開き五人の女子生徒が入ってきた。皆同じ赤を基調とした華やかな制服を着こなしている。
彼女達は真っ直ぐに溝畑達の方へ歩いてくると、ちょうど背後の席に並ぶ。
「あら。誰かと思えば、雛乃じゃありませんこと?」
よく通る透き通った高い声が、背後から聞こえる。
学恋はなんともいえない顔付きで振り返る。その視線は声の主である金髪ロングヘアの女子生徒に向けられていた。
「志保。貴方も、出場するんですか!?」
「ええもちろん。当然でしょう。私は優秀、なんですから!」
学恋志保は得意げに微笑む。
「下から数えたほうが早い四番目の奴が何言ってんだ? ギャグか?」
溝畑の返答に、志保を含めた五人の女子生徒達が凍りつき、鋭い視線で溝畑を睨む。
「お前それはやめろって。お前はいいけど俺達に全部返ってきちまうだろうが」
「ふ、ふぅん。良い根性してますわねあなた。最底辺の落ちこぼれの屑の分際でよく口が回りますこと」
「じゃあ黙るか」
溝畑は半笑いで答える。
それがまた癪に障ったのか、志保が罵詈雑言を浴びせるが溝畑は意に介さず言葉の代わりに大欠伸を返す。
結局志保が折れ、場はまた緊張というなの静寂を取り戻した。
「えっと。俺達の後ろにいるあいつらって」
「四獅神学園の生徒でしょ? あそこさ。女子率が異常なんだよ。だから基本的に対抗戦も出るのは女子生徒で、学園内では男子が肩身の狭い思いをしてるって話だよ」
「よく知ってんなお前」
「常識だと思うよ」
荻野は後ろをチラリと見やった。志保と目が合う。彼女はキッと鋭い目つきで応戦する。
「・・・・・・確かに、あんな奴が大勢いるんだったらそうかもな」
黙りこく学恋に対し、隣に座った御影が話しかける。
「友達? 後ろの生徒って」
「姉妹です。姉の学恋志保。私と違ってしっかりもので、それに優秀です」
「ふぅん。そんなにすごいんだ。四番目なのに」
溝畑のフレーズが気に入ったのか、その部分だけを強調していう。
「一条から五基まではそんなに差は無いです。能力が、というわけではなく待遇がという話です。それならば、わざわざ上の学園にいくよりも四獅神に残るほうが懸命です。一から友達作りをしなくて済みますし、私でもそうします」
「まぁ。それもそっか」
御影はリュックサックから携帯ゲーム機を取り出すと、電源を入れる。
「ちょっと。ここに来てゲームって・・・・・・」
「まだ始まるまで二十分あるし、いいじゃんかこれくらい。どうせ話す事も無いんだし」
「それは、そうですけど」
それから次々と他学園の生徒が入室し、時間になった。
その瞬間、机の上に音も無く一冊の冊子が現れる。と同時に床からホログラムのような色鮮やかな光の粒子が現れ、それは何かの物体を形成し始める。
「多忙なものでね。遠隔通信で失礼するよ」
粒子は人型を形成し、現れたのはスーツ姿の中年の男だった。
「私は学園統括理事長の仲谷司だ」
荘厳という言葉がよく似合う。威厳を感じさせる風貌に荻野は姿勢を正す。
「といっても私は特に講習会には関与しない。ならば、なぜ私がわざわざ現れたか、それはだね」
ホログラムが動く。仲谷理事はゆっくりと会議室全体を見渡し、その視線が溝畑を捉えたところでピタリと止まった。
「ほほう。ちゃんと五人しっかり集めるとは、やはり退学にしなくて正解だったか」
溝畑は返事を返す事もなく、かといって無視するわけでもなく無言で仲谷理事を見返す。
「沈黙は拒絶ではなくコミュニケーション。よく理解しているようだね。・・・・・・君達六堂学園に関する事だよ。人伝に聞いているかもしれないがこれはハッキリと私の口から言うべきことがらだ。
君達が、六堂学園が対抗戦に優勝すれば廃校を取り消すと言う話。あれはだね・・・・・・。まごう事なき事実だ」
「おい!! 今嘘つく時の言い方だったろ!!」
荻野の咄嗟のツッコミにも動じず、ホログラムは動く。
「正確には優勝する、もしくは存続させる価値があると証明する事だ。これは個人として、学園として、両方の意味を持つ」
学恋がホッとひとつため息を吐いた。
「というわけで六堂の諸君。講習中は話をしっかり聞いておきなさい。昨年私の話を聞かずに寝ていた君は例外としてね。それと、廃校に関して私は全く関与していない。というよりも私自身困惑している」
「なに?」
珍しく溝畑が発言した。
しかしそれには答えず、ホログラムは崩れていく。
「では、健闘を祈る。もちろんこれは全学園に対する言葉だ」
ホログラムが消え去ると、いつのまにかそこには講習を行う教師、そして機械を動かすボランティアの生徒の姿があった。




