2章-6
学恋は絶賛大苦戦中だった。連続で瞬間移動を行うのいうのは字面以上の難しさがあるようで学恋は一度跳んでは息を整え、また飛ぶと言うおよそ溝端の考えとは程遠い形になってしまっていた。
学恋が瞬間移動してから次の瞬間移動までのインターバルは十秒程かかり、リズム良くというにはいささか元のリズムがスローすぎた。
「全然上手くいきません・・・・・・」
学恋は悔しさを滲ませる。
「別にオレは最初から出来るなんて微塵も思ってない。それに前よりは成長してるだろ? その証拠に、初めの一回はミス無く飛べるようになってる」
「それは私が目標の円を一番最初から変えていないからです。回数こなせば、そりゃ出来ますよ。慣れるんですから」
「最初会った時お前はそれすら出来ていなかった。この短期間で克服したんだ。大きな成果だ」
「実感が湧きません。・・・・・・瞬間移動してから次の瞬間移動に入るまで時間がかかってしまうんです。原因は分かっています。自分と目標の位置を把握する時間が必要なんです。
ちゃんと目標を視界に収めて、完璧な準備をしてからでないと飛べないんです。アニメみたいに連続して飛んだりなんて・・・・・・」
学恋は思い詰めた様子で言葉を詰まらせた。
「このままだと足手纏いになりそうで、怖いです」
溝畑には学恋の感じている不安がよく理解出来た。
自分の能力に限界や壁を感じて成長をやめてしまう能力者の姿を去年何度も見てきた。だから彼はその対策法も知っていた。
「ちょっと来い」
学恋は頭に疑問を浮かべたまま言われるがままに跡を追う。
その先には練習を再開した綾瀬の姿があった。今まさにちょうど壁に生やした手を動かそうとしているところだった。
「綾瀬。こっちを向かなくていいから話だけ聞け」
綾瀬は背を向けたまま頷く。
「今から手を持ち上げる練習をするところだな」
頷きが帰ってくる。
「学恋を乗せてやってみろ」
綾瀬は頷き、時間差で驚きこちらを見た。
「え?」
その拍子に手が崩れ落ちる。
綾瀬は溝畑と学恋とを交互に見やると、恐る恐る答えた。
「えっと。どういうこと?」
「さっき言っただろ? 手の上に人を乗せて動かせるように慣れば移動手段になるって。自分を乗せた状態だと怖いだろうから、生贄を用意してきた」
「生贄!?」
「え!? ちょっと!?」
双方から非難の声が上がる。
「お前はだいぶ煮詰まってきて思考が固定化されてる。一度気分を変えたほうがいい。それには他人の能力を体感するのが効果的だ」
「前半部分には賛成ですけど後半は今取ってつけたでしょう!?」
「経験談だ」
綾瀬と荻野、二人の押しに弱い性格も災いし結局溝畑の提案を飲むこととなった。
綾瀬が作り出した不安定な手の上に、学恋は恐る恐る足をかける。
「痛かったり、しないですか?」
「うん。感覚が、なんだろう。あるのか無いのかよく分からない」
学恋は手に登りきると、出来るだけ小さくなろうと身体を縮こませる。
「じゃあ持ち上げてみるよ」
「は、はい・・・・・・。どうぞ」
怖がる学恋を慮りながら、綾瀬は手を持ち上げる。
「い!? おっも!!! いや、おっも!!!!」
綾瀬は歯を食いしばり、必死に手が沈まないように押し上げる。
「え? ちょ、ちょっと!! まるで私が重たいみたいな言い方やめてくださいよ!!」
学恋は慌てた様子で口にする。対する綾瀬は至極真面目な顔つきで返す。
「えっと。そうじゃなくて・・・・・・。いやでも乗ってる学恋さんが重いってことだから。・・・・・・ごめんやっぱり重い! 動かない」
「いえ分かってます。私の体重が重いという話では無く、手が持ち上がらなくて重いという話ですよね!? そうですよね?」
「つまりお前が重いって事だろ。要するに」
溝畑から追い討ちの一矢が飛ぶ。
「冗談だ」
学恋が溝畑を睨みつけると、彼は茶化すのをやめ綾瀬に向かって話しかける。
「動かないって言ってたが、どんな感じだ?」
「どんなって。・・・・・・まるで天井にぶつかったみたいに上に進まないんだ。しかもこう、ダイレクトに重みが来るんだ。まるで自分の手で持ち上げてるみたいに」
「いい兆候だ。能力が身体に馴染んで来ている証拠だ」
「それいいんだけど・・・・・・いやこれ無理!!」
学恋を載せていた手が突如破裂し、彼女は床の放り出された。
「あうっっ。いったた・・・・・・」
「ごめん」
「それは何に対してですか?」
「・・・・・・両方」
学恋は少しの間へそを曲げていたが、綾瀬が執拗に謝るので渋々了承した。
「うーん」
綾瀬は実物の自分の手をまじまじと見つめながら、空中で頬杖をつく。
「どうした? 浮かないというよりかは何か思いついた顔してるが」
「いきなり人は無理だったからさ。もっと小さい物から順番にやったほうがいいと思うんだよ」
「その通りだ。小から大へ。狭から広。基礎から応用へだ。いきなりスケールのデカいことをやろうとしなくていい」
「・・・・・・学恋さんで試したの君だよね?」
「ああ」
あまりに気持ちの良い溝畑の開き直りに、綾瀬は呆れた様子でため息を吐いた。
「私も」
学恋が先程まで使っていた練習場所を指差す。
「あの円。まずは二つにして二回飛ぶ練習をやった方がいいと思います」
「そうか。ならそうするといい」
突き放すようなその言葉とは裏腹に、溝畑は小さく笑みを浮かべた。
「・・・・・・もしかして。私達が自分で工夫するように仕向けたんですか?」
「さぁな。ただ、対抗戦で勝つ事もそうだがこれから能力を向上させていくためには自分で気づいて、考えて工夫する事が死ぬほど大事になる。結局自分の事は自分が良く知ってる。
人に頼るのはいいが、無知なままただ乗りしない事だ。何かを試して、フィードバックして繰り返す。能力者は科学者や研究者に似ている」
二人は顔を見合わせ、そしてそれぞれの練習場所へと戻っていく。
練習はその後夜、溝畑が二人を追い出すまで続いた。




