1章-3
「いよっしゃあ! 俺の勝ち! 初めて勝てたぜ!」
「負けた・・・・・・」
喜びに浸る荻野に対して、御影は表情を曇らせる。
「冷静に考えたら、攻撃前に絶対詠唱しないといけないとか弱点曝け出して踊ってるようなもんじゃん」
「まぁ。確かにな」
「ああ。これ本番でやられたら打つ手ないじゃんか・・・・・・」
気落ちする御影に声をかけたのは溝畑だった。
「そうでもない。むしろ本番前に気づけてよかっただろ? 対策できる」
「それは。そうかも知れないけど、対策ってどうすんのさ。耳栓でもするの?」
負けた事で鬱憤が溜まったのか、生徒が教師に反抗する時のような攻撃な態度で御影は言う。
「簡単な方法は二つだ。うち一つはさっきの試合中に出来たはずだ。・・・・・・お前銃の能力も持ってただろ。切り替えてそっちを主軸にすればよかっただろ? あれには詠唱は必要ないからな」
「あ・・・・・・」
御影は不意を突かれたかのような気の抜けた声をあげた。
「確かに。そういやお前鉄球ばっか使ってたな。最初会った時は銃使ってたじゃねぇか」
「それは。鉄球の方が強いから・・・・・・」
「さっきので分かったはずだ。鉄球の能力は強いが明確な弱点がある。逆に銃の能力は一発一発の威力は微々たるものだが、発動に条件がない。
二つの能力を組み合わせて、時と場に応じて臨機応変に使い分けろ。お前の能力の真骨頂は対応力だ。今はまだ二つしか能力が使えないがそのうち増やせるはずだ。今からやり方を覚えておけ」
「分かった・・・・・・。分かったよ!!」
御影は投げやりに言うと、その場に胡座をかいた。
「もう一つ方法があるって言った。それは?」
「なに簡単な話だ。言うだけならな」
「もったいぶるな」
「詠唱を短くする。文章じゃなくて単語にする」
「あぁ。さっき言ってた長ぇポエムを削るって事な」
「ポエム言うな!! ちゃんとゲームのキャラがそのセリフを喋ってるんだから!」
溝畑はホワイトボードを運んでくると、ペンを手に何やら書き始める。
『治安を乱す下界の屑どもが、砕け散れ』
「こんな感じだったな。お前の口上は?」
「書くな。恥ずかしい」
「こうしてみると、結構ややこしいな」
荻野は珍しいものを見る目でボードを見つめる。
「理想はこうだな」
溝畑は文字を消していく。そして最終的に残ったのは
『砕け散れ』
「いやおい。原型ないじゃんか! これだけで出来るわけが」
「口上を使うのは、より明確に能力の挙動をイメージするのに役立つからだ。役立つってだけで必須じゃない。
極論を言えば一言も言葉を発さなくても頭の中に確固たるイメージを持っていれば無言での能力発動は可能だ」
だが、と溝畑は続ける。
御影は何か物申したいような顔で溝畑を睨みつけたが言葉をグッと飲み込み、彼の言葉に耳を傾ける。
「ゲームのスキルから取ったなら、口上と能力は関連づけて記憶されているはずだ。無言で発動は難しいだろう。だから一番記憶に残る部分、最後の一部分だけ残す。
この四文字だけなら、相手に叫ばれて気を削がれてもなんとかなるはずだ。もちろん口上を言い切ったところで頭が余計な事に注意を持っていかれると不発に終わるがな」
「・・・・・・とりあえずやってみる。多分出来ると思う」
御影は静かに立ち上がると、小さく短くなったその口上を繰り返し唱える。
「砕け散れ砕け散れ砕け散れ」
「呪詛みてぇだな」
「砕け散れ荻野砕け散れ溝畑」
「おい!」
再び二人は位置につく。
「荻野。お前は何もするな。叫ぶのもダメだ」
「って事はひとまずプレーンな状態で上手くいくか試すって事だろ?」
「ああ」
「よっしゃ。いつでもいいぜ!」
荻野は両手を大きく広げて合図する。
御影はそれに呼応するかのように準備に入る。手を荻野に突き出し、叫ぶように口にする。
「砕け散れ!!」
御影の手から巨大な鉄球が飛び出す。が
「うおっ!!」
それは発射された直後に弾け、黒い破片が四方八方に飛び散る。荻野にいくつか直撃したが、ダメージはそこまでのようで彼はすぐに立ち上がると不思議そうに御影を見つめた。
「ん? なんで弾けとんだんだ?」
「ああうん。これ私原因わかった。多分砕け散れって言った瞬間に頭がその、砕け散った光景を思い浮かべちゃったから」
「ああ。言葉に釣られたのか。考えただけでも影響が出るってのは、結構ナーバスなんだなお前の能力」
「いや。次は出来そう。実際短縮しても鉄球自体は出たんだし。上手くいきそう」
「溝畑様々って感じか」
当の溝畑は、真顔のまま二人に続けるように促す。
「続けるか? 休憩でもいいぜ? 結構ぶっ続けだろ?」
「いや。やる。こういう疲れてる時の方が余計なこと考えなくて良さそうだから」
時間にして一時間弱。二人は練習を続けた。
その結果。
「・・・・・・砕け散れ!!」
「避けれ、ない!! 無理!!」
御影は短縮された口上を見事自分のものとしていた。初めは数回に一回ミスが起きていたが今はすっかり使いこなせるようになっていた。
荻野の荻野で、慣れてきたのか御影の能力発動前の動きや鉄球の挙動を見て、ある程度回避できるようになっていた。
風を足裏に纏わせて少しだけ回避距離を稼いだり咄嗟に地面に風を叩きつけて方向転換したりと二人とも何回も手合わせする内に柔軟な考え方が出来るようになっていた。
「時間だからここまでだ」
溝畑からストップがかかる。荻野はやりきったようなスッキリした顔付きだったが、御影はまだ足りないようで不満な様子で溝畑を睨んだ。
「私や荻野は自宅だとあんま練習出来ないんだけどなぁ〜」
わざとらしく言う御影に対して溝畑は涼しい顔で答える。
「なら寝ろ。寝て明日万全な状態で来い。それも大事な事だ。後、銃の練習なら出来るだろ。狭くていいから人の寄りつかない場所で練習すればいい」
「研究区の近くとか行ってみろよ! 多分いないぜ」
「そこまでするくらいならゲームする」
「・・・・・・なぁ溝畑。俺にも御影みたいに。具体的にどうすればいいか教えてくれねぇか」
荻野の言葉に、溝畑は少し逡巡した後答えた。




