2章-2
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「荻野はさ。いつ自分の能力に気がついた?」
「なんだその質問」
練習場の真ん中で、荻野と御影の二人は練習に励んでいた。
そこまで広いとはいえない練習場のキャパシティと学恋が放課後からしか参加できない事も鑑みて、時間を分けて二人一組で鍛錬を積む事となった。
荻野と御影が午前から夕方まで、学恋と綾瀬がその後といった具合だ。何故か通学をやめない学恋と、ある程度自宅でも練習出来そうな綾瀬が組まされたのは必然だった。
溝畑はというと基本的にいつでも練習場にその姿を置いていた。放任主義ではあるが必要なことは適宜教え、たまに実験台にもなった。
「いいじゃんか教えてくれてもさ。減るわけじゃないし」
「まぁ。そんな面白い話でもねぇぞ」
「聞く聞く」
まぜそこまで前のめりな態度なのだろうと荻野は訝しんだが、切り替えて話を始める。
「俺小中高と野球やってたんだよ。ポジションはピッチャーで。そこそこ球は早かった」
「あー。うん。なんか分かる。そこはかとなくそんな感じあった」
「で。中学の時、二年だったかな。秋の市大会の決勝戦。勝てば県大会まで繋がるって場面で出場した。こっちがリードして最終回の相手の攻撃。抑えれば勝ちだがツーアウト満塁のピンチだった」
「オチが見えた気がする」
「絶対に抑えたかったんだろうな。体に力が入って、投げたボールの周りに急に風がまとわりついて、とんでもない威力のボールが放たれた。
・・・・・・ボールは誰も取れずに、キャッチャーと審判を吹き飛ばした挙句後ろの壁面に大穴が空いた。反則投球で没収試合。チームは負けた」
「それはまぁ。苦い経験かも」
「野球はそこですぐにやめた。自分の能力をコントロールする自信が無かったからな。仲間に迷惑はかけらんなかった。けど、能力者っていう新しい道が開けて、複雑な気持ちだった。まぁこんなところだ」
荻野は手に風の球を作って虚空へと放つ。それは数秒と持たずに散っていく。
「そっか。能力を得るよりも、野球続けたかった? 野球というか部活?」
「どうだろうな。どっちとも言えねぇ」
「・・・・・・続きやる?」
「ああ」
二人は立ち上がると、またいつもようにお互いに距離をとって向かい合う。
内容はとてもシンプルだ。対抗戦本番を想定して戦う。終わったらそれぞれフィードバックをして、また戦う。
既に何回か手合わせしている二人だったが、勝率は御影の全勝だった。
「・・・・・・砕け散れ!」
長い詠唱とともに御影の手から巨大な鉄球が飛び出す。荻野はそれを交わそうとするが、避けきれずに腕や足にダメージを負う。
ならばと荻野も作り出した歪な風の塊を御影へと放るがそれはデタラメな軌道を伴って彼女から遥か遠くの壁へと着弾する。
練習場を覆うほどの巨大な風の塊を作ろうとしても回避しながらでは途中で風が散ってしまい、止まっていると御影の攻撃をもろに食らってしまうため、お手上げといった状態だった。
決着はすぐについた。HPバーが全て吹き飛んだ荻野に対し、御影はほぼ無傷だった。
「お前ずりぃぞ!! 反則だろ!」
「・・・・・・雑魚じゃん」
御影は鼻で笑って挑発する。
自分の不甲斐なさに焦る荻野とは対照的に御影は着々と自信を持ち始めていた。
彼女が鉄球を放つとき、ある事をすると発動までの時間が短縮される事に気がついた。それはシンプルで、詠唱を早口にする事だった。
別にハッキリと言わなくても能力は発動した。大事なのは頭に具体的にこれからどんな能力を使うかをイメージする事だった。
「もう余裕」
「くそっ! 別に仲間が強いのはいい事なんだけどよぉ。釈然としねぇ」
「荻野」
傍から二人の様子を見ていた溝畑が割って入った。
「お前。あいつの鉄球を出す能力を見るのは今日が初めてだったな」
「ああ」
「こいつの銃を出す能力と鉄球を出す能力。大きな違いがあるが、分かるか?」
「違い?」
荻野は必死に思考を巡らせる。
「能力の種類とか挙動とか、そういうミクロ的なものじゃなくマクロ的な違いだ」
「・・・・・・声か?」
荻野の答えに、溝畑は頷く。
「そうだ。鉄球を放つ時、あいつは絶対に決められたワンフレーズを口にしてるだろ? カードをスキャンして能力はもう起動済みなのにもかかわらずだ。
あいつが鉄球を放つ時には絶対にそのフレーズを口に出さないといけない。だから連発は出来ない。じゃあなぜ声に出す必要がある?」
「いや、そりゃあれだろ? カッコつけ、厨二病っていう奴じゃ」
「なわけあるか!」
御影が勢いよく返答する。
「理由は、能力発動に必要不可欠なものだからだ。もしあの長ったらしいフレーズを言わなかったら、鉄球は真っ直ぐに飛ばない。それどころか発動すらしないかもな」
「条件になってるってわけか」
「逆に言えば、こいつに鉄球を撃たせたくなかったら、詠唱の邪魔をしてやればいい。やり方は、自分で考えろ。
本来は対抗戦で未知の相手に対して試合時間内にこの分析をやらないといけない」
「とりあえず、邪魔すりゃいいんだな。よし。もっかいだ!」
「えぇ。なんかネタバレされたみたいで嫌だなぁ」
御影は渋々位置へとつく。
プロテクターが開始を告げる電子音を出し、御影はすぐさま能力を発動する。カードをスキャンし発射態勢に入る。
「治安を乱す・・・・・・」
それに呼応するように、荻野は大声で叫んだ。
「ああああああああああああああ!!!!」
「下界の・・・・・・うわっ!!」
声量の大きさに集中を乱されたのだろう。御影は咄嗟に、反射的に詠唱を止めてしまった。その隙に、荻野は後ろ手に溜めていた風を御影に放り投げる。
「あぐっ!!!」
それは御影の肩にクリーンヒットし、彼女がよろめいた。
「大声出してこっちの気を散らすとか、ずっる」
「・・・・・・そりゃそうか。詠唱しなきゃ使えねぇならその邪魔をすればいいだけの話か。いやぁカン違いしてたぜ。ちゃんと意味あったんだな、そのイタい口上には」
「うるさい!! この卑怯者が!」
その後の展開はまるで同じだった。なんとか鉄球を放とうと苦心する御影とそれを全力で妨害し隙をついて小さなダメージを与えていく荻野。
結局軍配は、時間切れまで声を枯らし続けた荻野に上がった。




