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Bad Beats!!  作者: 明日在華
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2章 前途多難


 溝畑才志は繁華街に足を運ぶ。あの後、結局一同は解散するところとなった。溝畑に夕方から予定が入っていた事、一度気持ちの整理をつけた方が良いと考えたことが理由だった。


 御影は不満そうだった、というより約束を反故にされた事にイラついていたが明日朝一に付き合うという条件の元渋々了承した。


 そもそもこの予定が舞い込んだのは今日の昼頃だった。あの事件以来ほとんど通知の鳴らなかったスマホが初めて責務を果たしたのだ。


 夕食には少し早い午後5時半頃。溝畑は個室のある料亭に足を運び、待ち人のいる座席へと向かう。


 横開きの扉を開けると、先に座っていた恰幅の良い青年がこちらに手を振る。


「おお!! 久しぶりじゃな!」


 青年はにこやかに微笑むと、溝畑に向かいの席に座るよう促す。


 彼こそ溝畑の友人であり、秘密の共有者でもある。


 名前は熊谷宗介。一条学園に所属する生徒だ。


「なに頼む?」


 熊谷はすぐそばに貼ってあるお品書きに目をやる。


 溝畑は真っ先に目についたものを注文し、ひと段落つくと熊谷はおしぼりでその大きな手を拭く。


 恰幅のいいといっても太っているというわけではない。筋骨隆々などの身体はラグビーの選手のようで筋肉質といった方が良いくらいだ。


「・・・・・・今どうなってる?」


 低いトーンで溝畑は問う。


「心配ない! おおかたはお前さんの予想した通りになっとる。あいつも楽しく過ごしてる」


「そうか。ならいい」


「お前さんは、その。元気か?」


「身体的には。精神的にって意味なら微妙だな」


「そうか。それは」


 熊谷が言葉に詰まる。その様子に溝畑は舌打ちした。


「おい。あれはオレの責任だ。お前が気に病む必要はない」


「分かっちゃいるが、簡単にはいかん」


 注文していた料理が運ばれ、二人は黙って手を合わせる。


「六堂が、廃校になるんじゃったな」


「ああ」


「・・・・・・ううむ」


 熊谷は唸った。その体躯とは裏腹に溝畑の前ではまるで借りてきた猫のように萎縮してしまう。


「オレが、ただ黙って見てるだけの人間じゃないって事は知ってるだろ?」


「じゃが、廃校はどうしようも出来ん。いくらお前さんでも」


「そうじゃないらしい」


 溝畑は学恋に初めて会った時聞かされた内容を熊谷に伝えた。対抗戦に優勝すれば廃校が取り消されるという事を。


 話を聞いた熊谷は憐れむような目つきで溝畑を見た。


「お前さんそれは、マグマの中のダイヤモンドを手掴みするようなもんだ。不可能だ。ただのパフォーマンスだ」


 熊谷は熱い茶の入った茶筒を一気にあおった。


「大体メンバーなんぞ集まらん。勝つ以前の問題じゃ」


「メンバーなら揃ってる。今日揃った。どうやらまだツキが残ってるらしい」


「・・・・・・わしからは頑張れよとしか言えん。が、出来ることがあればいつでも呼んでくれい。お前さんには一生かかっても返しきれないほどの借りがある」


「オレはお前の方もかなり心配だがな。仲良い奴はオレくらいだっただろ。同性は。しかもそいつが暴力沙汰で左遷だ」


「最初の頃。お前さんと出会う前に戻っただけじゃ。心配はいらん。・・・・・・ただ」


 熊谷の顔が沈む。


「あいつともう気軽に話せなくなったのは、寂しくてな」


「そうか。・・・・・・いつか。記憶を戻しても彼女が無事でいられる日がきっと来るはずだ。時間が必要だ。オレ達には。だろ?」


「無論だ」


 溝畑の問いかけに熊谷が大きく頷いて返した。


 熊谷の能力は人の記憶を消す事だ。その能力を使って、三ヶ月前二人はとある騒動を起こした。溝畑の暴力沙汰もそれに関連するものだ。


 暴力事件の方が明るみに出た事によって溝畑だけが処分を受ける形となった。しかし、表に出ない重大な秘密を二人は抱えている。


「それに。久しぶりに会ったんだ。色々聞かせろ。オレが抜けた後の学校生活とかな」


「つまらん話しかない。味をつける前のかき氷のような」


「誰が話すか、が大事だろ? 聞かせろよ。ここ三ヶ月ほど世間と隔離されてて何も知らない」


 熊谷は渋々、溝畑にここ最近の総合運動都市の動向を伝えた。


 その話の中で、溝畑の探究心をくすぐるものがあった。


「六堂の生徒が消えてる? 冗談だろ」


「わしにも仔細は分からん。が、学校に行かなくなってから連絡のつかない奴が何人かいる。わしは人伝に聞いただけだが、どうにも消息が掴めんようになっとる」


「蒸発してここから出ていっただけだろ?」


「お前さんなら分かるだろ。能力者は自分が能力者である事にプライドを持っとる。例え廃校になるとしても、ここから出ていくとは考えられん。そんなやつはそもそも六堂に落ちた時点でやめておるわい」


「人為的な理由か?」


「人伝と言ったろう。なに、ただの噂話。頭を使う必要はなかろう」


「だな」


 二人はしばらくの間、たわいない話を繰り広げた。


 三ヶ月前。溝畑が事件を起こす前と同じ光景がそこには広がっていた。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、食事を終えた二人は店を出た。


「じゃあわしは帰るわい」


 時計を確認すると、熊谷が言う。


「今日も十時寝か?」


「変わっておらん! 寝るのが一番の楽しみなもんでな」


「じゃあな。久しぶりに会えて、後元気そうでよかった」


「おう! ではな」


 溝畑に背を向け歩き出す熊谷。その背中を、溝畑が呼び止めた。


「おい!」


「ん?」


「頑張れよ」


 溝畑の言葉に熊谷は一瞬目を見開いた。


「お前さんもな。親友が去ると目覚めが悪くなるからな」


 そう言い残して、熊谷の姿は街へと消えていった。


 溝畑はしばらくその背中を見送っていたが、やがて我に帰ると歩き出す。


 自宅までの帰り道。電車の窓から見える小さい明かり。


 研究区の建造物から放たれるそれは、夜の暗さも相まって酷く不気味に感じられた。


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