1章-36
「そういえば、メンバーが揃ったみたいな事言ってたけどあと一人は?」
「学恋なら、あと少しで来るだろ。あいつまだ律儀に学校通ってんだよ」
「えぇ、意味あるそれ?」
「さぁな。俺はバカだと思ってるけどな!」
「誰がですか?」
急に背後から聞き覚えのない声が聞こえ、綾瀬は身震いした。振り返ると、またもや初見の女子生徒の姿があった。
綺麗に整えられたベージュ色の髪が特徴的で、その出で立ちに綾瀬は少しの間彼女に釘付けになった。
「お疲れー。学校で過ごした時間全部無駄だから無駄な努力だけど」
「え。なんで来てそうそう貶されないといけないんですか? 貴方こそ今日何してたんですか?」
二人のトラッシュトークに溝畑が割って入る。
「勧誘の成果は?」
「ダメに決まってるでしょう・・・・・・。あの人は嫌いです」
「まぁメンバーは揃ったしいいか」
「え!? 揃ったんですか!?」
学恋はキョロキョロと二周ほど辺りを見回した後、綾瀬に気が付いた。彼女は綾瀬の側まで近づくと軽く頭を下げた。
「学恋雛乃と申します。これからよろしくお願いします」
「ああうん。・・・・・・そんなに探さないと見つからないんだ。僕って」
「いえ。そんな事は」
二人の間に空白の時間が生まれる。
それを打破したのはまたしても荻野だった。
「色々あったけど、とりあえず五人揃った! 揃ったよな? 俺、御影、学恋、綾瀬。・・・・・・あれ?」
「一番大事なの忘れてるじゃん。溝畑が入って五人、これでちょうど」
「そうだった。元一条だったから忘れてたわ」
「まぁでも。そうですね。ギリギリ間に合いました。少なくとも試合をして、負ける事は出来そうです」
三人は安堵の表情を浮かべた。しかし、他の二人はそれぞれ別の面持ちを浮かべていた。綾瀬は不安と緊張。そして溝畑は何か深く考えるように顎に手を当てた。
「五人揃ったが、逆に言えば五人しかいないって事だ。誰かが怪我や病気になっても他のメンバーに入れ替える事は出来ない。
ここに五人で最後まで戦うしかない。誰かが抜けたりした瞬間全員が終わる。一蓮托生だ」
五人それぞれが、それぞれの表情を伺う。
綾瀬は感じていた。やっぱりやめると断るチャンスは今が最後だ。今ならまだ間に合う。
ここで参加してしまったらもう途中でリタイヤは出来ない。
綾瀬は口を開こうとした。しかし、それを遮るように荻野が話し始めた。
「よそうぜ。必要以上に真面目になるのは。宝くじを買う感覚でいいんじゃねぇか? 負けたら負けたで仕方ねぇし、勝ったらラッキーくらいでいいだろ?」
「でも負けたら能力者じゃなくなるんですよ」
「ああ。だけどだからといって過度にプレッシャーを背負ったりする必要は無いだろ? 考えてもみろよ。そもそも最初は出られるかすらも怪しかったのに五人揃ったんだぜ? それだけでもう優勝したようなもんだろ」
荻野は早口で捲し立てた。それに呼応するように場の空気が穏やかになっていく。
「というか俺最初一人だったんだからな!! 勧誘してもみんなソッポ向きやがるしよ! メンバー集まっただけで奇跡みてぇなもんだ」
「ああうん。それは心中お察しって感じで」
御影が軽口で宥める。
「だから、俺は対抗戦に出られる、それだけで充分だ。別に初戦で負けてもいい。能力者じゃなくなるのは辛いが後悔はしねぇよ」
それに、と荻野は綾瀬に視線を送る。
「多分自発的に参加してんのは俺、と溝畑くらいだ。他の奴らは無理矢理連れてきたようなもんだ。だから、責任とか感じなくていい」
御影と学恋は顔を見合わせた。そして二人は大きく頷いた。
「よし! じゃあ負けたらお前のせい!」
「は?」
「そうですね。何か奢ってもらいましょう」
茶化す二人に荻野は複雑な様子を浮かべる。
その明るい雰囲気に自然と綾瀬の口も動いていた。
「じゃあ。結局やり損なったし。・・・・・・負けたら君を殴る事にするよ」
綾瀬は小さく笑った。
「俺はサンドバックじゃねぇよ!!」
こうして、対抗戦に出場するメンバーが揃った。
荻野風真。
学恋雛乃。
御影奈緒。
綾瀬和斗。
そして溝畑才志。
決められた運命に抗う少年少女達の戦いは、すぐ側まで迫っている。




