1章-30
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時刻は午前13時過ぎ、目立たない暗い色の服を着て荻野風真は繁華街に繰り出した。
これまでの失敗を踏まえ、もう学校周辺では人員募集は行えない判断し、あえてこの時間に街へと訪れたのだった。
当然生徒達は学校があるため繁華街にいるのはスーツ姿の男性や作業員などの大人が大半で、荻野は異質な存在だった。
荻野は道の端に立ち、しばらく考え込む。
来てはみたものの特に行くあてはなかった。登校していない六堂生の内の一人でも見つかれば御の字と思い、荻野は散策を始める。
中途半端な時刻にも関わらず、それなりの数の人間が荻野を追い越していく。
ゲームセンター、レンタルショップ、バッティングセンターと各地を巡ってみるものの中はもぬけの殻だった。
冷やかしに思われないよう新作のブルーレイを買い20球ほどバッドを振り回し、擦れた手をプラプラさせながら荻野は繁華街には似合わない格式ばった建物に遭遇した。
「図書館かこれ。でっか」
中に入ると、受付の女性が声をかけてくる。
「入館証はお持ちですか?」
「入館証? いや、持ってね、持ってないです」
咄嗟に取り繕う荻野をよそに女性は奥から用紙とペンを取ってくると、カウンターに並べる。
「利用には入館証の作成が必要になります。こちらに必要事項の記入をお願いします」
荻野は記入を済ませ、入館証を受け取った。
図書館は三階まであり一階は受付とロビー、二階が蔵書、三階が新聞や論文のコーナーになっている。
各階には自由に使えるスペースがあり、本を読む人や勉強する人、パソコンで動画を見ている人などそれぞれが互いに干渉しないよう自分の作業に没頭しているようだった。
荻野は所狭しと並ぶ蔵書などそっちのけで、自分と同じ学生がいないか目を凝らす。
時折他の人と目が合い気まずい思いをしながらも二階から順に人探しを続ける。
そして見つけた。
見るからに大人とは思えない幼顔の青年。茶髪に黒縁メガネの彼は机に向かい真剣な表情で何かを書いている。
幸いにも彼の周りに人はほとんどいなかったため荻野は彼の隣の席に陣取った。
荻野が腰を下ろすと青年は驚きと困惑の様子で振り向いた。他にも座る場所はあるのに何故?といった様子だ。
「学生だろ? サボりか?」
まるで非行少年を咎める警官のような口ぶりで荻野は問いかけた。
「何なの急に? 怖いよ。君」
「別に告げ口とかしねぇよ。ただ聞いてるだけだ。どこの学園だ?」
「言わないよ。本当に何? 僕何かした?」
青年の怪訝な顔つきはさらに厳しくなった。彼は今にも立ち上がりそうな雰囲気を出しながら荻野に詰問する。
「あー。いや。これは俺が悪いな。ハッキリ言うわ。俺は荻野風真。六堂の生徒で対抗戦に出てくれる仲間を探している。お前に学園名聞いたのはつまりそういうこった」
青年の表情を変わらなかった。しかし納得はしたようで、荻野の姿を見やると机に視線を戻す。
「悪いけど。力になれそうにないよ。帰って」
「まぁそうか。そんな都合よくはいかねぇか」
荻野は椅子から立ち上がった。
「邪魔したな」
「うん」
「最後に、どこの生徒かだけ教えてくれよ」
「なんで? どうでもいいよそんなの」
荻野は彼の答え方に違和感を覚えた。まるで大事な秘密を隠すかのような口ぶりだ。
「やけに渋るな。・・・・・・さてはお前」
「違う」
「言わないなら、言うまで待とう」
「待たないで。帰って」
「聞いたら帰るさ」
荻野はいじらしい笑みを浮かべた。青年は観念したのか、心底不愉快そうな顔付きで答える。
「同じだよ。君と。それだけ」
「じゃあ対抗戦に」
「出ない。しつこいよ君」
「頼む! もう八方どころか十六方くらい塞がってる。もう時間もないんだよ!!」
「だったら他を当たってよ!! 邪魔しないでくれ!!」
語気が強まるにつれ二人はどんどんとヒートアップしていく。しかし静かな図書館内でそんな愚行が許されるはずもなかった。
「大声を出すなら外でお願いします」
司書の突き刺すような視線に気圧され、二人は撤退を余儀なくされたのだった。
「悪かったって。待ってくれよ!!」
青年は荻野の事などお構いなしにずんずんと前へ進む。
「いい加減消えてもらってもいい?」
「お前が出るっていうまで引っ付くからな」
「気持ち悪いよ!!」
「何とでも言え! もうなりふり構ってる余裕は無ぇんだよ!!」
荻野の必死の様子に青年は青ざめた。振り切れない事を悟ると、足を緩める。スマホを取り出して呟く。
「警察呼んでもいい?」
「・・・・・・」
「なんで? みたいな顔しないで」
「ダメならダメって言ってくれ。そしたら諦めるからよ」
「さっきから何度も言ってるだろ!!」
青年はスマホを持つ手を振り上げた。その拍子に彼の手からスマホがすっぽ抜け、弧を描きながら道脇の溝へと入り込んだ。
「「あ」」
二人は慌てて駆け寄る。幸い浅い溝に落ちただけだったが問題は溝にはまった格子だ。隙間に人に手は入らない。かといって持ち上げようとしても
「んぎぎぎぎぎ」
「それボルトではまってるから無理だと思うよ」
まるで歯が立たない。
幸い空は晴れており雨で流される心配は無いが、人を呼ぶにも時間がかかりそうだった。
にもかかわらず青年は顔色一つ変えず、辺りを見回すとその場にしゃがみ込む。
「持ち上げる気か? 無理だぞ」
「黙ってて。気が散る」
有無を言わさぬその一言に、荻野は黙ってて行く末を見守る事にした。




