1章-3
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翌日、溝畑は早めに寮を出た。通学路に生徒の姿はほとんど見えず閑散としている。
立地の都合上六学園の生徒は皆一緒の通学路をしようするためピーク時には行列が出来上がる。去年地獄を思い知ってからは多少早起きしてでも人の少ない時間帯を選ぶようにしている。
特にトラブルもなく無事六堂学園までたどり着くと、正門には既に先客がいた。
「溝畑君? 早いですね。まだ七時半過ぎですよ?」
驚いたような顔つきで学恋がこちらを見ていた。どうやらまだ正門が開いていないようで本を片手に時間を潰しているようだった。
「おはよう」
「意外と、石橋を叩いて渡るタイプの人なんですね。私はクラスのカギを空けないといけなくて」
「クラス委員か。じゃあ急げよ」
そう言って溝畑は正門を飛び越えると内側から鍵を開けた。
「え。ちょっと!!無断で開けたら怒られますよ?」
「じゃあ閉じておくか?」
「そこじゃないです!!」
「お前はなんで突っ立ってるんだ? 門開いてるだろ」
「え・・・・・・。なんで私が馬鹿みたいな感じになってるんですか?」
「正門くらい開ければいいだろ。大体生徒ですら簡単に飛び越えられる門にセキュリティ意識なんて無いだろ。オレ達は生徒だ」
学恋は納得がいっていない様子だったが、正門が文字通り開いているのにくくらず立ち往生する自分が余程滑稽に見えたのか、本を鞄にしまい込むと渋々歩き出した。
「オレのロッカーはっと。どこだよ」
「一番最後、40番です。転入生は最後尾のロッカーを使う事になっています」
「どうも」
「鍵取ってきますから、教室で待っていてください。場所分かります?」
「あっちだろ?」
「そっちは体育館です。・・・・・・目の前の階段を二階に上がって右に曲がって突き当りの一組です」
二年一組の教室は特に何の変哲もないありきたりなものだった。黒みがかった緑の黒板、木製の机と椅子。いくら六堂学園とはいえ教室内が荒れているわけではなさそうだ。
「対抗戦について、ね・・・・・・」
黒板の隅に貼り付けてあった書類に目をやる。氏名、能力名を記載する申込書と制限にかかっていないことの証明や規約を守ることを誓う宣誓書がひとまとめにされている。
溝畑は一束手に取ると自分の席へと戻り、HRが始まるまで、早起きの代償を清算すべく深い眠りに落ちた。
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「今日から、いえ。正確には昨日からですね。本校に転入する事となりました。溝畑才志くんです。溝畑くん。簡単な自己紹介をお願いしますよ」
担任の旗野に促され、溝畑は一歩前に踏み出しクラスメイトとなる生徒を見回す。教室内に生徒は半分ほどしかいない。空席が目立ち、虫食いのようになっている。
新学期から少しズレた時期での転入生に皆一様に怪訝そうな表情を浮かべている。それもそのはず。この微妙な時期に転入してくるという事は他の学園で問題を起こし、半ば追い出される形で六堂学園に来たという事に他ならないからだ。
「溝畑才志です。よろしくお願いします」
当たり障りのない挨拶を済ませると、ホッと胸を撫で下ろす。
旗野に促され席に戻ると、ちょうど隣に座っていた顔見知りが耳打ちした。
「よお。ちゃんと学校来るんだな。なにか分からない事があったらいつでも聞いてくれ。あと、今日放課後練習場にいるから、余裕があったら来てくれ」
「考えとく」
溝畑は頷くと改めて周りを見回す。溝畑の席は窓際の一番後ろであるためクラス中の様子が俯瞰しやすい位置だ。
新しい環境での学園生活に思いを馳せる事はない。ただ大人しく、川の流れのままに進む砂のように受け身で過ごすだけだ。
放課後になり、約束していた通り練習場へ向かおうかと考えていたクラス前の廊下で学恋の姿を見つけ、先に用事を済ませておくことにした。
「これどこに出せばいい?」
学恋は提示された書類と溝畑とを交互に見回し、驚きの様子で呟いた。
「え? ・・・・・・いいんですか? 昨日は微妙な反応だったのに」
「いちいち詮索しないでくれ。気が変わることもある」
「助かります。・・・・・・私が出しておきましょうか?」
「じゃあ頼んだ」
溝畑は書類を押し付けるように学恋に渡すと、去っていく。
取り残された学恋はため息を一つ着くと、書類に目を通す。
「どうにかなるんでしょうか・・・・・・」




